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 第408話 『 闇に堕ちる。 』



 「シロエェェェェェェェェェェッッッ……!」


 ……俺の怒号が閑散とした街に響き渡る。


 俺は黒い魔力を纏い、その赤い眼光は〝白絵〟を捉える。


 「――♪」

 「〝白絵〟――……」


 ……コイツは正真正銘の〝悪〟だ。


 「俺はお前を許さない……!」

 「お喋りがしたいのかい? 御託はいいからさっさと殺しに来なよ」


 ……壊さないといけない。


 ……生きていてはいけない。


 「ああ、死ね……!」



 ――俺は既に〝白絵〟の正面で拳を振りかぶっていた。



  極 ・ 闇  夜  崩  拳



 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺は〝白絵〟の顔面に拳骨を叩き込み、〝白絵〟は堪らず吹っ飛んだ。


 「殺すっ、殺してやるっ、〝白絵〟ェッッッ……!」


 「いいね♪」


 俺は次から次へと〝白絵〟に拳を叩き込む。


 もっと


 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと


 ぶっ壊れるまで


 骨も残らないように



 ――叩き壊せ。



 〝白絵〟は何度も何度も殴られ、ガードも回復も追い付かない肉体は徐々に傷を増やしていた。


 「――」


 ……一瞬。


 ……ほんの一瞬だけ。



 ――何で、〝白絵〟はやり返さないんだ?



 ……そんな疑問が脳裏を過った。


 (だから何だって言うんだよ……!)


 〝白絵〟はカノンを、カグラを、ドロシーを殺した。


 (殺す理由なんてそれだけで充分だろうがよ……!)


 俺は再び、〝白絵〟を殴る。



 「もっと全力で来なよ、タツタ」



 ――パシッ……。〝白絵〟が俺の拳を受け止めた。


 「――」

 「そんなんじゃ、僕の〝white‐canvas〟を挫くことはできないよ♪」



  トール   き   ハン   マー



 ――ゴッッッッッッッッッ……! 〝白絵〟の〝ソル閃光ライトニング〟を纏った鉄拳が、俺の土手っ腹に炸裂した。


 「――ッッッッッッ……!」


 俺は堪らず吹っ飛ばされ、民家を突き破った。


 「……良かった……やり返さないんじゃ、歯応えなかったからな」


 〝極・闇黒染占〟で強化されている俺の身体は、この程度ではくたばらなかった。


 「これで思う存分、てめェをぶっ殺せるよ」


 ……俺は〝空門〟を抜刀する。


 「〝極〟」



   黒    飛    那



 ――圧倒的に強大な黒い衝撃波が〝白絵〟目掛けて放たれた。


 「――♪」


 〝白絵〟が笑う。



   同   時   。



 ――〝極・黒飛那〟が霧散した。


 「僕の〝white‐canvas〟は完全無欠―― 一辺の死角もありはしない」


 ――〝white‐canvas〟


 ……あらゆる魔術を創造し、それを実現する〝特異能力スキル〟だ。

 この〝特異能力スキル〟を前にすれば、あらゆる攻撃も打ち消すことだってできた。


 「一辺の死角もありはしない、か……はははっ」

 「……何がおかしい」


 〝白絵〟は笑う。


 「実は言うと死角ならあるんだ。僕の脳内にね♪」

 「……脳内?」


 〝白絵〟は自分の頭に指を当てる。


 「僕の脳内には真っ更な白いキャンバスがある。これこそが僕の〝white‐canvas〟の核なんだよ」

 「……」


 〝白絵〟は流暢に語り続ける。


 「僕の〝white‐canvas〟は想像を現実に変える力ではなく、この脳内キャンバスに描かれたことを実現する力だってことさ」

 「……?」


 俺には〝白絵〟が言わんとせんことも、自身の能力の全容を打ち明ける理由もわからなかった。


 「察しが悪いね。お前には万物を黒く染める力――〝極黒ブラック侵略者ペイント〟がある。そして、僕の〝white‐canvas〟の核は、脳内にある白いキャンバスだ」

 「――……あっ」


 そこで俺は〝白絵〟の伝えたいことを理解した。


 ……黒く染める力。


 ……白いキャンバス。


 「 お前の〝極黒の侵略者〟で、僕の脳内にある〝white‐canvas〟を黒く塗り潰せば、僕の〝white‐canvas〟を無力化できる 」


 ……一部を除いてね、と〝白絵〟は小さく笑った。


 「……」


 ……できるのか、そんなことが?


 しかし、やってみる価値はあった。


 「……〝特異能力スキル〟、解放オーバーロック


 俺は〝白絵〟に手をかざす。



 極  黒  の  侵  略  者



 ――そして、俺は〝白絵〟の脳内キャンバスを黒く染めた。


 「……」

 「……」


 ……できたのか? 俺は疑心暗鬼に駆られる。


 「……試してみようか?」


 〝白絵〟が俺に人差し指を向けた。


 「これから僕が必殺の魔術をお前に穿つ。発動すればお前は死ぬが、発動しなければお前は何も起こらない」

 「……」


 〝白絵〟の提案に俺は無言で肯定した。

 どの道、この理論を証明しなければ〝白絵〟を殺すことなどできなかったからだ。


 「……」

 「……」


 俺と〝白絵〟は無言で睨み合う。


 「行くよ」

 「ああ」


 〝白絵〟の人差し指が確実に俺を捉える。



 「 BANG♪ 」



 ……沈黙が訪れる。


 「……」

 「……」


 ……俺の頬を冷や汗が滑り落ちる。


 「……」

 「……」


 ……滴り落ちた汗が地面に落ち、弾けた。


 「……まっ、こんな風に僕は〝white‐canvas〟を使えなくなった訳だ」


 〝白絵〟がやれやれとでも言うように溜め息を吐いた。


 「……」


 ……本当に〝white‐canvas〟を封じちまった。


 (行ける。今度こそ俺は〝白絵〟に――……)



  勝   て   る   。



 (――だが、一つだけわからねェ)


 ……そう、それは純然たる疑問。


 「……何で、俺に弱点を教えた?」


 「――♪」


 当然の疑問に〝白絵〟は笑う。


 「退屈だったからね。〝white‐canvas〟ありじゃ、この戦いはつまらな過ぎる」

 「……」


 ムカつくが事実であった。


 「それにいつまでも悠長にお喋りしているつもりだよ」


 〝白絵〟が頭上に巨大な魔法陣を展開する。


 「アクアライン一家、〝刀匠〟カグラ、カノン=スカーレット、ドロシー=ローレンス……お前の大事な人間を殺した人間が、こうしてお前の前に立っているんだ」

 「……」


 「 存分に殺し合おうじゃないか 」


 「……」


 ……俺は静かに〝空門〟を握り直した。


 「……ああっ」


 〝白絵〟は俺の大切な人達を殺した。


 それは揺るぎない事実。


 そして、俺の胸の中にある感情ほんしん


 「お望み通りぶっ殺してやるよ……!」


 「――♪」


 ――俺は〝白絵〟へ向かって飛び出した。




 「 タツタさん……! 」




 「――っ」


 急に名前を呼ばれ、俺は脚を止める。

 俺は声のした方向へと視線を送る。


 「――ギルドッ……!」



 ……ギルドが必死な形相で駆けつけてきたのだ。


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