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第38.5話 『 修業開始 』


 「 特異能力、解放 」



  極  黒  の  侵  略  者



 ……俺は、俺から半径数メートルを真っ黒に染めた。


 「レイー、リンー、準備いいぞー」


 俺は極黒の外にいるレイとリンに修行開始を促した。


 「りょーかい」

 「じゃあ」

 「遠慮なくやるね」

 「ふふふっ」

 「おう」


 ……双子は交互に喋る、最初は落ち着かなかったが三日ほど一緒にいたお蔭か少し慣れた。


 「「 スタート 」」


 双子の声が極黒の外から響いた。おっといけない、集中しないとな。


 ……俺は耳に練り小麦を詰め直して全神経を眼球に集中させた。



 ……俺は一体、何をしているのか。それは遡ること一時間前。

 怪我や疲労もすっかり回復した俺たちは本格的に修行を始めることにした。


 「これから三人には別々の修行をやってもらうわ」


 俺とギルドとカノンとフレイはニアを囲んで、彼女の話に耳を傾けていた。


 「まずはギルドさん。あなたにはわたしが直接指導します」


 おぉー、と周りがざわめいた。特に理由は無いが……。


 「まだ、〝特異能力〟が発現していないあなたには〝特異能力〟の開発に専念してもらいます」

 「はいっ」

 「次に――カノンくん」

 「はい」


 次にニアはカノンの方を見た。


 「あなたには〝アクセスバレット〟の強化に専念してもらいます」


 何故なら、とニアが続ける。


 「あなたは中・遠距離は強いものの、至近距離はその二つに僅かに劣ります。なので、この機会にオールラウンダーになっちゃいましょう、弱点が無いというのはそれだけで強みになるのよ」

 「お手柔らかにお願いします」

 「次に――フレイちゃん」

 「はいっ!」

 「は、特に教えることは無いのでテキトーに時間を潰してて」

 「えぇー……」


 ……テキトーだな、オイ。


 「最後に――タツタくん」

 「押忍」

 「あなたには〝極黒の侵略者〟を支配して、〝ステージ形態・ツー〟を目指してもらうわ」

 「……〝第2形態〟?」


 ……なんじゃ、そりゃ?


 「〝特異能力〟には〝第2形態〟という〝ステージ形態・ワン〟を極めたものにしかたどり着けない領域があるのよ」


 ……おおっ、何か少年漫画っぽいな。


 「だから、あなたには〝特異能力〟の〝第1形態〟をマスターしてもらうわ」

 「押忍っ!」

 「ってなわけで、レイとリン。あんたらタツタくんの修行に手伝ってあげなさい」

 「わーい、楽しそう!」

 「任せてー!」


 ……大丈夫かな。


 ……そんなわけで俺とギルドとカノンは各々の修行に取り掛かるのであった。



 ……俺は闇の中にいた。


 「……」


 ……俺は沈黙して、ひたすらに集中力を高めていた。その手には〝SOC〟が握られていた。


 「……」


 視界は〝極黒の侵略者〟のせいで真っ暗であり、加えて耳には練り小麦粉を耳栓換わりに詰めているので茂みが揺れる音すら聴こえい。


 「……」


 まさに、無色無音の世界。まるで世界が止まってしまったような錯覚に陥りそうになる。


 「……」


 ……まだか。


 「……」


 ……そろそろか?


 ……………………。

 …………。

 ……。


 ――ゴッ!? 頭に小石をぶつけられた。


 「いてっ!」


 ……駄目だ。

 ……まるで反応できなかった。


 ――ゴッ!? 今度は腕に小石をぶつけられた。


 「……駄目だ」


 ……気配なんてわかる筈が無い。

 この修行、〝極黒の侵略者〟で視界を封じられ、練り小麦粉で聴覚を奪われ、〝極黒の侵略者〟の外から双子が投げる石を回避又は打ち落とすシンプルなものである。

 しかし、無色無音の世界で如何様にしてランダムに飛んでくる小石を捌けと言うのだろうか。

 ニアは修行の前にこの修行について説明してくれた。

 〝極黒の侵略者〟の〝第1形態〟を支配するということは、つまり――〝極黒の侵略者〟によって自身に降りかかる損害を〝0〟にするということである。

 今の俺は〝極黒の侵略者〟の外から攻撃したり、逃げたりはできるが、〝極黒の侵略者〟の中で戦うことができない。

 何故なら、暗闇の中で俺は、敵の位置を捉える〝眼〟が無いからだ。


 ――それが損害である。


 〝極黒の侵略者〟を支配するということはこの〝暗闇の中では戦えない〟という欠点を無くすことにあった。

 ……つまり、能力に振り回されないこと、それが〝特異能力〟を支配するということであった。

 しかし、そうなると疑問が一つ生まれるだろう。


 ……何故、耳まで塞ぐのか?


 その疑問はニアが答えてくれた。

 ニアいわく、無音で迫る敵だっているのでそれらにも対応できないと支配したとは言えない、だそうだ。

 まあ、そんなわけで無色無音の世界で一人チャンバラごっこをしていたが、これが中々難しかった。

 ニアやギルドのような魔導師であれば、魔力の膜とか展開して、その膜に触れたものを察知できるようだが、剣士の俺にはそのような器用な真似ができる筈もなく、ただただ困っていた。


 ――ゴッ


 「いてっ」


 ……このやり取りを何度も何度も繰り返すのであった。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「 あー、ちょっと休憩! 」


 三時間後、俺は耳栓を外し、芝生に寝転がり、〝極黒の侵略者〟を解除しようとした。


 「「 駄目っ! 」」


 ……えっ? 何故か止められた。


 「お母さんが言ってたんだけどね」

 「〝第1形態〟をマスターするまで〝極黒の侵略者〟解除しちゃ駄目だって言ってたよ、ねー」

 「ねー」

 「……まじか」


 ……こんな暗闇の中でずっといたら頭おかしくなるぞ。

 でも、ニアがそう言うんなら何か意味があるんだろ。


 「ちょっと寝るわ」


 俺は素直に従って、〝極黒の侵略者〟を解除しなかった。が、無色無音の中でいつ来るかわからない小石を警戒するのは予想以上に精神を磨り減らす作業であった。


 「いいよー」

 「ゆっくりねー」


 双子の承諾も得られたので、俺は少し仮眠することにした。


 「……」


 ……ゆっくりと瞼を閉じる。


 「……」


 ……ん? 瞼を閉じるともっと真っ暗なんだな。

 俺はふと、些細なことに気がついた。

 ……って、ことは。 この〝極黒の侵略者〟は完全な〝黒〟ではなくて、僅かに光が漏れているのか……〝極黒〟と謳っているくせに。


 ……僅かな光。


 ……〝極黒の侵略者〟は真黒に非ず。


 ……夜行性動物。


 ……例えば、フクロウとか。


 ……奴らは何故、暗闇で活動できるのか?


 ……答えは〝眼〟だ。


 ……梟の〝眼〟は僅かな光を集めて、ものを見る。


 ……梟?


 ……〝眼〟。


 「 そうか 」


 ……俺は瞼を開いた。



 「 梟になればいいんだ 」



 ……俺はガバッと立ち上がった。


 「レイー! リンー! いるかー!」


 俺はリンとレイを呼んだ。


 「いるよー!」

 「何ー?」


 もう、寝ているわけにはいかなくなった。


 「休憩は終わりだ」


 俺は耳栓を詰め直し、〝SOC〟を再び握り直す。


 「修行を再開するぞ」



 ……さて、〝極黒の侵略者〟攻略作戦――開始だ。


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