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 第400話 『 white‐brake 』



 「久し振り、〝ジャック〟」


 ……俺は約四ヶ月振りに再会する喋る人形に挨拶をした。


 「久し振りって……キミ、死ぬ一歩前なんだよ。悠長過ぎないかな?」

 「まあね、今回は意図的に遊びに来たからね」

 「……意図的に遊びに来たのはキミが初めてだよ」


 ……とは言え、今回もここに来られるかは半分博打であった。

 前回、ここに来れたからといって、今回もこの場所に来れるとは限らないからね。


 「ここって、〝異界人アリス〟なら死の直前に誰でも来れるの?」

 「そうだね、一応、こちらが一方的に呼び寄せたのに、死んだらテキトーに放置とかあまりにも人情味が無いからね♪」

 「……へえー」


 そもそも、あんた等人間じゃなくない? とは突っ込まなかった。


 「ここは死の分岐点、肉体が生命維持できる状態で、心さえ折れていなければ何度でも蘇ることができるよ」

 「なるほどね」


 ……だから、心臓を破壊され、尚且つ、〝不治デッドエンド・サークル〟を発動していたジェノスは蘇ることができなかったとのことであった。


 「……それで、何の用件でここまで来たんだい?」


 「考える時間が欲しかったんだ」


 〝ジャック〟の問いに俺は即答した。


 「……ここでの時間は外の世界より遥かに進みが遅い、前回ここに来たときに覚えたよ」


 ――だから、


 「ここで〝白絵〟の〝white‐canvas〟の攻略法を見つけ出す……!」


 「良いね! やっぱり、ボクの見る目は正しかったようだ!」


 〝ジャック〟が俺の回答に喜色の笑みを浮かべた。


 「……で、俺の〝特異能力スキル〟でどうやって〝白絵〟を倒せるのか教えてくれない?」


 「超他力本願っ!?」


 〝ジャック〟がガビーンとショックを受ける……人間より人間らしいリアクションをする人形である。


 「ねえ、教えてくれよー。このままじゃ、俺死んじゃうよー」

 「……図々しい転生者だね」


 頼み込む俺に〝ジャック〟が少し退いていた。


 「このまま俺が死んだら、〝ジャック〟も後味悪いんじゃない? だから、ヒントちょーだい♪」

 「……」


 俺はぐいぐい〝ジャック〟に迫る。

 すると、〝ジャック〟は小さく溜め息を吐いた。


 「別にキミが死んだからって、ボクは別に悲しんだりはしないけど……キミに勝って欲しい理由があるから、ヒントぐらいなら教えてあげる♪」

 「マジで、やったーっ!」


 ジェノス曰く、〝ジャック〟は神の使いのようなもので、神ではないようではあるが、今だけ神様に見えた。


 「ヒントは三つだけ、一回しか言わないからちゃんと聞いてね」

 「うん」

 「まず一つ」


 ビシィッと、〝ジャック〟は人差し指を立てる。


 「〝white‐canvas〟も〝幻影九麗〟も、共通して創造力イマジネーションが能力の核にあること」

 「……うん」

 「もう一つ」


 〝ジャック〟は続いて中指を立てる。


 「〝白絵〟の能力は想像した魔術を実現する力ではなく、脳内にある真っ白なキャンバスに描かれたことを実現する力であるということ」

 「……うん?」


 最後に〝ジャック〟は薬指を立てる。


 「能力の核が〝創造力〟であるなら幾らでも騙しようがあるということ。これだけ言えばわかったかな」

 「……???」


 ……よくわからなかった。


 「ごめん、もう少しわかりやすく言ってくれない?」

 「ブッブーッ、もう駄目でーす」

 「……ケチ」


 これでは〝white‐canvas〟の攻略法なんてわかる筈がなかった。


 「……」


 俺はその場に座り込み、〝ジャック〟の言葉から考察をする。


 (……攻略の鍵は〝創造力〟――つまり、〝白絵〟の頭の中にある、ということは〝ジャック〟のヒントから大体わかったけど)


 具体的な解決策は思い付かなかった。


 (〝white‐canvas〟の起点は脳内にある白いキャンバス……白)


 何かが引っ掛かりそうであったが、後一歩が踏み出せなかった。


 (……俺の能力は〝刃〟・〝伸〟・〝朧〟・〝裂〟・〝蛇〟・〝鏡〟・〝結〟・〝闇〟・〝氷〟の九つ型)


 ――プラス、それらを肉体に付与する〝八咫烏〟。

 火の魔力と闇の魔力。

 剣術・敏捷性・その他の戦闘技術。


 (白いキャンバスを使えなくする? いや、塗り潰す……黒――待てよ)


 そこで、俺は改めて自身の能力を思い返す。


 (〝刃〟・〝伸〟・〝朧〟・〝裂〟・〝蛇〟・〝鏡〟・〝結〟・〝闇〟……………………〝闇〟?)


 ――〝闇〟


 ……それは効果領域内全ての光を吸収し、闇を作り出す型である。


 (……〝闇〟なら〝白絵〟の脳内にある白いキャンバスを黒く塗り潰せるのか?)



 ――お前の読みは正しい、タツタには僕を倒し得る力がある



 ……〝白絵〟は確かにそう言ったのだ。



 ……………………。

 …………。

 ……。



 ――ジャリッ……。俺は再び立ち上がった。



 「――これは驚いたね♪」


 〝白絵〟が振り向き、愉しげに笑った。


 「確実に殺したつもりだったんだけど」

 「詰めが甘いね。俺はしぶといからあの程度じゃあ、死んでやれないよ」


 俺は不敵に笑い返す。


 「だったら、もう一度殺すま



 「 〝極黒ブラック侵略者ペイント〟 」



 「……」


 ……俺の言葉に〝白絵〟が笑みを消した。


 「それが、あんたがタツタを恐れる原因だろ」

 「……」


 俺はボロが出る前に畳み掛ける。


 「それなら俺の〝幻影九麗〟でも、同じことができるんだよ」


 俺は両手を構える。


 「……できるかな? お前、程度で?」

 「だったら、今ここで見せてやるよ……!」


 ――魔力解放……!


 「 〝幻影九麗〟、捌の型 」




        闇




 「――」

 「――」


 ……何も起きない。


 「ハッタリは終わりかな?」

 「もう終わったよ――……」


 一見、俺達の周りでは何も起こってはいなかった。しかし、それは既に起こっていた。


 「 あんたの〝white‐canvas〟は〝闇〟で塗り潰し終えたって言ってんだよ……! 」


 ……そう、俺が〝闇〟を使ったのは〝白絵〟の脳内にある白いキャンバスであった。


 「……あんたがタツタを恐れていたのは、あんたの能力の起点が白いキャンバスだからだろ? だから、黒く染める能力を恐れたんだ――違うかい?」

 「……」


 〝白絵〟は無言で俺に手のひらを突き出した。


 「お前が言ったことは正しい。だったら、試してみようか――ちゃんと、封殺できているのか」

 「――」


 〝白絵〟はこれから〝white‐canvas〟で即死の魔術を創造し、それを俺に使う。


 ……〝white‐canvas〟をちゃんと封じ込められていれば俺は死なない。


 ……だが、〝white‐canvas〟をちゃんと封じ込められていなければ――俺は死ぬ。


 「ああ、撃ちなよ! だけど、ちゃんと狙いなよ!」


 俺は自ら左胸に指を当てる。


 「そして、証明してやるよ! あんたの〝white‐canvas〟は既に終わっているとね……!」

 「……♪」


 俺も自信満々に笑う。

 〝白絵〟も不敵に笑う。



 「 BANG♪ 」



 ――俺の身体は倒れる。


 「……」


 落ちる。

 墜ちる。

 静かに落ちる。

 そして、地面に仰向けに倒れ込む。


 「……」


 ……沈黙。


 「……」


 ……沈黙。


 「……………………ははっ」





 作  戦  成  功  だ  !





 ……俺は青空を仰ぎ見て笑った。


 ……………………。

 …………。

 ……。



 ――死の境界線なる世界。



 (……〝闇〟なら〝白絵〟の脳内にある白いキャンバスを黒く塗り潰せるのか?)


 ……それができれば、俺は〝white‐canvas〟を攻略することができるであろう。


 (タツタには〝極黒ブラック侵略者ペイント〟がある。だからこそ、〝白絵〟の脳内にある白いキャンバスを塗り潰せる――だけど)


 俺が使えるのは〝極黒の侵略者〟ではなく、〝闇〟である。他人の脳内まで干渉は不可能であった。


 (やっぱり、俺には無理な



 ――能力の核が〝創造力〟であるなら幾らでも騙しようがあるということ



 ……〝ジャック〟の言葉が脳裏を過る。


 (……騙す。そうか、騙せばいいのか)


 光明が見えた。


 (〝闇〟が他人の脳内に干渉できると思い込ませればいい)


 〝白絵〟は〝闇〟が他人の脳内まで使えないことを知らない。そして、〝白絵〟に脳内のキャンバスが黒く塗り潰されていると思い込ませることができれば――……。


 (〝白絵〟の脳内のキャンバスは勝手に黒く塗り潰される……描いたことを実現できるキャンバスも所詮は頭の中の産物、言葉一つで惑わすこともできる筈)


 そして、〝白絵〟には戦闘において、たった一つ、重大な欠点があった。


 (――〝白絵〟は戦闘中、読心術を使わない)


 雷帝武闘大会でも、ジェノスとの戦闘も使えばもっと簡単に勝てた筈なのに、〝白絵〟は読心術を使わなかったのだ。

 傲りか、慢心か、わからないがその点が〝白絵〟唯一の弱点であることも事実であろう。


 (読心術を使わないのであれば、俺は〝白絵〟を騙すことができるんじゃないのか?)


 いや、できるんじゃないのか? ではない、やらなければいけないんだ!


 「――〝ジャック〟、ありがとう!」


 俺は〝ジャック〟に大きな声で感謝の気持ちを伝える。


 「ちょっくら、魔王でも倒してくるよ……!」


 ……そして、俺は満面の笑みを浮かべた。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 ――イクサスの街。


 「……まさか、お前の〝幻影九麗〟がここまでとはね。僕はどうやらお前を見くびり過ぎていたようだね」


 〝白絵〟が起き上がった俺に称賛の言葉をくれた。


 (……これで〝white‐canvas〟は封じた。残るは魔術と体術だけ)


 〝白絵〟はどちらも最強レベルであったが、〝white‐canvas〟さえ封じれば、絶対に勝てない相手ではなかった。


 「ここから全力でお相手しようかな」

 「遅いぐらいだね」


 ……ここまでたどり着くのに苦労した。


 一回死んで、

 攻略法を考えて、

 演技をして、

 もう一回死にかけて、

 やっと〝white‐canvas〟を封じた。


 (……たぶん、俺が初めてだろうね)



 〝白絵〟とガチンコ勝負をするのは……!



 「ここまで来たんだ。マジでぶち倒すよ」


 ――〝特異能力スキル



  オー   バー   エン   



 「〝白絵〟……!」




           がらす




 「……僕は運が良かったよ」


 ……〝白絵〟が悠然と笑う。


 「先にギガルドと戦っていてね♪」

 「――」


 それは伝説の魔剣。

 それはつい先程まで仲間が持っていた剣。



 ……〝白絵〟の手に握られた〝百錬剣アルケミスト〟が射し込む日差しを反射した。


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