第394話 『 精霊生転 』
……アークが能力を発動したと同時、わたしから魔力の気配が消えた。
「……他人の魔力を封殺する〝特異能力〟?」
「正解♪」
アークが不敵に笑う。
「あたしが〝無幻格牢〟を発動した以上、あんたは魔術は愚か〝特異能力〟すら発動できなくなったんだよ」
「そうみたいね」
どんなに魔力を練ろうと、わたしの身体には魔力の気配は欠片もなかった。
厄介な能力だ。しかも、見たところアークには何の制約も無いようであった。
制約無しで問答無用で魔力封殺。ただの魔術師であれば完全に詰みであろう。
「……魔力が使えないってのは理解した」
わたしは分析する。
能力の射程
能力の強度
――わたしは建物の影へ駆け込み、アークから逃げ出した。
「……なっ!」
逃げ出したわたしに戸惑うアークを無視して、わたしは狭い街路を駆け抜ける。
(……視界から逃れても魔力は回復しないね)
アークの能力は見える見えないに左右されないようである。
(だったら逃げて逃げまくって、能力の射程範囲まで離れるしかな
――足下に影が射す。
わたしは咄嗟に民家の窓に飛び込んだ。
「やっぱ、そう甘くはなさそうだね」
「あたしの〝魔眼〟からは逃げられないよ」
――わたしがつい先程までいた場所に、アークの鋭利な爪が突き刺さった。
「それじゃあ、作戦その三♪」
わたしは家の人に迷惑を掛けぬよう(手遅れ)、すぐに別の窓から外へ逃げ出した。
「だから、逃がさないって」
アークが翼を羽ばたかせ、空中から猛追する。
わたしは諦めずにアークから逃げ出す。
しかし、魔術を使えない魔術師と肉体を自在に変化することのできる魔人、優劣は明らかであった。
「諦めなよ。あんたは飛べない鳥、本物の翼を持つあたしからは絶対に逃げられない」
アークがわたしの前へ回り込み、進路を塞いだ。
しかも、周りは道幅の狭い路地裏、横にも逃げ場はないようである。
「……そう、みたいね」
わたしは観念して、逃げる足を止めた。
「あら、案外諦めが早いのね」
「利口と言ってくれたら嬉しいんだけど」
「言うかよ、馬鹿姉貴」
――ドッッッッッ……! アークが真っ正面からわたしに飛び掛かる。
鋭利な牙
鋭利な爪
凶刃がわたしを襲う。
「……ほんっと、滑稽ね」
――潰ッッッッッッ……。わたしの二本の指がアークの眼球を潰した。
「まさか、魔術を封じたぐらいでわたしに勝てるとでも思っていたの?」
「!!?」
……わたしはアークの突き出した右腕をかわし、カウンターで目潰しを決めたのだ。
「ほら、さっさと目を治しなよ」
「――よくもォ」
わたしは目潰しをした指を抜き、アークは速やかに目を修復する。
「 はい、時間切れ☆ 」
――ゴッッッッッッッッッッッ……! アークの顔面に回し蹴りが叩き込まれた。
「――ッッッッッッ!」
アークは堪らず吹っ飛ばされる。
わたしは舞い落ちる羽根のように静かに着地する。
「……あっ、魔力戻った」
わたしの身体の中で、再び魔力が流れるのを感じ取れた。
「どうやら、あんたの〝無幻格牢〟の発動には高い集中力がいるようだね」
目潰しからの顔面キックで集中力が途切れたのか、〝無幻格牢〟は解除されていた。
「……あんた、魔術師のくせに体術なんて使うんじゃないよ」
「魔術しか能がない魔術師なんて時代遅れ♪ あんた、流行に遅れてるからお姉ちゃんが今時を教えてあげようか?」
「……殺すっ」
アークが奥歯を噛み締め、殺意を高める。流石と言うべきか既に傷は癒えていた。
「次は油断しないっ、もう一度あんたから魔術を奪ってやるっ……!」
「 好きにすればいい 」
しかし、わたしは逃げも隠れもしない。
「だけど、先にあんたから魔術を奪ってあげる」
「――何を?」
特 異 能 力
「 臨界突破 」
精 霊 生 転
……そして、わたしは彼女から魔術を奪った。




