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  第35話 『 蟻の一噛み 』


 「……」


 ……吹っ飛ばされた大男は無言で立ち上がった。


 「……チッ、無傷かよ」


 〝灼煌〟を受けてなお、平然としている敵の頑丈さに俺は毒づいた。


 「ギルド、状況を教えてくれ」

 「はい」


 それからギルドは今の状況を簡潔に述べてくれた。

 目の前に立ちはだかる大男が〝おにぐも〟、向こうの比較的に浅い水溜まりで休息を取っている満身創痍の優男が〝しゃち〟。

 後ろの方の茂みで隠れている双子がレイとリン。へし折れた倒木に掴まり、水溜まりの上を浮いている女が双子の母にして天才魔術師――ニア=アクアライン……ということらしい。


 「それでお前はニアの回復、俺はその時間稼ぎをすればいいんだな」

 「……できますか? あの〝おにぐも〟相手に」


 「 できるさ 」


 心配そうな顔をするギルドに俺は即答した。


 「いや、やるんだ」

 「……タツタさん」

 「おっと、お喋りはここまでみたいだ」


 俺は〝おにぐも〟の方へ再び意識を戻した。


 「……」


 ……何て冷たくて重い殺気なんだ。


 「向こうさんは殺る気満々のようだぜ」


 ……正直、無理にでも強気でいないとプレッシャーに押し潰されそうだ。 

 レベルなんて見えないが、見えなくたってわかるよ。コイツと俺では次元が違いすぎる――格上とかそういう次元じゃない、蟻と人間の戦いだ。

 ……でも、戦うんだよ。

 俺の背中には傷つけちゃならねェ仲間がいる。

 一緒に戦ってくれる仲間がいる。

 戦う理由なんてそれだけで充分じゃないか。


 「待たせたな」

 「別に構わない」


 ――鉄仮面。不気味なほどに〝おにぐも〟の表情は変わらなかった。


 「どうせ誰も助からない」

 「決めつけるなよ。やってみないとわからないことだってあるさ」

 「いや、俺が助からないと言った以上お前らの死は絶対だ」


 ――ガキイィィィィィィィン……! 俺と〝SOC〟と〝おにぐも〟の戦斧が交差した。


 「だから勝手に決めつけんなよ」

 「決めつけるさ」


 ――〝SOC〟が僅かに押された。


 「……っ!?」


 ……ヤバい、何て馬鹿力だ。受けきれねェ……!


 「全ての決定権は――……」


 ――間に合え……!


 「 強者にこそあるのだ 」



 ――斬ッッッッッッ! 〝俺〟は〝SOC〟ごと真っ二つに一刀両断された。



 「 なあ、オッサン 」


 ……だが、まだだ!


 「 !? 」


 ……まだ俺はやられちゃいねェ!


 「 〝陽炎〟って知ってっか? 」


 ――俺は既に〝おにぐも〟の懐に入り、〝SOC〟を振り上げていた。


 ……〝おにぐも〟が叩き斬った〝俺〟は熱による光の屈折からできた〝陽炎〟であった。


 「 喰らえ 」


 ……俺の背中の花弁の二枚目が粉々に砕け散った。





     灼     煌





 ――直撃。二発目の〝灼煌〟は〝おにぐも〟の土手っ腹に炸裂した。


 「――ぐっ……!」


 〝おにぐも〟が水面を二・三度バウンドして、一本木に叩きつけられた。


 「……はあ……はあ、どうだ」

 「……」


 一本木に叩きつけられた〝おにぐも〟は沈黙していた。

 ……さすがにやったか?

 〝灼煌〟には一日三発限定という限定条件がある。

 しかし、〝灼煌〟の特性はそれだけではない。


 ――進化する火力、これが〝灼煌〟のもう一つの特性だ。


 ……一発目より二発目、二発目よりも三発目――〝灼煌〟の威力はより強大になるのだ。

 故に、今〝おにぐも〟に当てた〝灼煌〟は一発目の〝灼煌〟より格段に強いのだ。


 「……」


 依然として沈黙を続ける〝おにぐも〟。

 ……頼む。どうか起き上がってくれるなよ。


 「 いい一撃だ 」


 ……クソッたれ。

 にしても、コイツ、本当に人間か?

 だって、〝灼煌〟を二発喰らったんだぞ。森を一瞬で焼き払う〝灼煌〟を二発もだ。

 それなのに、何でコイツはピンピンしてんだよ。


 「これで終わりか?」

 「いいや、ここからだ」


 ――轟ッッッ! 俺は〝おにぐも〟を囲うように〝炎幕〟を展開した。


 「 & 」



   げん   えん   ごろ   し



 ――〝炎幕〟から俺を型どった炎の分身が一斉に〝おにぐも〟に襲い掛かった。


 「 小賢しい 」


 〝おにぐも〟が高く戦斧を振り上げ――そして、振り下ろした。




 ――ゴウッッッッッ……! 戦斧が水面に衝突した際に巻き起こされた剣風が、〝幻炎〟も〝炎幕〟も全て吹き飛ばした。




 「……化け物かよ」

 「まだ何かあるんだろ」


 〝おにぐも〟が相変わらずの鉄仮面だが、少し笑った気がした。


 「そういう目をしている」

 「 御名答 」



 ――異能キ  、 オーバーロック !




  極  黒  の  侵  略  者




 ――〝おにぐも〟の足下に幾つもの黒い矢印が漫画の集中線の如く伸びた。


 よし、マーキング完了。後は――……。


 「 紅蓮業炎流魔剣術 」


 ――ダッッッ……! 俺は爆発的加速で〝おにぐも〟に飛び掛かった。



   一   刀   火   斬



 〝SOC〟の刀身に炎を圧縮し、〝おにぐも〟に斬りかかった。


 「来い」

 「 来ねェよ 」


 俺は〝SOC〟を振り下ろした――〝おにぐも〟の間合いの手前に……。


 「 !? 」


 そして、真紅の刀身が水面に浸かった――その瞬間。



 ――ボシュッッッッッッッッ……! 〝一刀火斬〟の13000℃の灼熱によって水溜まりの水が一瞬にして水蒸気になって、爆散した。



 「……視覚殺しか」


 ……殺されたのはお前だけだよ。

 何故なら、〝おにぐも〟に俺達・・の姿は見えなくとも、奴の足下へと伸びるマーキング……これで俺は奴の居場所を把握することができる。


 ……否、俺だけじゃないな。


 ――俺は〝おにぐも〟が耳で〝俺達・・〟を捉えるよりも速く奴の懐に潜り込んだ。


 「 !? 」


 〝おにぐも〟が初めて鉄仮面を崩して、目を見開いた。


 ――制約違反により、足下のマーキングが消える。


 何故なら、〝おにぐも〟の懐に潜り込んだのは俺だけではなく――……。



 「 作戦通りだね、タツタくん 」



 ……〝黒朧〟を構えたカノンもいたかのだからだ。

 カノンは絶好の機会が訪れるまで、〝黒朧〟に魔力を込めて茂みの影で待機していたのだ。

 そして、好機は訪れた。

 カノンの右手には有りったけの魔力を込められた〝黒朧〟がある。

 しかも、この〝黒朧〟は癖の強い拳銃なのだ。

 術者の魔力の残量に拘わらず、全て搾り取って一発の弾丸に換えてしまう。

 それはつまり、魔力の残量が多ければ多いほど火力が跳ね上がる訳で。


 ……そして、カノンは今日一発も拳銃を撃っていない。


 それが何を表すのか、答えは――……。


 「 てめェのその無駄に硬い体に聞くんだな 」


 ――パキンッッッ! 俺の背中の最後の花弁が砕け散った。


 更に、俺の〝灼煌〟もこれで三発目。つまり――最強の〝灼煌〟だ。

 この一撃がどれほどの威力なのかは俺にも想像がつかない。

 だがそんなことはどうだっていい。今は余計なことを考える必要は無い。

 そう、今の俺がすべきことはただ一つ。


 ――俺の最大最強を〝おにぐも〟にぶつける、ただそれだけだ!


 ……期待していいぞ、〝おにぐも〟



 「 臨界突破 」



 「 究極完全体 」



 お前が馬鹿にしたおれの一噛み、全部てめェにくれてやらァ……!






     灼     煌






     黒     朧






 ――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺とカノンの全身全霊の一撃が〝おにぐも〟に炸裂した。





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