第439話 『 龍太と龍二 』
……そして、龍二の独白は始まった。
「……僕は交通事故で父さんと一緒に死んで、気づいたらこの世界に飛ばされていた」
龍二はそこで因果王――ブラドール=ヴァン=リローテッドと出逢ったらしい。
「……奴からすぐに〝ゲーム〟の説明をされたよ」
龍二は〝白絵〟という名の魔王であること。
〝white‐canvas〟の能力と使い方。
この世界のルール。
〝異界人〟が〝白絵〟を殺しに来ること。
〝白絵〟を殺した〝異界人〟は誰か一人を蘇らせれること。
そして――……。
「……僕の中に空上龍二の人格と〝白絵〟の人格、二つの人格があること」
……なるほど。
龍二の話に俺は納得した。
時折見せる優しげな笑み。
狂気と殺戮の笑み。
そのどちらも別々の人格であったのだ。
「二つの人格と言っても、片方が出ている間は片方は眠っているという訳じゃなくて、どちらも共存している感じかな?」
「……」
……ややこしいが、目の前にいるのは龍二であり〝白絵〟でもあるようだ。
龍二が補足するには、ダイエット中に炭水化物が食べたくなるように、痩せたい気持ちと食べたい気持ちがどっちもあるような感じらしい……それはそれで大変そうであった。
「話は戻るけど、僕はしばらくの間、魔王の仕事を全うしていたよ。何名かの〝異界人〟が僕に戦いを挑んできたけど返り討ちにしたさ」
龍二は言った。
――ずっと、待っていた。
……と。
「僕が生き返らせたいと思える人が来るのを待っていたんだ」
……そんなとき、龍二の下に客人が来たのだ。
「――名は〝ガイド〟と言ったかな」
……そう、そいつは俺をこの世界に呼んだ奴である。
「彼女は僕に言ったんだ」
……何を?
「 空上龍太が来る、と 」
……恐らくブラドール・〝ガイド〟・〝ジャック〟は同時平行で〝ゲーム〟をしていて、その〝ゲーム〟で有利になる為に動いたのであろう。
「……そして、僕は動き出した」
まず、〝異界人〟はこの世界にある比較的新鮮な遺体に魂を憑依させて、初めて転生できるのだ。
「〝ガイド〟に兄さんがここに来るタイミングを教えてもらい、それを見計らって僕は〝空門〟を殺した」
どうせ転生するなら強い肉体の方が生存率が高まるからだ。
(……目が覚めたときに高原が荒れ果てていたのは、コイツらが戦った後だったからなのか)
俺は曖昧な記憶を思い出す。
「カグラにも急いで〝SOC〟を造らせたり、時間を逆行してカノンの家族を殺したりもした」
この世界で生き残るには、強い武器と共に競い合う仲間がいると思ったらしい。
「後は最初に会ったときに、死亡しても自動で蘇生できる魔法を掛けていた」
……そんな早くからやっていたのかよ。
「兄さんが旅立った後も、兄さんがひよって僕を殺せなくならないよう、ドロシーやカノンと親密にさせた上で殺したりもした」
「……」
……あれはかなり堪えたな。
(何というか、あれだな)
……至せり尽くせりであった。
「……随分と回りくどいやり方をしている、とは思わないかい?」
龍二が俺の心を見透かすように呟く。
ただ俺に殺されたいだけなら、俺にナイフを渡して、龍二の心臓を刺させ、〝white‐canvas〟を発動しなければ簡単に済んだ話であった。
しかし、龍二は周到に準備をし、成長のレールを引き、俺がここまで強くなるのを辛抱強く待っていたのだ。
「言ったろ、僕の中には〝白絵〟の人格もいると」
「……」
「僕が死のうとしても、僕の中の〝白絵〟はそれを邪魔をする。だから、僕はお前の手助けや助言は出来ても、殺されることは出来なかったんだ」
……全て納得した。
〝白絵〟の悪行の数々。
〝白絵〟の不可解な行動。
(……全部、俺の為だったのかよ)
俺をただ生き返らせたいが為にやっていたことだったのだ。
「……………………馬鹿野郎」
俺は振り絞るように吐き出した。
「……兄さん……頼むよ」
龍二が初めて俺に頭を下げた。
「……僕を殺してくれ」
「……」
……馬鹿野郎。
「……頼む」
……殺せる筈がなかった。
「……俺はお前を殺さない」
「…………言うと思ったよ」
龍二が溜め息を吐いた。
「本当にブラドールに戦いを挑むつもりかい?」
「ああ」
俺はその為にここまで来たのだ。龍二と殺し合う為に来たのではない。
「やめた方がいい、アイツには誰も勝てない……この僕でさえでも」
「それでもやる」
俺は約束したんだ。
……誰もが望んでいて、誰もが諦めてしまった、そんなハッピーエンドを迎えてやるって。
俺はここに来たばかりの俺ではなかった。
沢山の出逢いと共に沢山のものを背負っている。この背中は最早、俺一人のものではなかった。
「……………………わからず屋が」
――龍二は毒づき、空中から光線を放った。
「――っ」
俺は後ろへ跳び、光線を回避する。
「――龍二ッ……!」
「……ごめん、兄さん」
――パリンッ……。龍二の背にある花弁の翼が砕け散る。
龍二の背中には巨大な光の龍がいた。
白 龍
「敗けるとわかっている戦いに兄さんを行かせる訳にはいかない」
〝白龍〟の巨大な顎がこちらを向く。
「……神を倒す? この技を破ってから言いなよっ」
「上等だっ……!」
〝黒王〟――……。
闇 黒 染 占
――黒い魔力が吹き出し渦を巻く。
「俺は勉強も、運動も、書道も何一つお前に勝てなかったけどよ」
白と黒、二つの魔力がぶつかり合い二色の火花を散らす。
「今日だけは、この勝負だけは絶対にお前に勝つ……!」
「臨むところだっ……!」
白 迎
――閃ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!! 〝白龍〟が超密度で広範囲の光線を穿つ。
神 月
――斬ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!! 俺は真っ正面から光線に刃を叩き込む。
「タツタァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……!」
「リュウジィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ……!」
……そして、勝敗は決した。




