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 第390話 『 〝暴食〟の盾、〝傲慢〟なる剣 』



 ……血飛沫が舞う。


 その血は赤く、生命力に溢れ、紛れもない〝白絵〟の血であった。


 「もう一丁ォッ!」


 俺は畳み掛けるように〝白絵〟に斬りかかる。


 「――」


 〝白絵〟は逃げない、逃げれない。ユウに足首を掴まれ動けないのだ。

 そんな〝白絵〟が選んだ判断は――斬り返す、であった。

 俺は〝百錬剣〟を何度も斬りつける。

 〝白絵〟は全ての斬撃を〝光剣〟で受け止める。


 「――追加ァ!」


  第  八  の  剣  技


 「――ッ!」



   インフィ    ニティー    ノヴァ



 ――斬ッッッッッッッッッッッッッッッ……! 〝白絵〟の手足から血飛沫が飛び散った。


 (〝無限刃インフィニティー・ノヴァ〟は一太刀を無限に分裂させる剣技ソードスキル――分裂した分、一撃一撃の威力は下がるがそれで充分だ!)



     アンチ     リペア



 ――〝白絵〟の比較的に浅い傷からも大量の血液が飛び出した。


 (再生妨害スキル――〝不治〟と組み合わせることにより、掠り傷を致命傷にまで昇華することができるんだよ!)


 「……くっ」


 〝白絵〟は地面に掌を向ける。



  白   き   閃   光



 ――閃ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 地面ごと吹っ飛ばされ、俺と〝白絵〟は反対方向へ弾かれた。


 「……チッ、後少しだったのにな」


 留目は刺せなかったが、あの〝白絵〟をここまで追い詰めることができた。


 「行けるね、ギガルド兄ちゃん」

 「ああ! 畳み掛けるぞ!」


 ユウも俺の元へ戻り、勝機を見出だす。


 「やるじゃないか。どうやら僕はお前達を見くびりすぎていたようだね」


 〝白絵〟は満身創痍でありながらも、平然と笑っていた。


 「伝説級の魔導具の力、少しは楽しませてもらったよ」

 「直に楽しめなくなるからな、今の内に楽しんどけよ」


 これだけ満身創痍でありながらも、余裕な態度を崩さない〝白絵〟は不気味であったが、今は攻めるべきだと思った。


 「ユウ、怪我はしてないか?」

 「さっきの光線がちょっと掠ったかな」


 〝白絵〟の足首を掴まえていたユウの手からは血が流れていた。


 「すぐに治す、手を出してくれ」

 「うん」


 〝不治アンチリペア〟、解除。


 (からのー)


 第 九 十 九 の 剣 技


 ――斬ッッッ……。俺はユウの手を〝百錬剣〟で斬った。



   メディ    ケー    ション



 「おおっ……!」


 ……あっという間に傷が癒える瞬間を前に、ユウが感嘆の声を漏らした。


 「よしっ、行けるか?」

 「うん、全力以上で行こう!」


 俺とユウは〝白絵〟に刃を向けて、対峙した。



  終   焉   の   光



 ――巨大な魔法陣が〝白絵〟の頭上に展開される。


 「向こうも本気だ! 気ィ引き締めて行くぞ……!」


  第  六  の  剣  技


 〝百錬剣〟の性質が変化する。



     ミラー     フォース



 ――閃ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 巨大な閃光が放たれる。


 ――俺は真っ正面から〝終焉の光〟を〝百錬剣〟で受け止める。


 「 ぶっ 」


 衝撃で地面が弾け飛ぶ。

 俺は負けじと歯を食い縛る。


 「飛べェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッ……!」



 ――閃ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 〝終焉の光〟が〝白絵〟へ跳ね返された。



 「……行けっ」


 その閃光は空を裂き、真っ直ぐに〝白絵〟の元へと向かう。


 「そのまま貫いちまえ……!」


 ……勝った。


 ……勝利だ。


 「行けェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ



 ――パチンッ



 ……指が鳴る音が聴こえた。


 「 破壊ブレイク 」



 ――〝終焉の光〟は〝白絵〟の目の前で霧散した。



 「――」


 何をした?


 何が起こった?


 「消したんだよ、無に還したのさ――……」


 〝白絵〟が悠然と笑う。



 「 この〝white‐canvas〟でね♪ 」



 ……既にその身体には傷一つ見当たらなかった。


 「……馬鹿なっ」

 「無駄な努力お疲れ様、お前が頑張って与えた傷は全部無かったことになってしまったね」


 ユウと二人がかりであそこまで追い詰めたのに、それが全て無かったことにされてしまったのだ。


 「……何故、回復できた? 〝不治アンチリペア〟の剣技ソードスキルは発動していた筈だっ」


 「 上書きした 」


 ――〝白絵〟は淡々と俺の疑問に答えた。


 「お前が僕に不治の呪いを掛けたのならば、僕は〝white‐canvas〟で呪いを祓う魔術を創り、お前の呪いを上書きしたのさ」

 「……何でもありじゃねェか」


 コイツに弱点はないのかよ。反則過ぎるだろ。


 「して、〝暴食〟よ。まだ僕に刃を向ける気力はあるのかな」

 「……」


 俺は一瞬、沈黙してしまった。

 〝白絵〟の〝white‐canvas〟は剰りにも強すぎたのだ。


 (……俺にはまだ八十七の剣技ソードスキルが残っている)


 そう、まだ全てを出し尽くした訳ではない。

 作戦だってまだ残している。


 (だが、それらを踏まえて)



 ――勝てる気がしねェ



 ……圧倒的な力の差。


 ……今まで多くの者がその壁に立ち向かい、多くの者がその壁の前で立ち尽くしていた。


 そんな化け物に勝てる筈がなかった。



 「 逃げるかよォ、バーカ 」



 ……しかし、俺は退かなかった。


 (危うく勘違いするところだったぜ)


 誰も〝白絵〟を倒せだなんて言っていなかったのだ。

 そもそも、今の最優先目標はドロシーの護衛だ。〝白絵〟に勝つことではない。


 (俺が今すべきことは時間稼ぎ――ドロシーを殺させないことだ……!)


 俺は改めて〝百錬剣〟を構える。


 「タツタが来るまでドロシーに指一本触れさせやしねェよ……!」


 稼ぐ。


 時間稼ぎだ。


 (……守ってやるさ)



  第  百  の  剣  技



 ――〝百錬剣〟の形が変わる。


 (この――……)




  バルト      カイ   ザード




 (――でな!)


 刃が鎧となり、頭から爪先まで俺の肉体に装着される。


 (……重いな)


 全身に重石がのし掛かったような重量感が襲い掛かる。


 (だが、力がみなぎってきやがるぜ……!)


 身体の芯から力が溢れてきていた。


 「……ユ……ウッ」

 「ギガルド兄ちゃん?」


 俺は地に手を当て、踏ん張った。


 「離れてろ、巻き込まねェ自信がねェからよっ」


 ――バキッッッ……! 俺の足下が弾け飛んだ。



 ……風が吹く。



 それは、

 音よりも

 光よりも速く、

 一直線に目的地へと前進する。




 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 〝白絵〟の額に俺の鉄拳が叩き込まれた。




 「――ッ」


 〝白絵〟は大砲玉のように吹っ飛び、民家を何軒も突き破った。


 瓦解する家々。


 舞い上がる粉塵。


 「決着つけようぜ、魔王陛下様よォ……!」


 ……悠然と立ち、微笑む魔王。


 「〝暴食〟と〝傲慢〟! どちらの罪が上なのかをな……!」


 「――♪」


 拳を構える俺。


 額から流れる鮮血を舐める〝白絵〟。



 ……決着の時は近かった。


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