第413話 『 積み重ねた力 』
「 今夜、お前を殺せるということなのだよ 」
ハッタリではない。
〝むかで〟は本気だ。
〝むかで〟は本気で僕を殺そうとしている。
「――面白い」
僕は笑う。
「ならば僕は逃げも隠れもせずにお前の希望を打ち砕こうか」
……〝むかで〟の〝white‐canvas〟対策には心当たりがあった。
(十中八九、何かしらの手段を以て僕の〝white‐canvas〟を封殺しようとしているんだろう)
夜凪夕・タツタやアークのように、直接僕の〝white‐canvas〟を妨害する他に、僕を殺す手段はなかった。
(ならば、こちらが先手を打とうか)
僕は〝特異能力〟封じを封じる魔術を発動する。
(これでお前が幾ら小細工をしようが、僕の〝white‐canvas〟に干渉することはできなくなった)
「 無駄な足掻きだな 」
……〝むかで〟が小さく溜め息を吐いた。
「どんな小細工を使ったのかは知らぬが、既に決着はついている」
〝むかで〟が僕に手をかざす。
「何を――……」
雷
――神速のムカデが迫り来る。
(――ただの〝雷〟?)
しかし、それなら心配の必要はない。
僕には魔法障壁が
(――ない)
……そう、魔法障壁を展開することができなかった。
「――っ」
僕は紙一重で〝雷〟を回避する。
同 時 。
〝むかで〟を目で追う。
(――消えた?)
……つい先程までいた場所に〝むかで〟の姿は見当たらなかった。
(いや――……)
――既に〝むかで〟は僕の真横にいて、中段蹴りのモーションに入っていた。
僕は腕を立ててガードする。
(――重いっ、そして、この感覚は)
……魔力の膜が消えていた。
「 気づくのが遅かったな 」
――僕は堪らず吹っ飛ばされる。
(魔術が封じられている? 何故だ、確かに対策はしていた筈)
僕は着地しながら思考を巡らせる。
(――いや、待てよ。対策したのは〝white‐canvas〟に対してのみ! 魔術に対しては対策していなかった!)
ならば対処は簡単だ。〝white‐canvas〟で魔術妨害を妨害する魔術を創造すればいい。
――〝特異能力〟、解放
(これでチェックメイトだ――……)
w v n
t ィ e a
h キャ ス
「――」
……発動しない。
(何故だ? 確かに〝white‐canvas〟に対する封じ対策はしていた筈だ)
しかし、〝white‐canvas〟は発動していなかった。
千 獄
――千を超えるムカデの大群が襲い掛かる。
「――っ」
僕は後方へ下がり、ムカデの大群をかわす。
「理解できていないようだな――〝白絵〟」
「――っ」
後退した先に〝むかで〟が回り込む。
「〝white‐canvas〟攻略には二つの鍵が必要だった」
〝むかで〟が殴り掛かる。
僕はそれをガードする。
一 方 通 行
――ゴッッッッッッッッッ……! しかし、〝むかで〟の拳は容易く僕のガードを突き破り、頬骨に叩き込まれる。
「――ッッッッッッ……!」
僕は吹っ飛ばされ、壁を突き破り、隣の部屋まで投げ出される。
「一つ目は〝特異能力封じ〟」
〝white‐canvas〟がある限り僕は何でもできる。故に、僕を殺すには先に〝特異能力〟を封じなければならなかった。
「だから、まず最初に俺は〝共鳴する指輪〟を手に入れた」
――〝共鳴する指輪〟
(……確か、契約した精霊の能力を行使できる魔導具だったかな)
そして、〝むかで〟は〝精霊王〟を所持していた。
〝精霊王〟には特殊能力がある。それは効果範囲内の魔術・〝特異能力〟強制妨害。
「成る程、その指輪を使って〝精霊王〟の〝魔絶〟を使った訳だ」
道理で魔術だけでなく〝特異能力〟まで封じられた訳である。
「そう通りだ。俺は二年間〝魔絶〟の効果範囲と〝共鳴する指輪〟の共鳴距離を拡げる為に〝精霊王〟に三体の〝八精霊〟を捕食させたのだよ」
〝八精霊〟を三体も捕食すれば、かなりの距離をカバーできるのであろう……それこそ地球の反対側だって不可能ではなかった。
「だが、解せないね」
「……」
魔術・〝特異能力〟封じの理屈は理解した。
しかし、まだ説明されていないことがあった。
「僕は確かに〝white‐canvas〟で〝特異能力封じ〟対策をしていた。しかし、現状、僕は〝特異能力〟を封じられている――それが二つ目の鍵だと言うのかい?」
「やはり聡いな。貴様の予想通り、その答えは二つ目の鍵にある」
――二つ目の鍵。それが〝white‐canvas〟攻略の鍵であったのだ。
「 二つ目の鍵――それは〝レベル〟だ 」
「――レベル?」
一瞬、僕は〝むかで〟の解答が理解できなかった。
「 Lv.56525 」
〝むかで〟が小さく呟く。
「それが昨日までの貴様のレベルだ」
「……………………へえ、成る程ね」
……そこで僕は悟った。
「くくくっ、驚いたよ。僕は今までお前程に勤勉な人間を見たことがない」
この世界のルールの一つに、〝レベル〟という概念がある。
それらは純粋な強さそのものを示すのではなく、経験や未知との遭遇等から獲ることができ、必ずしもレベルが高い者が強いとは限らなかった。
本来、強さの指標でしかないレベルであるが、たった一つだけ戦闘に影響する要素があった。
――相反能力基準
……滅多にあることではないが、相反する能力が衝突した際の優劣を決めることができるのだ。
例えば、絶対に殺す能力者と絶対に死なない能力者がいた場合、レベルが高い方の能力が優先される――これがレベルのもう一つの要素である。
(僕は今まで僕よりもレベルの高い人間を見たことがなかった)
初めてのことであった。
「 Lv.58221 」
……まさか、自力でレベルを上げて、僕のレベルを上回るなんてね。
「……執念、という奴かな?」
「積み上げてきたのだよ、貴様を殺す為にな」
〝むかで〟の殺意と魔力が高まる。
「……………………初めてだ」
僕はこの世界に来て初めて、その感覚に遭遇した。
恐 怖
緊 張
感 動
……僕は初めて冒険をするのだ。
(……これが真剣勝負)
……これが本当の戦い。
今の僕は〝white‐canvas〟を使えない。
魔術も魔力の防御壁も膜も使えない。
体術は互角だが、〝むかで〟には〝蟲龍〟がある。
(……勝率は――十パーセントってところかな?)
それでも僕は笑っていた。
「さあ、決着をつけようか」
〝むかで〟の背中から八つの巨大なムカデが出てくる。
「〝むかで〟としての最後の戦いだ……!」
「――♪」
……巨大なムカデが一挙に襲い掛かる。




