第401話 『 零の型 』
「……それはギガルド兄ちゃんの武器」
「今は僕の武器だよ♪」
……〝白絵〟が〝百錬剣〟を手に悠然と笑う。
「ほら、呆けている暇はないよ」
第四十四の剣技――〝獄炎剣〟
――轟ッッッッッ……! 〝百錬剣〟が炎の剣となる。
第六十九の剣技――〝火龍の咆哮〟
「まずは小手調べ行こうか……!」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッ……! 灼熱の業火が竜となり襲い掛かる。
「――っ」
蛇
――どぷんっ……。俺は影となり、大地を駆け抜ける。
そして、間一髪炎の竜を回避する。
(いきなり飛ばし過ぎだろ……!)
俺は影のまま地面、建物の壁を走り、〝白絵〟の背後に回り込む。
「この魔剣の力はこんなものではないよ♪」
「――」
第一の剣技――〝快刀乱麻〟
第十一の剣技――〝達人剣〟
第十四の剣技――〝超加速〟
第十五の剣技――〝光剣〟
第四十三の剣技――〝先見の明〟
第八十五の剣技――〝不治〟
……〝白絵〟のプレッシャーが跳ね上がる。
「 ♪ 」
――〝白絵〟の姿が消える。
――俺の蹴りが空振る。
(――来る、〝光踏術〟だ!)
俺は急いで地面に潜
――ガシッッッ……! まだ、沈んでいない俺の腕を掴んだ。
「どこに行く気だい?」
「――ッッッ……!」
――俺は影から引き摺り出されて、そのまま壁に叩きつけられた。
「――っあ!」
激痛が走る。
閃光が煌めく。
「――ッ!」
俺は咄嗟にバク転からの空中三回転その場を離脱し、つい先程まで俺がいた場所に光線が炸裂した。
(……まずい! 立て直せ!)
蛇
……俺は影になり、路地裏まで避難する。
「……ハアッ……ハアッ」
息が上がる。
心臓がバクバクと跳ねる。
(……想像以上だ……強すぎるよ、〝白絵〟)
速くて、重くて、絶え間ない。幾ら〝white‐canvas〟を封じたからといって、簡単に勝てる相手ではないようである。
(今の内に作戦を、〝白絵〟を倒す為の作戦を考えな
――トンッ……。〝何か〟が俺の真上の壁に立っていた。
「 〝白き閃光〟 」
「――っ」
――真っ白な閃光が路地裏に炸裂する。も、俺は辛うじて路地裏から飛び出し回避していた。
「……ハアッ、ハアッ……全く、気づけなかったよ」
「当然だ。〝光学迷彩〟+〝絶法〟+剣技、〝無音静殺〟を複合したからね、お前が反応に遅れるのも当然の結果さ」
「……」
……強い。
〝百錬剣〟があるから強いんじゃない、良い武器を持っても使いこなせなければ意味がない。
〝白絵〟は今日初めて〝百錬剣〟を見ただけなのにも拘わらず、ギガルド兄ちゃん並みに使いこなせていた。
(……やっぱり一筋縄にはいかないね)
俺は何故か笑っていた。
「何か面白いものでも見えたかい?」
「別に、ちょっと楽しくなってきただけだよ」
「呆れたよ」
〝白絵〟が溜め息を吐き、軽く地面を蹴った。
「まさか、まだ現実が見えていないのかい?」
――トンッ……。既に〝白絵〟は俺の背後に回り込み、斬りかかってきていた。
「スイッチ」
「……?」
「 入れ 」
――カチッ……。
……俺は紙一重で〝光剣〟をかわす。
「動き、変わったね」
――次々と繰り出される斬撃。俺は全て難なくかわしきる。
「 〝闇〟 」
「――」
……周囲一帯が闇に呑まれる。
同 時 。
――俺は姿勢を低くして、〝白絵〟の足を払うように脚を振り抜く。
「 ♪ 」
――ピタッ……。俺は蹴る脚を止める。何故なら、その先には刃が控えていたからだ。
(そのまま蹴ってたら脚一本やられてた)
第十五の剣技――〝光剣〟
第七十七の剣技――〝千殺刃〟
――無数の光のナイフが俺に襲い掛かる。
俺は連続バク転で光のナイフをかわし、光のナイフは地面に突き刺さる。
そして、俺は靴の踵を削りながら地面を滑って後退する。
――ジャリッ……。〝白絵〟が俺の下がった方向に回り込んでいた。
「――」
「第五の剣技」
俺は咄嗟に〝刃〟でガードを
「 遅すぎるよ 」
一 刀 必 殺
――斬ッッッッッッッッッッ……! 俺の上半身が吹き飛んだ。
「第五の剣技――〝一刀必殺〟は、間合い内の必殺。後手じゃあ、一〇〇パーセント間に合わない
鏡
――斬られた〝俺〟が硝子のように砕け散った。
「――っ」
――疾ッッッッッ……! 〝白絵〟の後頭部へ黒い矢が迫る。
――パシッッッ……。〝白絵〟は視覚にも拘わらず、迫り来る矢をキャッチする。
でーもー、
「……これは?」
……矢の先端には黒い火が灯っていた。
「 BOM♪ 」
闇 矢 爆 衝
――轟ッッッッッッッッッッッッ……! 大爆発が〝白絵〟を呑み込んだ。
「……」
煙幕が漂う。
風が吹き、煙幕はすぐに晴れる。
「 ♪ 」
……無傷の〝白絵〟が立っていた。
「……厄介だね、魔力の膜」
あの防御の前では、生半可な不意打ちは通用しなかった。
「色々、小細工しているようだけど、やっぱり僕には児戯に過ぎないね」
「……」
……確かに、こちらの攻撃は〝白絵〟に当てても傷すらつかない。
(……そして、もしダメージを与えても)
奴には、第九十九の剣技――〝不殺剣〟がある。軽いダメージ程度では簡単に回復されてしまうのだ。
「万策、尽きたかい?」
「……」
〝白絵〟は余裕の笑みを浮かべる。
「無駄に粘られても怠いからね、少し巻きで終わらせるよ」
〝白絵〟のプレッシャーが更に跳ね上がる。
「 俺も同感だよ 」
……俺は笑った。
「……だけど、勝つのは俺だ」
……俺の身体に黒い〝何か〟が渦を巻く。
「今更、闇の魔力程度では僕にはかすり傷すらつけられないよ」
「違うよ、〝これ〟は闇の魔力じゃない」
黒い〝何か〟が俺の身体に吸い込まれていく。それと同時に、俺が握っていた〝刃〟が崩れ落ち、〝何か〟に吸収される。
「 これは〝幻影九麗〟だ 」
……〝何か〟は〝幻影九麗〟そのものであった。
「……〝幻影九麗〟?」
「そうだよ。〝幻影九麗〟には元来、〝刃〟・〝伸〟・〝朧〟・〝裂〟・〝蛇〟・〝鏡〟・〝結〟・〝闇〟・〝氷〟の九つの型がある」
……だが、それらは全て変化後の姿であり、一番ベースとして使われていた〝刃〟ですら、それらに漏れることはない。
「これは、それらのどれでもない原点。言うなれば――〝零の型〟だ」
他の型は原点から小出しで出していた力に過ぎなかった。
「だから、これこそが〝幻影九麗〟という〝特異能力〟の純粋な力であり、完全解放だよ」
「……」
〝白絵〟が無言で睨み付ける。その顔に余裕の色は無くなっていた。
「そして、この型の名は――……」
……さあ、決着をつけよう――〝白絵〟。
「 〝影〟 」
――俺は全てを捨てて、お前を倒す……!




