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 第432話 『 本日はお日柄も良く 』



 「天気も良いし、皆で海と山に行こう!」


 ……俺は部屋に皆を呼んで、力強くそう言い放った。


 「……海ですか?」


 「山も行くのかよ」


 「どっちも行くのですか?」


 「俺もどっちも行きたいかも」


 「ぼっ、僕も行ってもいいのですか?」


 「お姉ちゃん、あたしも行ってもいいのかな?」


 『キューッ!』


 皆が十人十色の反応を示す。


 「昼間は海で遊んで、夜は山で星を見ながらキャンプをしようぜ!」

 「いいけどよ、そんな急に準備なんて出来るのかよ」


 ギガルドの言うように、時間は十一時を過ぎていた。


 「そうですよ、わたしでなければ無茶振りですよ、それ」


 ……ギルドの足下には、既に荷物がリュック等にまとめられていた。


 「仕事早っ!」

 「有能だけが取り柄ですからねー」


 流石はギルド。自称、天才魔導師は伊達ではなかった。


 「準備も出来たことだし、T.タツタ出発だーーーッ!」


 『おーっ!』


 ……そんなこんなで流れるように海へ出発することになった。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「うおおォォォォォォォォォォッッッ……!」


 「おらあァァァァァァァァァァッッッ……!」


 ……海に着いて最初にやったことはビラッグであった。


 ちなみに、最早俺に対抗できるのはギガルドだけであった為、自然とギガルドとのデスマッチとなった。

 ビラッグは激しい戦いとなり、何か色々と大変なことになった。


 ……ちなみに、結果は俺が勝った。


 「……どうして二人ともそんなにボロボロなんですか?」


 俺とギガルドの治療するギルドが溜め息を吐いた。


 「「殴りあったからな」」


 「ちゃんと、ビラッグしてください!」


 ……怒られた。


 「だが、ギガルド。罰ゲームはしてもらうからな」

 「ちくしょーッ!」


 俺の言葉にギガルドが悔しそうに拳を握り締める。


 「……罰ゲームって何をするのですか?」


 「チ○コをカニの鋏に挟まれる」


 「くだらな過ぎるっ!?」


 ……三分後、岩陰からギガルドの汚い悲鳴がこだました。



 「皆さーん! お昼の準備が出来ましたよー!」


 ……しばらく遊んでいるとギルドの声が静かな海に響き渡る。

 俺は巨大な砂山をフレイと夜凪で造っていた手を止め、ギルドの下へと集まった。


 「タツタさんが教えてくれた〝ばーべきゅー〟です、たーんと食べてくださいね」


 ……食材と鉄板と網を事前に持ってきて、火はギルドが起こす即興バーベキューであった。


 「ギルドの作る飯はやっぱり旨いな!」

 「えへへ、ありがとうございます」


 ただ焼いただけなのに俺が作るのとは天と地の差であった。


 「美味しさの秘訣はこの秘伝のタレです! えへん!」


 ギルドが自慢気に黒茶色の液体の入ったビンを掲げた。


 「へえー、凄ェな。嬢ちゃん、良い嫁さんになるぞ」

 「おっ、お嫁さん!」


 ギガルドに褒められギルドが興奮気味に顔を真っ赤にする。


 「そんな! 子供五人なんて多すぎですよーっ!」


 「話、飛躍しすぎィ!」


 ……五人、か。ギルドの夫になる奴は大変そうであった。


 (……俺がいなくなったら、ギルドは俺以外の誰かと付き合ったり、結婚したりすんだろうか)


 ギルドは可愛くて、スタイルも良くて、家事のスキルも高い……キレたら恐い以外に欠点らしい欠点もないのだ。本気を出せば男の一人や二人なんて楽勝であろう。


 「……」


 ……何か、それは嫌だった。


 とはいえ、俺にギルドを拘束する権利はないのだが……。

 そんなモヤモヤしながら肉を食べていると隣にアークが寄ってきた。


 「……あの、タツタさん」

 「どうした、アーク?」


 アークが耳元で囁く。



 「 タツタさんってお姉ちゃんと付き合っているんですか? 」



 ――ブーーーッ! 俺は堪らず明後日の方向に吹き出した。


 「いっ、いきなり何を言い出すんだ!」

 「いや、ちょっと気になって……それでどうなんですか?」

 「……」


 アークの追及に俺は渋面する。


 「……付き合ってないけど」

 「そうなんですか、凄く仲が良かったのでやることやっているものかと」


 ……やることって、お前。


 「でも、好きなんですよね、お互いに」


 鋭すぎィ!


 「……それはどうだろうな」


 俺は一先ずお茶を濁した。


 (……実際に今のギルドは俺のことをどう思っているのだろうか?)


 昔は告白されたし、キスもされたが最近はそういったアクションは無かった……それどころではなかったとも言えるが。


 (答えを待たせすぎて愛想を尽かされたりしてな)


 俺は内心苦笑いを溢した。


 「……そう言うアークは好きな奴はいないのか?」

 「あっ、あたしですか?」


 俺の質問をアークがわかりやすく戸惑った。


 「……あたしは……その……〝白絵〟様……一筋でしてー」


 アークが顔を紅潮させながら、消えてしまいそうな声で答えた。


 「……そうか、悪かったな」

 「どうして、タツタさんが謝るんですか?」

 「だって、俺が原因で決別することになったし」


 俺を激怒させる為に殺されそうになったギルドを守る為にアークは魔王軍に離脱したのだ、罪悪感が無い訳ではなかった。


 「謝らないでください。あたしは自分の意志でお姉ちゃんを守って〝白絵〟様と決別したんです、その過程に何があろうとあたしはタツタさんを責めるつもりはありません」

 「……そうか、ありがとな」


 ありがとうなんて言う立場ではないが、気持ちが軽くなったので感謝の言葉を返した。


 「ただ、一つお願いしてもいいですか」

 「ああ、何でも言えよ。出来るだけ何とかしてやるから」


 アークはもう俺達の仲間なのだ、そんな仲間のお願いを無下に断る程に小さな男ではなかった。



 「 〝白絵〟様を助けてください 」



 「……」


 ……アークの声と表情はただただ真摯であった。


 「〝白絵〟様は今、独り暗い闇の中にいます。ただ独りで戦っています」


 〝白絵〟は最初から無敵で、抜きん出て並ぶ者等いなかった。


 ――故の孤独。


 誰もあいつの苦悩を理解してやれる者がいなかった。


 「ですからお願いします。〝白絵〟様を救ってくださいっ」


 アークはただ必死に頭を下げた。



 「 任せろ 」



 ……愚問だった。


 「あいつは俺の弟だからな、地獄の底にいたって引っ張り出してやるよ」


 ……龍二は俺の世界でたった一人の弟なのだ。


 あいつがどんなに大罪人でも、どれだけ多くの人間に恨まれようとも、一緒に背負っていくつもりであった。


 「……ありがとうございますっ」


 「馬鹿、感謝してんじゃねェよ」


 ……俺も嬉しかったのだ。


 龍二を好きだって言ってくれて、あいつを心配してくれる人間がいて、俺も嬉しかったのだ。


 「約束するよ、絶対に俺はあいつを助けだす」


 「はいっ……!」


 こうして、俺は新たな誓いを交わし、決意を深めるのであった。



 ……それから皆で食べて、泳いで、遊んで、つつがなく昼の部は終わるのであった。


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