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 第402話 『 光と影、決着 』



 ――〝幻影九麗〟零の型、〝ふよう〟。


 ……それは肉体と〝影〟の共存。


 影は本体が生きている限り、この世界から光が無くならない限り、死なない。


 〝ふよう〟はそんな影の性質を肉体へそのまま反映させる力。


 使えるのはたったの数分。しかし、その数分間。



 ……夜凪夕はこの世界に生きる誰よりも強い。



 今の夜凪夕は如何なる攻撃でも死なない――それは影だから。

 今の夜凪夕は如何なるものを破壊できる――〝幻影九麗〟の全ての力を使っているのだから。


  し   か   し   。


 ……強大な力にはそれ相応の代償が伴う。


 それは――影である。


 夜凪夕は数分後、永久に影を失う。

 それは同時に――……。



 ――〝幻影九麗〟を二度と使えなくなる。



 ……ということでもあった。







 「時間が無いのはお互い様だ。手短に殺り合おう」


 ――俺は右腕を黒く染める。


 「……今までの無礼を詫びよう、夜凪夕」


 第百の剣技――〝帝剣闘衣バルト・カイザード


 〝白絵〟が右腕に白い鎧を纏う。


 第十の剣技――〝超集中領域ディープ・ポイント


 〝白絵〟の集中力が急激に高まる。


 「ここから先はお前だけを見てやるよ」

 「キモいからやだ」


 俺の姿が消える。


 〝白絵〟の姿も消える。


  次  の  瞬  間  。



 「「 じゃあ、死ね 」」



 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!!!!



 ……俺の拳と〝白絵〟の拳が衝突した。


 同時。周囲一帯が衝撃で吹き飛ぶ。

 同時。片方の腕が弾かれる。


 「 ぶっ飛べェ! 」


 ――顔面直撃。〝白絵〟は堪らず遥か向こうの方まで吹っ飛ばされる。


 その勢いは凄まじく、民家や店を幾つも破壊しながら、突き進む。


 (これなら魔力の膜は突き破れる! だけど、〝不殺剣メディケーション〟があるからすぐに回復されちゃう筈だ)


  だ  か  ら  。



 ――俺は既に〝白絵〟の真上にいた。



 (回復が追い付かないレベルでダメージを叩き込む!)


 「――っ」

 「うおおォォォォォォォォォォォォッッッ……!」


 ――ラッシュ。


 ……地面が陥没する。


 ――ラッシュ。


 ……地割れが大地を切り裂く。


 「ォォォォォォォォォォォォォォォッッッ……!」


 俺は殴って、殴って、殴りまくった。


 (やれる! これなら〝白絵〟を倒せ



 第七十七の剣技――〝サウザンドナイフ


 第八十八の剣技――〝記憶殺メモリーアウトし〟


 第四十の剣技――〝遅刻魔スロースターター



 ――俺の周りに無数の刃が包囲していた。



 「――っ」

 「――♪」


 ……無数の刃が俺を貫いた。


 「 効かないよ♪ 」


 ……しかし、俺は満面の笑みで笑った。


 「今の俺にこの程度の攻撃、時間稼ぎにもならないよ」


 ――ラッシュ。


 俺は再び〝白絵〟を殴


 「一瞬でも気を逸らせたのなら充分だ♪」


 ――パシッッッ……。〝白絵〟が俺の拳を受け止めた。


 「 〝ソル閃光ライトニング〟 」



 ――閃ッッッッッッッッッッッッッッッ……! 零距離の〝白き閃光〟が俺を吹っ飛ばした。



 「――ぐっ!」


 俺にダメージは無い。しかし、折角詰めた距離を離されてしまった。


 (すぐに追い掛けないと!)


 この身体でいられるのもそう長くはない。時間稼ぎで逃げられたり、隠れられたりしたらこちらが不利であった。


 「――しないよ、そんなケチなこと」



 ――刺ッッッッッッッッッッ……! 空中から大剣を降り下ろした〝白絵〟が、そのまま俺を突き刺した。



 「だから、効かないってば!」



        氷



 ――俺は大剣ごと〝白絵〟の腕を凍らせた。


 「――それと言ってなかったけど、普通に〝幻影九麗〟の能力も使えるから♪」

 「あらら」


 俺は〝白絵〟が氷結を溶く前に、〝白絵〟の頭上に回り込む。

 そして、間髪容れずに左腕を〝白絵〟に叩き


 ――パシッッッ……。しかし、〝白絵〟は氷結していない手で、俺の拳を受け止めた。


 「今だ……!」

 「――」



        結



 ――俺の左腕と〝白絵〟の左腕が同化した。


 「これで逃げられないよね」

 「ちょっと、ヤバいね」



 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 黒い拳が〝白絵〟の顔面に叩き込まれた。



 「――ッッッッッ……!」


 「まだまだァ……!」


 ――ラッシュ。


 俺は何度も何度も、絶え間なく、〝白絵〟を殴りまくった。



 第七十七の剣技――サウザンドナイフ



 ――ドドドドドドドドドドッッッッッ……! 無数の刃が俺を貫く。


 「だから、効かないってばッッッ……!」


 俺は構わず〝白絵〟を殴り続ける。


 (行ける……!)


 〝結〟で〝白絵〟は逃げられない。


 魔力の膜も、この拳なら突き破れる。


 〝不殺剣メディケーション〟の回復速度もダメージに追い付いていない。


 (このまま、攻め続ければ勝てる! あの〝白絵〟に!)


 今まで雲の上のような存在で、絶対に勝てないと思っていた〝白絵〟に、


 (勝てる……!)


 ……〝ふよう〟の発動限界もギリギリ持つ。


 (いや、勝つんだ! 絶対に……!)


 ……俺は全てを捨てた。


 今日まで鍛え上げた力は後数分後に消えてしまう。


 ……それでも、誰も失いたくなかったからそれで良かった。


 だから、ここで絶対に倒す。


 「うおおォォォォォォォォォォォォォォォッッッ……!」


 〝白絵〟も俺に〝千殺刃サウザントナイフ〟を突き刺し、必死に抵抗するが、不死身になった今の俺を止めるには至らなかった。

 俺はナイフに刺されながらも拳を止めなかった。

 後少し、後少しで〝白絵〟は限界を迎える。


 ……そんなときだった。


 (――えっ?)



 ――〝白絵〟が笑った。



 死ぬ程殴られているのに、

 死にかけなのに、


 ……〝白絵〟は笑っていた。


 俺の中に違和感が生まれた。


 (何で〝白絵〟は無駄だと解っていながら、俺に攻撃してきたんだ?)


 俺が不死身であると解っていたのにも拘わらず、〝白絵〟は俺にナイフを指し続けていた。


 (……このナイフ……ただのナイフじゃない?)


 ……やっと気がつけた。しかし、時既に遅かった。



 「 〝遅刻魔スロースターター〟 」



 ――〝白絵〟か凶悪な笑みを浮かべた。


 「 解除 」


 「――」




  メモ   リー   アウト   し




 ――パキンッ……。頭の中の何かが壊れる音が聴こえた。










 ……あれ?



 ……思い出せない。


 ……俺、何でこの人を殴っているんだっけ?


 ……何で戦っているんだっけ?


 ……ここ、何処だっけ?


 ……俺、誰だっけ?


 ……思い出せない。



 ……俺は何一つ思い出せなかった。


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