第433話 『 星空と涙の訳 』
……皆で山の頂上まで登り、焚き火を囲んで夕飯を食べた。
「はぁー、食った食ったぁ」
俺は腹を撫でながら、満腹感に浸った。
「夕飯も美味しかったよ、ありがとな、ギルド」
「お粗末様です♪」
ドロシーがいなくなってからはギルドが料理係に上番していた。
「よし、そろそろ焚き火を消そうか」
「はい」
焚き火に水を掛けて火を消す。辺りは星と月明かりに照らされる。
俺達は寝袋の上に横になり、並んで空を見上げる。
「そういえば、街の人が言っていたんだがな、今夜は流星群が見えるかもしれないって」
「道理であんなに張り切っていた訳か」
そう、こうやって集まれるのも今夜で最期になるかもしれなかったから、俺は皆をここに誘ったのだ。
「……でも、流星群がなくても凄く綺麗です」
「だな」
ウィンが満天の星空に目を輝かせ、ギガルドはそんなウィンは優しげに見守った。
(……こんな満天の星空、東京じゃ見れないな)
星の一つ一つがくっきりとしていて、空を埋め尽くす程に敷き詰められていた。
「……」
皆、無言で満天の星空を見上げる。
言葉を紡ぐのも口惜しい、それ程の星空であった。
「……………………あっ」
……誰かがそんな声を漏らした。
「……流星群だ」
夜空に流れ星が線を描く。
最初の流れ星を皮切りに次から次へと白い軌跡を描いていく。
「……綺麗です」
……誰かが小さく呟く。
「……凄い」
「うん」
フレイが感嘆の声を漏らし、夜凪が小さく頷く。
流れ星は降り注ぐ、それはあまりにも壮観で、まるでここが世界の中心であるような錯覚を抱いた。
「……綺麗ですね、タツタさん」
「……ああ」
俺の隣の寝袋で横になるギルドが呟き、俺もそれに相槌を打つ。
「……タツタさん」
「どうした?」
ギルドがこちらを見て驚いた顔をした。
「……どうして……泣いているんですか?」
「……えっ?」
……ギルドに言われて初めて気づいた。
「……俺……泣いて」
――俺は泣いていた。
目元は湿っていて、頬には一筋の線が走っていた。
「……何でだろうな、俺にもわからないよ」
「……」
流星群があまりに綺麗で、柄にもなく感傷的になってしまったのだ。
この世界はあまりに美しくて、
楽しかった思い出に満ち足りていて、
……溢れだしてしまったのだ。
涙が、
感情が、
(……そうか、俺はここが大好きだったんだ)
皆がいて、冒険をして、目的を見つけて、俺は本当に生きていたんだ。
――俺は生きたいから生きるのではなくて、死にたくないから生きていた。
(……俺はここで確かに生きていたんだ。ここに間違いなく居たんだ)
この世界に来てから俺は沢山のものを貰った。
空っぽだったのに、何も無かったのに、今ではとても満ち足りていた。
(……だから……寂しかったんだ)
俺はいつかここから居なくなるから、皆と離れ離れになるから、だから寂しかったのだ。
愛しくて、寂しくて、それでも前に進みたくて、俺は堪らなくなってしまったのだ。
――ギルドが俺の手に小さな手を重ねた。
「……流星群、綺麗ですね」
「……」
その手は温かくて、それだけで何故か安心してしまった。
「……今日は皆で来て良かったですね」
「……ああっ」
二人とも多くのことは語らなかった。
ただ、無言で降り注ぐ光の雨を見上げた。
「……」
「……」
俺は静かに音もたてずに泣いた。
ギルドは何も言わなかった。
ただ、優しく指を絡めて、握っていてくれた。
この世界の中心で、
最愛の人の体温に触れながら、
……俺は涙を流した。
「 行ってきます 」
……早朝、俺は皆を起こさないように身支度を終えた。
「……生きて帰ってこれたらまた皆で遊ぼうな」
ギルドの姿が見えなかった……また、泣いてしまいそうになるので良かったのかもしれなかった。
「……ウィン、行こう」
「はい」
皆に背を向けて歩きだす俺の後ろにウィンがついてくる。
「……」
……遂に時が来たのだ。
……準備は整った。
「……待たせたな、〝白絵〟」
天気は快晴。
風向きは向かい風。
〝白絵〟との決戦まで――……。
「 決着をつけよう、俺達の今までの全てに 」
……残り〇日。
申し訳ございません、誠に勝手ながら初冬まで休載させていただきます。
次回連載再開したならば、最終回まで休載無く投稿させていただきますので、御理解の程よろしくお願いいたします。




