第393話 『 無幻格牢 』
「……」
「……」
……わたしとアークは静かに対峙する。
「 〝終焔〟 」
わたしは魔杖の先端に業火を灯す。
「――形状変化」
業火は炎の刃となり、一本の炎槍となる。
終 焔 の 剣
……〝魔人〟には超速再生能力がある。
しかし、それは完璧ではない。超速再生能力には穴がある。
(――焼いて斬る)
それが答え。魔人研究所での戦闘で見つけた〝魔人〟の弱点だ。
「行くよ」
「いつでもいい
――わたしは既にアークの背後にいた。
「――っ」
同時。アークの目の前にいた〝わたし〟が消える。
立 体 光 学
光 学 迷 彩
アークの目の前にいた〝わたし〟は〝立体光学〟で作り出したわたしの分身で、本物のわたしは〝光学迷彩〟+〝絶法〟で気配を消してアークの背後に回り込んでいたのだ。
わたしはアークの背中に斬りかかる。
――ガシッッッ……。魔杖の柄をアークの肉の鞭が掴んだ。
「――っ!」
「気づかないとでも思ったの?」
アークは振り向くことなくわたしに語り掛ける。
「あたしの〝魔眼〟を舐めんなよ」
――無数の肉の鞭が襲い掛かる。
「形状変化ッ……!」
わたしは〝終焔〟に魔力を流し込んだ。
(杖を握ったままでは避けれない! 杖を失えばこの先の戦いで不利になる! だから!)
――〝終焔〟の刃は長くなり、更には縦横無尽に曲がり、迫りくる肉の鞭と杖を掴む肉の鞭を切り裂いた。
(全ての攻撃を捌き切る……!)
「 逃がさないよ 」
――わたしの目の前に巨大な魔法陣が展開されていた。
「まさか、肉体変化だけがあたしの武器だと思った?」
「――」
着地してからでは間に合わない! わたしは宙に右手を差し出した。
「甘いんだよ、馬鹿姉貴」
終 焉 の 光
炸 裂 す る 炎
――閃ッッッッッッッッッッッッッッッ……! 特大の閃光が放たれる。
――ボンッッッ……! わたしは虚空を爆発し、爆風で自身を押し出す。
「――っ」
……しかし、間に合わなかった。虚空に伸ばしたわたしの右腕は閃光に呑まれ、消し飛んでしまった。
それでも即死は免れた。わたしにとってはそれで十分であった。
祝 福 の 鐘
――わたしの足が着地するよりも早く、わたしの右腕は再生した。
「早過ぎでしょ、化け物」
「超速再生は〝魔人〟の専売特許じゃないのよ」
わたしは着地と同時に後ろへ跳び、アークと距離を取る。
「……」
「……」
互いに傷はない。振り出しに戻ったのだ。
――互角。
……わたしとアークの力の差は、そう変わらないようである。
「強くなったね、お姉ちゃん」
アークは静かに肉の鞭を収めた。
「まさか、半年かそこらでここまで強くなるなんて思わなかったよ」
アークがわたしの実力を認めた。しかし、焦りや恐れの色は見えなかった。
(……あくまで自分の方が格上って訳か)
圧倒的な自信。魔王軍No.2――〝黒魔女〟の名は伊達ではないようである。
「確かにあんたの魔術は一級品だね、それは認めてあげる」
「そりゃどーも」
「だけど」
アークは不敵に笑う。
「魔術を使えなきゃ、あんたは雑魚だ」
アークが両手を合わせた。
「だから、使えなくしてあげる。この――……」
(――まずいっ!)
アークはとんでもないことをしようとしていた。
無 幻 格 牢
……一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
(――あっ)
しかし、すぐにわたしは理解した。
(……消えている)
〝終焔〟が消え、ただの魔杖となっていた。
全身から魔力の気配が消えていた。
(……わたしの魔力が完全に消えた?)
……それが、アークのもう一つの能力であった。




