第441話 『 命知らずな宣戦布告 』
「……」
「……」
……俺と龍二はブラドールと対峙する。
(……凄まじい威圧感だな)
――これが神、全知全能の化身。
(……だが、俺は退く訳にはいかないんだ)
それが例え神が相手だとしても、俺は一歩も退くつもりはなかった。
「単刀直入言わせてもらう――俺と勝負してくれないか」
「……」
俺の挑戦にブラドールは少し考える。
「その勝負に俺が乗る利益はあるのか?」
「たぶん、無い」
「……無いのか」
考え無しな俺にブラドールが呆れた。
「俺があんたに与えられるものなんて、あんたにとっては創造すれば簡単に手に入るものしかないからだ」
……ブラドールは神だ。神に交渉なんて不可能であろう。
何故なら神は何でも創り出せるし、何でも手に入れることが出来るからだ。
そんな奴に交渉をしたって蹴られるのが関の山であった。
「だが、〝暇潰し〟ぐらいにはなるかもな」
「……〝暇潰し〟だと」
そう、ブラドールは退屈していたのだ。退屈していたからこんな馬鹿みたいな〝ゲーム〟をしていたのだ。
「そうだ、あんたが今〝ガイド〟や〝ジャック〟とやっているように、俺とも賭け事をやってくれないか」
俺の挑戦に理なんて何一つ有りはしない。
出来ることと言えば、ブラドールが食い付きそうな餌を撒くだけである。
〝暇潰し〟。
〝ゲーム〟。
〝賭け事〟。
……これが俺の撒いた餌だ。
(……ブラドールは恐らく、暇をもて余していて、ゲームや賭け事が好きな筈だ)
その餌に食らいつくかどうかは、完全にブラドールの気紛れ、神の気紛れに引っ掛かるかに懸かっていた。
「気負う必要はない、これはただの〝ゲーム〟だ。矮小な人間が持ち掛けた小さな挑戦だぜ」
俺は遠回しに煽る。何でもいいからブラドールの関心を惹く必要があったからだ。
「頼む、俺と勝負してくれっ」
最後にだめ押しで頼み込んだ。
「……」
ブラドールは少しだけ考える。
「――わかった。その勝負、受けて立とう」
……そして、静かに頷いた。
(……それでこそ神様だ)
気紛れで、自由奔放で、快楽主義……だが、これで土台はできた。
「ルールはお前が決めろ、どんなルールでも俺は敗けん」
……圧倒的な自信。自分が敗けるとは一ミリも思ってはいなかった。
「ルールなら既に考えていたからそれでいいか?」
「何でも構わんと言っただろ、早く言え」
そう、俺はジェノスからこの〝ゲーム〟のことを教えてもらったときから、やりたかったことがあった。
「 あんたを一発殴る、それが俺の勝利条件だ 」
「……」
「そして、あんたは俺を殺す、それがあんたの勝利条件だ」
俺が死ぬか、ブラドールが殴られるか……これが俺が提示するルール。
「あんたが勝ったら好きにやりたいことをやればいい! だが、俺が勝ったら!」
これは神への挑戦。
「 この馬鹿みたいな〝ゲーム〟に関わった奴等に、望む未来を寄越しやがれっ……! 」
……俺からの宣戦布告であった。
「……」
「さあ、答えろ! ブラドール=ヴァン=リローテッド!」
「……うむ」
言及する俺にブラドールは静かに頷く。
「 それで構わない 」
……こうして、運命の戦いが幕を開けるのであった。




