表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
415/462

 第405話 『 百花繚乱 』



 ――跳べ!


 ……俺は考えるよりも先に地面を蹴っていた。



  空  龍  の  呼  吸



 ――駆ッッッッッッッッッッ……! 俺は神速で、ドロシーの下へ飛び出した。


 〝白絵〟がドロシーの肩に触れて一秒後。俺はドロシーの腰に腕を回していた。


 「ドロシーにッッッ……!」


 ――ぐいッッッ……! 俺はそのままドロシーを引き寄せ、抱き抱え、神速で離脱する。


 「手ェ出すんじゃねェッッッ……!」


 僅か一瞬で俺は〝白絵〟からドロシーを奪取することに成功した。


 「――♪ 腕を上げたね。ただ速いだけならともかく、ドロシーに負担が掛からないよう運ぶのは至難の技だよ」


 そうだ。この僅か一瞬の間、俺は周辺の空気を支配し、ドロシーに風圧が掛からないようにしていた。


 「〝黒土〟の〝黒檻〟からも出られたみたいだし、順調に成長していて僕も嬉しいよ」

 「……」


 〝白絵〟は以前会ったときと変わらない、飄々とした雰囲気で語り掛ける。


 「世間話をしに来たんじゃねェんだろ、さっさと用件を言いな」

 「……用件?」


 〝白絵〟は笑みを崩さず、言葉を紡ぐ。


 「僕はただ、お前の後ろにいるドロシーを殺しに来ただけだよ」

 「……っ!」


 ……ドロシーを殺す?


 「……させると思うかよ」

 「……」


 俺は半歩前に出て、〝白絵〟に刃を向ける。


 「……………………くくくっ」


 ――〝白絵〟が笑った。


 「……何がおかしい」


 〝白絵〟は依然と笑い続ける。


 「何がおかしいっ!」

 「いや、すまない。あまりに滑稽過ぎてね」

 「……っ」


 ……嫌な予感がした。


 「ドロシーを殺させない、か。悪いけど」


 俺は不意に後ろを向く。



 「 手遅れだよ 」



 「――っ!」


 ……俺は目に映る光景に絶望した。


 「……?」


 ……桜色の花弁が舞う。


 「……ドロ……シー」


 ……それは元はドロシーの手であったものだ。


 「――〝百花繚乱ザ・フルール〟……触れたものを花弁に変える魔術だよ」


 ……花弁に……変える?


 「――タツタ、くん」


 ――ドロシーの左脚が花弁となり、ドロシーは堪らず、倒れる。


 「ドロシー……!」


 俺は倒れるドロシーを抱き抱えた。


 「……」


   嘘   だ   。


 (――また守れなかったのか?)


   嘘   だ   。


 (……クリスの次はカノン、カノンの次はドロシー。俺はまた仲間を守れなかったのか?)


   嘘   だ   。


 (俺は死んでも仲間を守るんじゃなかったのかよ……!)



 ――バイバイ、タツタさん



挿絵(By みてみん)


 ……クリスに守ってもらった。



 ――幸せな時間をありがとう



挿絵(By みてみん)


 ……カノンを救えなかった。



 ――ドロシー=ローレンスは空上龍太のことが大好きでした……!



挿絵(By みてみん)


 ……こんなを俺を大好きだって言ってくれた。



   嘘   だ   。



 ……こんなのってねェよ。


 ……救いがなさ過ぎるだろ。


 どうして、俺の大切なものはいつも簡単に手から溢れ落ちてしまうのだ。


 「……やめろ……行かないでくれ」


 俺は情けなく懇願する。しかし、ドロシーの崩壊は止まらない。


 「死んじゃ駄目だ、頼むから消えないでくれ」


 ……止まらない。


 ……確実にドロシーは破壊されていく。


 「……約束したんだ……フレイに仲間を守るって……約束したんだ……〝LOKI〟に……ドロシーを絶対に守り通すって……」

 「……」


 ……結局、俺は口だけなのか?


 「……約束したんだっ……約束したんだよっ」

 「……」


 ……俺は口約束一つ守れない、そんな情けない男なのかよ。



 「――泣かないでください、タツタくん」



 ……ドロシーの残った腕が俺の頬に触れた。


 「……ドロシー」


 その手は温かくて、優しくて、死に際とは思えない程に瑞々しく生きていた。


 「……少しだけお話を……最期にお話をしませんか」



 ……最期。ドロシーの口から出たその言葉に、俺は静かに覚悟を決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ