第391話 『 最強の〝一〟 』
「――ごばっ……!」
……俺は鎧の中で血を吐いた。
(……これが神速の世界か、体への負担が半端じゃねェな)
これが、タツタや〝むかで〟の生きる世界……悔しいが尊敬せざるを得ないな。
しかし、今は誰かを尊敬したり、羨んだりする時間はない。
(――畳み掛けろ)
――バキッッッ……! 俺の足下が弾け飛んだ。
「――見えるよ♪」
――〝白絵〟が僅かに横へ跳ぶ。
――俺の拳が〝白絵〟の真横を突き抜ける。
「悪いけど、神速を見切る〝眼〟ならとっくの昔に持っているんだ」
――トンッ……。〝白絵〟の掌が俺の横腹に当てられた。
「 よ♪ 」
「――ッ!」
白 き 鉄 槌
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 〝白き閃光〟を纏った拳が横腹に叩き込まれた。
「――ッッッッッッ……!」
俺は堪らず吹っ飛び、巨大な図書館の中へと転がる。
本棚に叩きつけられた体に古びた本が落ちてくる。
「イテテッ……なんつぅ威力だよ」
〝帝剣闘衣〟を発動していなければ、只ではいられなかったであろう。
「……しかし、神速まで見切るとはな」
甘くはないと思っていたが、予想以上に〝白絵〟との力の差は広いようである。
「だったら、もっと無茶をするしかないようだな」
第 十 四 の 剣 技
超 加 速
「――かはっ」
俺はまたも血を吐いた。
しかし、俺は倒れない。
(……もっとだ)
……俺は……まだまだ速くなれる……!
――バキッッッッッッ……! 俺の足下が弾け飛んだ。
「――来るね♪」
――〝白絵〟がカウンターで右手を前に突き出す。
「 遅ェな 」
……その横で俺は拳を構えていた。
「 第三十七の剣技! 」
「――」
剛 力
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 今までよりも遥かに強烈な鉄拳が〝白絵〟の土手っ腹に叩き込まれた。。
「――ォも、いね」
「派手にぶっ飛びな……!」
――〝白絵〟は堪らず吹っ飛び、巨大な時計塔に叩き付けられた。
時計塔は瓦解し、崩れ落ちる。
時計塔の上に取り付けられていた巨大な鐘も落ち、リンゴーンと低い音を響かせる。
「――♪」
しかし、〝白絵〟は平然と立っている。
「関係ねェ! その余裕、剥ぎ取ってやるよ!」
――トンッ……。俺は既に〝白絵〟の前にいて、間髪容れずに〝白絵〟をアッパーで打ち上げた。
〝白絵〟の軽い身体は空高く打ち上げられ、
「まだまだァ……!」
……その真横に俺がいた。
「横ォッッッ……!」
殴られた〝白絵〟は真横に吹っ飛ばされ、
「下ァッッッ……!」
間髪容れずに俺は回り込み、回し蹴りによって地面へ叩きつけた。
「……これが神速を超えた超神速か」
〝白絵〟は頭から血を流しながらも、飄々と笑んでいる。
「見事だ、ギガル
――踏ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺の全力の踏みつけが〝白絵〟の言葉を遮った。
地面は盛大に弾け飛ぶ。
「――」
……しかし、そこに〝白絵〟の姿はなかっ
――トンッ……。〝白絵〟が俺の頭上に移動しており、その手は既に俺の頭に添えられていた。
「やれやれ、人の話は最後まで聞くべきだと思うよ」
「――ッ!」
俺は逃げようと地面を強く蹴っ
「あっ、それと」
白 轟
――閃ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 目映い光の柱が立ち上がり、天を貫いた。
「慣れてしまったよ、お前の超神速ならね」
「……っ」
〝白轟〟を直撃した俺は地にひれ伏していた。
「……」
――格が違う。
(……コイツは今まで戦ってきた誰よりも強い)
身体も満身創痍だ。常に〝不殺剣〟で回復しているのに、回復が追いつかない。
(……どうする? 超神速すらも見切られた。次は? 次はどうすればいい?)
……選択肢は一つしかなかった。
しかし、その道は地獄の路だ。
その痛みもは想像を越えるであろう。
(……俺は馬鹿だし、不器用だからな)
難しいことを考えたって大した考えなんて出なかった。
だから、いつだって単純で、真っ直ぐな選択肢を選んできた。
今日だってそうだ。
俺は何も変わっちゃいない。
―― 一点突破だ。
だから、今日も明日も、俺は俺らしく生きてやる。
第 十 四 の 剣 技
その選択に間違いなどある筈がなかった。
超 加 速
「――ッッッッッッ……!」
――激痛が電流のように全身を駆け巡る。
( ま だ だ )
第 十 四 の 剣 技
「――かはっ……!」
超 加 速
……息ができなくなるぐらいに苦しかった。
……全身の筋肉が引き千切れそうな程に痛かった。
「……………………まだ……だ」
第 十 四 の 剣 技
「……俺は……お前を……お前の想像をぶち超えてやる」
超 加 速
……これが世界最速。
……タツタよりも〝むかで〟よりも、〝白絵〟よりも速い世界。
踏み入れた超超超超神速の領域。
腕も脚も辛うじて動く。
後は?
……俺の姿が消える。
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 〝白絵〟がノーガードで殴り飛ばされた。
「――は――やっ」
次 の 瞬 間 。
――〝白絵〟は右に、左に、上空へ、地面へ吹っ飛ばされた。
次 の 瞬 間 。
――民家が次々と吹き飛び、地面も弾け飛ぶ。
次 の 瞬 間 。
――〝白絵〟の身体は縦横無尽に弾き飛ばされる。
……骨は折れ、
……血飛沫は舞い、
……肉片が宙へ放られる。
――トンッ……。俺は地面に着地した。
それは俺の姿が消え、0.004秒後の出来事であった。
俺の〝帝剣闘衣〟が壊れ、元のチョーカーに戻り、俺の手の中に収まる。
〝白絵〟の肉片と鮮血が雨のように地面に降り注ぐ。
「……………………勝った」
全ての力を出し尽くした俺はその場で膝をついた。
「「ギガルドッ!」」
ユウと建物の影に隠れていたお嬢が駆け寄って来る。
「やってやったぞ、お前ら……!」
俺は勝ち誇るように、チョーカーを握る腕を天へ突き上げた。
――斬ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 突き上げた腕が切断された。
「――なっ!」
「ギガルドッ!」
理解が追い付かない。痛みも追い付かない。ただ腕を切断された事実だけが脳裏に刻まれる。
「ぐあああッッッッッッ……!」
痛みが追い付き、激痛が神経を駆け巡った。
――パシッ……。切断された腕を何者かがキャッチした。
「悪いけど、この〝百錬剣〟は僕が貰わせてもらうよ♪」
「シロエェッッッ……!」
……何てことはない、〝白絵〟は無傷で生還していた。
「……どう、やった」
「難しいことはしていないさ。僕はただ死後十秒後に自動で蘇生する魔術を〝white‐canvas〟で創造していただけだからね」
……マジ、かよ。
……それじゃ……あ……俺は……。
――スッ……。〝白絵〟の掌が絶望で俯く俺に向けられた。
「さようなら、余興にしては楽しませてもらったよ♪」
「……」
言葉も返せない。
力も魔力も出し尽くした。
「如何に数を揃えようとも最強の〝一〟には劣る。それがお前の敗因だね――ギガルド=ヴァンデッド」
「……」
〝白絵〟の掌から目映い光が放たれる。
「 バイバイ♪ 」
真っ白な世界。
焼ける肌。
不愉快な〝白絵〟の笑い声が聴こえる。
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
……圧倒的な破壊が全てを呑み込んだ。
「 死なせはしないよ 」
風が吹く。
何者かに抱えられる。
薄れ行く意識の中、ぼんやりと視界に映ったのは?
「――ギガルド兄ちゃん」
……夜凪夕であった。
「後は俺に任せて」
「……………………あ、あ」
俺は静かに瞼を閉じる。
そして、深い眠りに落ちる。
……任せたぜ……ユウ。
そして、俺の意識は完全に閉ざされた。




