第426話 『 タツタVS〝むかで〟 』
雷
――神速のムカデが空を裂く。
「――」
その先にはタツタの額がある。
音速よりも、光速よりも速いムカデがタツタを殺そうとする。
「 見えてるよ! 」
――ガシッッッッッッ……! タツタは真正面から〝雷〟を受け止めた。
「そぉれェッ! 一本釣りだっ!」
更には引っ張り、俺諸とも宙へ引き上げる。
「ふむっ、少しは力を付けたようだな」
俺は空中で〝雷〟を切り離し、〝蜘蛛〟に切り替える。
「少しかどうかはこれを受けてみてからいいな!」
極 ・ 黒 飛 那
――黒い斬撃が空中にいる俺に飛来する。
(――この威力並みではない。それに)
……空中では回避も儘ならなかった。
(受けざるを得ない、か)
――俺は八匹の巨大なムカデを〝極・黒飛那〟に叩き込んだ。
「――っ」
……しかし、〝極・黒飛那〟の威力は絶大だった。叩き込んだ巨大なムカデも堪らず押し返される。
「 〝渦〟 」
「呑み込めッ、〝黒飛那〟ァッッッ……!」
――ギュルッ……! 八匹のムカデは俺を包み込むように丸まり、〝極・黒飛那〟は容赦なくそれを呑み込んだ。
圧倒的な破壊が森を吹き飛ばし、木々や土砂が舞い上がる。
「……やはり……凌ぎきれなかったか」
とぐろを巻き直撃は避けたものの、あの火力を完全に防ぎきることはできなかったようである。
「だが、今度はこっちの番だ」
――俺は舞い上がる粉塵から飛び出し、タツタに飛び掛かる。
「――っ!?」
「 〝鎧〟 」
俺は〝雷〟を肉体に装填し、神速で間合いを制圧する。
「〝空龍の呼吸〟っ!」
タツタも神速で俺に殴り掛かる。
「真っ向勝負だ、〝むかで〟!」
「望むところだ」
神 威
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! タツタの神速の鉄拳が俺の顔面に叩き込まれた。
「……………………装填」
「――っ」
しかし、俺は一歩も退いていなかった。
「 〝とぐろ〟 」
……〝鎧〟で〝とぐろ〟の硬度を肉体に装填していたからだ。
「お返しだ」
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 〝とぐろ〟で硬度を増し、〝雷〟の速さを乗せた拳がタツタの土手っ腹に打ち込まれた。
「――ッッッッッッ……!」
タツタは堪らず吹っ飛び、木々を薙ぎ倒し、渓流に身を沈めた。
水飛沫が舞う。
俺は駆け抜ける。
「……っ!」
その水飛沫が落ちるよりも速く、俺はタツタとの間合いを制圧していた。
「立て直す隙は与えん」
「クソッたれ!」
俺はタツタに踵落としを繰り出す。
タツタは身を翻して回避する。
――踵落としを叩き込まれた渓流から巨大な水柱が立ち上がる。
極 黒 の 侵 略 者
……同時。全ての水とタツタが真っ黒になった。
(――タツタの〝特異能力〟か)
しかし、この程度の目眩まし、〝魔眼〟を使えば
音 無
――斬ッッッッッッ……。気配を消した一太刀が俺に打ち込まれた。
「……っ」
「……反応ぱなっ」
しかし、俺は寸でのところでナイフを抜き、タツタの斬撃を受けていた。
(――コイツ、俺が〝魔眼〟を使うよりも速く仕留めようとしてきた!)
完全なるスピード勝負。策を出し惜しみすることなく消費し、攻略されるよりも先に攻める。
まさに、超攻撃型スタイル。奴には攻めっ気しかなかった。
(ならば、そこを利用させてもらおうか)
千 獄
千を超える無数のムカデが地面から飛び出した。
「追え、〝千獄〟」
千を超えるムカデは統率された動きでタツタに襲い掛かる。
「……っ」
しかし、タツタも簡単には捕まらない。時に切り裂き、時に身を退き、迫り来る脅威を無効化する。
……そして、見つけ出す――僅かな好機。
「そこだっ……!」
――ドッッッッッ……! タツタはムカデが薄くなった場所を見切り、そこを突破した。
「――なっ!」
――しかし、その先には既に〝雷〟が待ち構えていた。
……タツタには攻めっ気しかなかった。
だから、こちらに隙があれば攻めてくることなど簡単に予測できた。
(……後は)
……そこにギロチン台を置くだけだ。
「わざと通りやすくしていたのだよ、貴様が来やすいようにな」
――ドッッッッッ……! 〝雷〟がタツタの右肩を貫いた。
「――ぐあっ!」
「見事だ」
タツタはヒットの直前に、身を捩り直撃を避け、更には耳を塞ぎ鼓膜を守っていた。
(……当たりはしたがダメージを最低限に抑えたか)
やはり、一筋縄には行かないようだな。
「おい、〝むかで〟」
「……どうかしたか」
タツタは肩を押さえながら睨み付けてくる。
「何か楽しいことでもあったのか?」
「……」
――そこで俺は気づかされた。
……俺が笑っていたことに。
「……ああ、あったさ」
俺はらしくないが素直に認めた。
「この戦いは楽しい、お前はどうだ?」
俺はタツタに問い質す。
俺の瞳に映るタツタの顔は――……。
「この戦いは楽しいか?」
……笑っていた。
「ああ、悔しいがすっげー楽しいよ」
その瞳は何処までも真っ直ぐで、〝魔眼〟を持つ俺よりも遥か遠くの景色が見えていた。
「俺はここまで戦えるって、ここまで強くなれたって、実感することができたからな」
「……この程度が貴様の底か?」
「いや」
タツタは笑みを消し、魔力を爆発させる。
「 こっから数段強くなるから付いて来いよ 」
「……」
……ハッタリではない。
……そう思わせる程の凄みが今のタツタにはあった。
「その台詞、そのまま貴様に返してやろう」
俺も更に魔力を研ぎ澄ました。
「だから、笑うなよ。似合わねェから」
「貴様もな」
―― 一瞬の静寂。
「 〝極・黒飛那〟 」
タツタが刃を振り下ろす。
「 〝百足王〟 」
俺も〝百足王〟を召喚する。
「ぶった斬るッッッ……!」
「捩じ伏せるッッッ……!」
……衝突。そして、周囲一帯を吹き飛ばした。




