第436話 『 光龍装填・麗光掌華 』
「……お前、〝むかで〟みたいなことをするね」
〝白絵〟は取っておきを封じられて尚、余裕の笑みを浮かべていた。
「大体わかったよ、お前の小細工は」
〝白絵〟が人差し指を立てる。
「お前は〝極黒の侵略者〟で僕の脳内キャンパスを黒く塗り潰した」
……だが、と〝白絵〟は笑う。
「それをするには、あらかじめ僕が仕込んでいた〝無効化を打ち消す魔術〟を解除しなければならない」
〝白絵〟は続いて中指も立てる。
「そこでお前はこの世界のルールを利用したんだ」
――相対する効果を持つ〝特異能力〟が衝突した場合、レベルが高い方の〝特異能力〟が優先される。
「 お前は〝極黒の侵略者〟で書き換えたんだろ――自分のレベルを 」
――正解。完膚なきまでの正答だ。
(……〝白絵〟の推測は当たっている)
現に、俺の頭上にあるレベルは7万という破格の数値になっていた。
(……俺の〝極黒の侵略者〟は物体も概念も全てを対象にしている)
それこそが俺の〝特異能力〟の真骨頂であった。
……一月前、〝白絵〟との戦いから、〝極黒の侵略者〟は概念にも通用するというヒントを得て気づいことである。
(……懐かしいな)
俺はこの使い方をずっと前から知っていたんだ。
――ヴェーゼでのMr.サニー・Ms.ムーンとの戦い。
――迷宮砂漠での〝FG〟との戦い。
……言うなれば原点回帰。
〝white‐canvas〟攻略の鍵は最初から持っていたのだ。
「正直、感動したよ、タツタ」
〝白絵〟は今も尚、悠然と佇む。
「お前はたった二年でここまで登り詰めた、この〝白絵〟をここまで追い詰めたんだ」
その笑みに焦りや恐れはなかった。
――何かある。
……それは確信に近い予感であった。
「誇っていい、〝これ〟を見せるのはお前が初めてだよ♪」
――そして、〝白絵〟はグローブを両手に装着した。
「……何だよ、それ?」
「 〝SOG〟 」
……〝SOG〟?
「精霊憑依の魔導具さ」
「〝SOC〟や〝空門〟みたいなものか」
「そうだね♪」
しかし、〝白絵〟は精霊なんて持っていたのか?
「おいで――〝ライトウィング〟」
……空から光が舞い降りる。
――否、それは少女であった。
「紹介するよ、タツタ」
少女は〝白絵〟の真横に着地し、俺に会釈をする。
「彼女は光の〝八精霊〟――〝ライトウィング〟……僕の奥の手だ」
〝ライトウィング〟は頭を上げ、〝拒世〟した。
「 憑依 」
〝ライトウィング〟の姿が〝SOG〟に吸い込まれる。
「 掌握 」
光 龍 装 填
麗 光 掌 華
――目映い光が王の間に拡がる。
「……っ」
……何だ、この力は?
……何だ、この圧力は?
空気が震える。
床や壁に亀裂が走る。
「 挨拶代わりの一発だ、避けろよ♪ 」
「――っ! ウィンッッッ……!」
白 轟
――白い光が魔王城を呑み込んだ。
俺はウィンを抱え、魔王城から飛び降りる。
(――なんつぅ、威力だっ!)
そのまま木々の中に飛び込む。
「ウィンはここで隠れていてくれ」
「はいっ」
俺はウィンを茂みの中に隠し、開けた場所へ出る。
「……マジかよ」
俺は目の前の光景に息を呑んだ。
――穴
……先程まで魔王城があった場所には、底の見えない深くて巨大な穴しかなかった。
「あははははははははははははははははっ……!」
〝白絵〟の高らかな笑い声が暗い森に響き渡る。
「……」
これが〝白絵〟。
これが魔王。
……俺が越えなければならない壁であった。




