第407話 『 ぶっ殺してやる 』
――覚悟はしておけよ
……少し前に〝空門〟に言われた言葉が脳裏を過った。
「……ドロシー」
俺は名残惜しむように、掌の花弁を見詰め、呟いた。
……俺はドロシーを死なせてしまった。
……〝白絵〟に殺されたのだ。
(……俺は間違っていたのか?)
俺の勝手な我儘で〝白絵〟を救おうとしているが、それは間違っていたのだろうか?
〝白絵〟はドロシーを殺した。それでも〝白絵〟を救おうとすることは、最早、ドロシーの死を肯定していると言っても過言ではないのだろうか?
ドロシーが死ぬことを肯定する理論が、正しい筈がない。
――気がつけば矛盾が生まれていた。
(〝白絵〟を救う為に、大切な仲間を殺す正義が正しいとは思えねェ)
……俺は〝白絵〟を救いたかった。
だが、それは本当に、
……大切な仲間を殺してまでしたいことだったのか?
(……俺には……もう、自信が無いんだ)
〝白絵〟を救うという信念が揺らいでしまった。最早、俺はただの優柔不断野郎でしかなくなってしまったのだ。
今の俺には、〝白絵〟を救うことの正しさを証明できなかった。
「……何で、だよっ」
……本当に大切だった。
……欠け代えのない存在だった。
――だけど、〝白絵〟に殺された。
……それは揺るぎようのない真実であった。
「……」
俺はその場から動けなかった。
ただ、呆然とドロシーの死に打ちひしがれていた。
「 くははっ 」
……笑い声が聴こえた。
「……何がおかしい?」
笑い声の主は〝白絵〟で、俺は苛立たしげに問い質す。
「ははっ、悪いね。あまりに滑稽過ぎて笑ってしまったんだ」
「――」
……その言葉を聞き、俺は、俺の中で何かが切れる音が聴こえた。
「あいつらは所詮、僕達と住む世界の違う人間――いや、コミックのキャラクター程度の存在に過ぎないんだよ」
「……」
……沸々と、
「そんなフィクションの存在の死に、胸を悼めている姿が滑稽過ぎて笑ってしまったんだ」
「……」
……沸々と沸き上がる。
「あはははっ」
「……」
……これは〝怒り〟なんて生温いものではなかった。
「くはははははははははははははっ」
「……」
……それは猛る炎のように凶暴で、迷いなど一ミリもない程に純粋な感情であった。
そう、それは正真正銘の――……。
極 ・ 闇 黒 染 占
「 ぶっ殺してやる 」
……殺意であった。




