第419話 『 大海震掌 』
「 会いたかったよ、〝白絵〟♪ 」
……僕は〝むかで〟と〝白絵〟の間に着地する。
「……イッタイなぁ、折角良い所だったのに邪魔するなよ」
潰された筈の〝白絵〟が再生して、再び僕の前に立ちはだかる。
「魔法障壁ごと押し潰すなんて一体どんな能力なのかな?」
「直にわかるよ♪」
周囲には無数の深海魚が浮遊していた。
「水族館でも経営するつもりかい?」
〝白絵〟が巨大な魔法陣を展開する。
「そうだね、だから営業妨害はやめてくれないかい」
終 焉 の 光
(――いきなり最大級魔術とは本気だね)
――閃ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 巨大な閃光が放たれる。
――ドッッッッッッッッ……! 僕は巨大な水壁を召喚する。
(力じゃ勝てない! 僕の武器はなんだ! 僕の武器は――……)
――曲ッッッッッッッ……! 水壁と衝突した光線が屈折した。
( 変則性だ……! )
僕は間髪容れずに無数の水の矢を放つ。
「 〝光壁〟 」
〝白絵〟は光の壁を展開する。
水の矢は構わず直進
「 蒸 」
――蒸ッッッッッッ……! 無数の水の矢は水蒸気となり、〝白絵〟を光の楯ごと呑み込んだ。
「視界封じかい?」
「 NO 」
……〝白絵〟の解答に僕は満面の笑みで否定した。
「……この臭いは?」
「気がついたかい?」
さっきの水の矢はただの水ではない。
この世界では入手困難なある成分を含ませた水であった。
――シアン化カリウム
……一般的には青酸カリなどとも呼ばれる毒物である。
その症状は吐き気、めまい、頭痛、意識低迷、そして――死だ。
「小癪だね」
しかし、〝白絵〟は平然としていた。恐らく〝white‐canvas〟で解毒したのだろう。
「相変わらず、反則じみた力だね」
想像した魔術を再現する〝特異能力〟――〝white‐canvas〟。間違いなく最強にして最凶な力であった。
(……僕の持っている戦闘手段じゃ、〝white‐canvas〟を打ち崩すことはできない)
……絶対に勝てない。
(そんなことは解っている……!)
……僕はたぶん今日、死ぬ。〝白絵〟に殺される。
(だけど、ここは絶対に退けない……!)
逃げる訳にはいかない……!
「 〝特異能力〟――解放 」
深 海 領 域
――潰ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 周囲の木々や小動物が押し潰された。
「……もう対処してきたか」
しかし、〝白絵〟には効いていなかった。
(僕の〝深海領域〟は周囲一帯を深海一〇〇〇メートルと同等の圧力を与える〝特異能力〟だ)
だから、深海魚でもなければ容赦無用に押し潰せる。が、どうやら〝白絵〟相手では時間稼ぎにもならないようである。
「……やはり、周囲の圧力を変える程度の能力か、つまらない力だね」
〝白絵〟は失望の眼差しを僕に向ける。
(……知っているよ、そんなことぐらい)
この程度の力じゃ〝むかで〟や〝白絵〟には及ばない。
僕では〝白絵〟には勝てない。
(だから、潜れ! もっと深い所まで――潜るんだ!)
「 〝特異能力〟――死地生還 」
大 海 震 掌
「〝第2形態〟を飛ばして〝第3形態〟とは本気みたいだね♪」
「最初から本気だよっ」
僕は水の刃を両手に〝白絵〟に斬り掛かる。
「駄目だよ、真正面から突っ込んでも僕には勝てないよ♪」
〝白絵〟は無数の光の矢を僕目掛けて放つ。
「忘れていたのかい?」
しかし、光の矢出鱈目な方向へ飛んでいく。
「おや?」
「ここはまだ深海だよ」
……僕はまだ〝深海領域〟を解除していなかった。
何百、何千㌧もの水圧下、まともに光が飛ぶ筈がなかった。
この世界で水圧の影響を受けないのは術者の僕だけである。
「 ならば水魔法なら? 」
――今度は無数の水の槍が僕に襲い掛かる。
確かに、水魔法なら水圧の影響を受けない。
「まさか、僕相手に水魔法を仕掛けてくるとはね」
僕は避けない。水の双剣を手に水の槍に突っ込む。
「避けるまでもないね」
〝流〟 れ ろ
――僕は全ての水の槍を避けることなく受け流す。
「――やるね、だったらこれなら」
今度は無数の水の矢が全方位から襲い掛かる。
「逃げ場はなさそうだねっ」
……だったら?
〝渦〟
――全ての水の矢は僕を中心に渦を巻き、地面に突き刺さる。
「…………それがお前の〝特異能力〟のようだね」
「どうかな?」
――〝白絵〟の推測は当たっている。
僕の〝大海震掌〟は〝水〟を支配する力である。
この〝特異能力〟を発動することにより、僕は万物に〝水〟を付与することができるのだ。
最初の水の槍には〝流〟の力を、続く水の矢には〝渦〟の力を付与し、全ての攻撃を捌いたのだ。
――しかし、この能力には大きな欠点があった。
(……凄く狭いんだよね、効果範囲が)
……その距離、僕自身から半径二メートル。
それより離れたものに〝水〟を付与することはできなかった。
( 〝沈〟め )
――どぷんっ……。僕の身体は地面の中に沈み込む。
(そして――〝泳〟げ)
僕は地面の中を自在に泳ぐ。
(このまま一気に間合いを詰めろ……!)
地面の中に沈んだまま、僕は〝白絵〟の場所まで泳いだ。
「 詰まらない小細工だ 」
……〝白絵〟の冷たい声が聴こえた、気がした。
次 の 瞬 間 。
――爆ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 地面が弾け飛んだ。
「 〝地龍爆衝〟 」
「――っ」
僕は爆発によって、地面諸とも地上へ打ち上げられた。
「見つけた」
「――っ」
――僕と〝白絵〟の視線が交差する。
「 〝地の果てまで墜ちろ〟 」
「 〝明鏡止水遊々海魚〟 」
――僕は超重力によって地面に叩きつけられ、〝白絵〟の身体には一匹の巨大なムカデが巻きついた。
「――これは〝むかで〟の?」
「引けェ! 〝むかで〟……!」
〝白絵〟はムカデに引っ張られ、宙へ放られる。
そして、その〝白絵〟を既に無数の水の矢が包囲していた。
「 爆 」
――爆ッッッッッッ……! 全ての水の矢は水蒸気となり爆ぜる。
「また毒ガスかい?」
「不正解♪」
水蒸気の弾幕の中、一つの影が〝白絵〟に迫り来る。
「ただの視界封じだよ♪」
「なら吹き飛ばすまでだ♪」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 〝白絵〟が暴風で水蒸気の弾幕を吹き飛ばす。
「おや?」
……その暴風を物ともせずに、〝白絵〟に突っ込む人影がいた。
「まだ、戦えたんだ」
「……」
――〝むかで〟である。〝むかで〟が〝白絵〟に飛び掛かっていた。
「馬鹿正直に突っ込んできて死にたいのかい?」
「……」
白 轟
〝白絵〟が零距離で光線を放つ。
「零距離なら水圧は関係ない筈
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 〝むかで〟が光線を殴り飛ばした。
「素手で受けるとはやるじゃないか」
「……」
――今度は〝むかで〟が零距離で技を繰り出す。
百 足 王
……〝白絵〟の視界を埋め尽くす程に巨大なムカデを。
「必死だね。だけど、拳も要らないよ」
――ビシッ……。〝白絵〟は〝百足王〟にデコピンをした。
それだけ。
ただのそれだけで。
――〝百足王〟が粉々に弾け飛んだ。
「 吹き飛べ 」
〝白絵〟がそう呟いた。ただそれだけで――……。
――〝むかで〟は砲弾のような勢いで吹っ飛ばされた。
……しかし、それも〝囮〟である。
「 〝大海震掌〟 」
――僕は〝白絵〟の背後まで到達していた。
「――来なよ、返り討ちにしてやるから♪」
〝白絵〟の反応は早い。既に振り向き反撃の態勢に入っていた。
「 遅いよ 」
僕と〝白絵〟との間合い――およそ一メートル!
――〝大海震掌〟の間合いだ……!
「 〝消〟 ろ
え ォ 」
その標的は――……。
――〝白絵〟
――〝white‐canvas〟
「 〝消〟えろっ……! 」
大 海 震 掌




