第434話 『 長い旅の終着点 』
投稿まで長い期間待たせてしまい申し訳ございませんでした。
これから最終話までどうか当作品を読んで戴ければ幸いです。
……俺は歩く、深くて暗い森の中を。
「……」
その足取りは重く、沈黙には緊張の色が見えた。
「……」
そんな俺の後ろをウィンが無言でついてくる。
(……緊張してるな、俺)
俺は自嘲気味に笑う。しかし、仕方のないことだとも思う。
何せ、今日は決戦の日なのだ。緊張しない筈がなかった。
(……〝白絵〟はどんな気持ちで俺を待っているんだろうな)
――〝白絵〟。
……本名、空上龍二。空上家次男にして。俺のたった一人の弟。
そして、この世界の魔王を名乗り、多くの命を奪い、多くの者に命を狙われていた。
(……〝白絵〟は沢山の人間を殺した)
……今だって沢山の人間を〝祭〟と称して殺している。
(……俺の仲間や大切な人も殺された)
……あの時は本当に悲しくて、悔しくて、やるせなかった。
(……だけど、俺はお前は見捨てねェから)
〝白絵〟は俺のたった一人の弟なのだ。
クソッたれで情けなかった俺を見捨てなかった優しい奴なのだ。
――それに今だって、
……〝白絵〟が俺に向ける優しい微笑みが脳裏を過る。
(……あいつはきっと俺を大切に思っている。俺があいつを大切に思っているように)
そこには間違いなく兄弟の絆があった。
だから、〝白絵〟は戦うのだ。
だから、俺も戦うのだ。
互いを互いに大切に思っていて、俺達は向き合っていたのだ。
真っ直ぐに向き合っているのだ、進むべき方向が真反対なのは当たり前であった。
〝白絵〟は俺を幸せにする為に、俺は〝白絵〟を含む皆を幸せにする為に戦場に立っている。
そして、その決着は遂に今日訪れるのだ。
「……タツタ様、手震えてますよ」
ウィンに言われて初めて、自分の手が震えていることに気がついた。
「……その恐いんでしたら無理しないでください」
「……ウィン」
ウィンは優しい女の子だ。今だって俺のことをこんなにも心配してくれた。
「心配すんなよ、ただの武者震いだ」
俺はウィンの頭を撫でる。
(……ウィンに心配掛けるなんてまだまだだな)
少し反省する。
「だけど、心配してくれてありがとな」
「……はぃ」
ウィンは照れ臭そうに小さく頷いた。
「ほら、見えたぞ」
「はいっ」
……俺が指差したその先には大きな城があった。
よく見ると周りは荒れ果て、大分見晴らしがよくなっていた。
(……〝むかで〟と戦った跡かな)
焼け野原となった大地、抉れた地面、そこには確かに激戦の形跡があった。
(……〝むかで〟。俺、あんたの分も戦うよ)
俺は一呼吸をして、無人の門を潜り抜ける。
「……」
廊下を歩き、階段を上り、俺は〝白絵〟の気配のする方へと歩み寄る。
(……ここまで長かったな)
思い返すのは今までの死闘の記憶であった。
Mr.サニーとMs.ムーンにボコられた。
〝SOC〟を手に入れる為にカグラと一太刀交えた。
迷宮砂漠で〝FG〟とギリギリの戦いをした。
暗黒大陸で〝おにぐも〟と相討ちになった。
〝白絵〟にアクアライン一家を殺された。
ノスタル大陸では雪の中で〝灰色狼〟や〝四泉〟と戦った。
〝むかで〟に負けて、リベンジマッチでフレイを取り返せた。
パールの都では八雲やグレゴリウスにボコボコにされた。
ドロシーを取り戻す為に〝水由〟と激闘を繰り広げた。
〝雷帝武闘大会〟では沢山の強敵と戦った。
修行では〝空門〟と決着をつけることが出来た。
〝北の大陸群〟に向かう船では巨大な魚やイカと戦った。
風の谷ではカノンとクリスを失った。
一ヶ月前にはドロシーを〝白絵〟に殺された。
そして、〝むかで〟と引き分けるにまで、俺は強くなった。
……長かった。
……本当に長かった。
沢山の出逢いや別れもあって、楽しいことも辛いことも沢山あったけど、本当に濃密で充実した二年間であった。
「……」
俺は大きな扉の前で立ち止まる。
「……タツタ様」
ウィンが扉の先にあるプレッシャーに息を呑む。
「ああ、行こう」
俺は頷き、観音開きの扉を開いた。
「 749日と20時間32分11秒 」
開かれた視界の中にあいつがいた。
「 僕はこの瞬間を待ちわびていた 」
――魔王、〝白絵〟。
「……余計な語らいは要らない」
「……だな」
……そいつは部屋のど真ん中で悠然と俺と対峙していた。
「決着をつけよう、僕と兄さんの今日までの全てに」
「ああ、その為に俺はここまで来たんだ」
静寂した王の間。
静かに弾ける火花。
……最後の戦いが幕を開けた。




