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 第431話 『 前人未踏領域 』



 ……俺は深い闇の中にいた。


 「 〝アビス・覇手タクティオン〟 」


 周囲から黒い魔素が集まるのが感じられた。


 (……解くなよ、俺)


 額の汗が頬を走り、足下に落ちる。


 (やっぱりキツいな、〝三重展装アスタクロス〟は……おっと、集中っ、集中っ)


 油断するとどれか一つが解けそうになる。


 (集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中――……)


 俺は今、前人未踏の〝ステージ形態・フォー〟を目指して特訓をしていた。

 その為に今は〝第1形態〟・〝第2形態〟・〝第3形態〟を同時に発動する訓練をしていた。

 この特訓が〝第4形態〟に繋がっている――という確証はなかった。

 しかし、昔、ニアが俺に教えてくれた。


 ――マスターするということは、扱うことにリスクが無くなること



 ……今、〝三重展装アスタクロス〟をすると体力や魔力を必要以上に消費する――それはリスクだ。

 それを無くすことこそがマスターすることだと思った。

 だから、かれこれ丸一日はこの状態を維持していた。

 普通であれば丸一日なんて半日待たずに魔力切れを起こすが、黒い魔素を集積する〝アビス・覇手タクティオン〟のお陰で魔力切れの心配はなかった。

 それでも〝三重展装〟には高い集中力を必要とする為、気力や体力の疲労が蓄積していた。


 (……てか、滅茶苦茶眠い)


 暗闇で話し相手もいないのだ、眠気も自然とやってくる。

 それでも徐々に〝三重展装〟を維持するのも楽になってきていた……眠気はどうにもならないが。

 この修行を初めて一週間が経っていたが手応えのようなものを感じていた。


 (……もし完成するなら、〝第4形態〟どんな感じになるんだろうな)


 俺の力は闇に関係するものだが……。

 闇に染める力、闇の力を付与する力、闇を集める力。それが今の力だ。


 (……闇をどうするんだろう)


 闇を……闇を……駄目だ、今使える三つ以外に思いつかねェ。てか、凄く眠い。


 (……闇を……闇を……………………)


 徐々に体温が温かくなる。


 張り詰めた意識が弛緩していく。



 (……祓う……とか……………………)



 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……」


 ……しまった。


 「…………寝てた?」


 ……修行の途中で寝落ちしてしまっていたようだ。


 (やってしまった、また発動し直さないと……って、あれ?)


 そこで俺は気がついた。


挿絵(By みてみん)


 ……俺は依然として闇の中にいた。


 しかも、闇の魔素は周囲に充満しているし、肉体に〝闇黒染占〟を付与していた。


 (……まさか、寝たまま〝特異能力スキル〟を発動していたのか?)


 信じられないが、俺が思っていた以上に俺は成長しているようであった。


 「……………………やったっ」


 俺は〝特異能力スキル〟を解除した。


 「よっしゃあっ……!」


 そして、全力でガッツポーズをした。


 (まだ〝第4形態〟は使えねェが、手応えは――ある)


 俺は掌を見つめ、拳をつくった。


 ――希望だ。


 ……この掌の中には希望があった。


 「……行ける、行けるんだ」


 俺は前に進んでいた。


 「俺が、皆が笑って迎えられるハッピーエンドがこの手の中にあるんだ」


 やっとここまで来たんだ。


 俺はこの先に行く為に頑張ってきたんだ。


 「待ってろよ、〝白絵〟。待ってろよ、ブラドール」


 お前らの思っているようなバッドエンドにはさせない。


 「俺はお前らの想像を越えてやる、お前らが見放した未来を掴み取ってやるよ」


 今の俺にはその可能性があった。

 後は最後まで踏ん張るだけであった。


 「……」


 ……最後まで、か。


 「……」


 ……最後。


 「……………………そうか」


 そこで俺は気がついた。


 「……もう、そんなに無いのか」


 例え、俺が勝っても


 例え、俺が負けても


 「……俺が……ここに居られる時間はもう無いのか」


 ……心残りはあった。


 ここで沢山のものを貰ったから、沢山の大切な人に出逢ったから、淋しくない筈がなかった。


 「……折角だし、最後に思い出ぐらい作りたいな」


 〝白絵〟との決戦まで――……。



 ……残り十三日間。


 

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