第392話 『 姉妹戦争 』
「……決着をつけよう、あたしとお姉ちゃんのこれまでの全てを」
アークは背中から無数の肉の鞭を出し、それら全ての先端はわたしへ向けられる。
「……」
……どうして今なのだろう。
わたしは現状に絶望した。
(……アークとの決着、それはずっとしたかったこと)
――だけど
(何も今じゃなくても……!)
ドロシーちゃんの命が〝白絵〟に狙われている。
一刻でも早く仲間の下へ駆けつけなければならない状況。
(――最悪のタイミングだ)
落ち着け。
落ち着いて情報を整理しろ。
血は冷たく、一定に、
呼吸は深すぎず、浅すぎず、早すぎず、遅すぎず、
――既に無数の肉の鞭が目と鼻先まで迫っていた。
「――」
「集中しろよ、馬鹿姉貴」
――かわせ……!
わたしは高速でステップを踏み、無数の肉の鞭を回避する。
……しかし、集中力を欠いていた。
今までの〝魔人〟なら兎も角、アーク相手にそれは決定的なミスとなる。
――ゴッッッッッッッッッッ……! 死角からの肉の鞭がわたしの後頭部に打ち込まれた。
「――」
「お姉ちゃん、弱くなった?」
わたしは地面の上を転がり、家の壁に叩きつけられる。
「……」
……わたしは何をしているのだ?
何で戦いに集中していないのだ?
馬鹿なのか? 頭が足りていないのか?
(……冷静さを失っていたね)
……らしくなかった。
(……現状を整理しろ)
ドロシーを守らなければならない。
しかし、アークが邪魔をしてくる。
わたしはアークと仲直りがしたい。
(……難しいことなんて何もなかった)
都合や問題は色々あっても結局、やるべきことは一つであった。
――倒す
……アークを最速で、殺さずに制圧する。
(……それだけだ)
それだけを追求すれば良かったのだ。
「 いつまで寝ているの? 」
――無数の肉の鞭が壁に寄り掛かっているわたしに襲い掛かる。
「あんまり舐めていると殺しちゃうよ」
「――」
わたしは立ち上がる。
肉の鞭がすぐそこまで迫る。
光 踏 術
――トンッ……。わたしは既にアークの背後にいた。
「その言葉、そっくりそのまま返してあげる」
わたしの手には光の剣が握られている。
アークが恐る恐るわたしの方を振り向く。
「 集中しろよ、馬鹿妹 」
――斬ッッッッッッ……。アークの上体は切り裂かれ、鮮血が飛び散った。
「殺す気で来なよ。そのくらいじゃなきゃ相手にならないから」
「――」
……迷うな。
……積み重ねてきた筈だ。
……やるべきことはわかる筈だ。
……そして、それを実現する力もわたしは持っている。
「決着をつけようか」
「……ギル……ドォ」
アークの傷は既に完治している。〝魔人〟なら当然のことであった。
「わたしとアークのこれまでの全てを」
「ぶっ殺してやるっ……!」
……わたしは魔杖を構え、アークも肉の鞭を構えた。




