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  第1話  『 Q.ヒモですか? A.ヒモですよ 』



『 初心者にもわかる空龍の剣~教えてギルド先生!~ 』



挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

↑初登場111話のクリスちゃん



 「 それでは買い出しに行ってきます 」


 ……ギルドという謎の美少女と出逢ってから三日が経過していた。

 俺は民宿で寝ては時々散歩をするという感じで療養しており、何となくであるが異世界にも慣れてきていた。

 意外なことに言葉に関しても普通に通じた。道行く人々皆明らかに日本人ぽくない外見なのに、全員が日本語ペラペラであった……まあ、基本的にコミュ障な俺は話し掛けたりはしなかったが……。

 食事に関しては旨いが、全体的に高カロリーであり、時折、味噌汁やただの白米が恋しくなったりもした。

 宿は生活するには最低限の物が揃っており、ただ寝て・起きて・散歩をするだけの俺は特には困らなかった。

 一応、宿から料理はでないので自炊しなければならなかったが全部ギルドがやってくれた。勿論、俺はできない。


 「……何か拍子抜けだな」


 ……〝ガイド〟とやらがヤバいのだの、強者に溢れているだの言ってはいたが、この街は比較的に平和なようだった。


 (……もっと世紀末的な奴をイメージしてたな)


 ……まあ、そんな世界ならとっくに俺は死んでいるだろうけど。


 「……まあ、いつまでものんびりとは言ってられないだろうな」


 今はギルドが看病(元気だけど)してくれて何とかなってはいるが、そうしない内に独り立ちしなければならないだろう。それまでに一人で生きていく術を身に付けなければならないのか。


 「……」


 ……うん、無理だな。


 ……前世ではニートだった俺にそんなスペックなどあるのだろうか? いや、ないだろう。


 (……よし! どうにかしてギルドのヒモになろう!)


 まず、俺は鏡を見た。


 ……そこには前世とは違う顔があった。


 (……うーん、美少年ではないが、意外に格好いい寄りの顔な気がする)


 女を落とすにはまず顔は大事であろう。


 「後は――……」


 俺はチラッとズボンとパンツを捲って自分の逸物を観察した。


 「……で」


 ――でけェ~~~~~~~~ッ!?


 ……前世の短小包茎とは比べ物にならない程のビックサイズな息子がそこにはいた。


 (……女を落とすには顔! 女を抱くにはチ○コだ!)


 つまり、今の俺は顔とチ○コ、両方を備えていた。完璧じゃないか。


 「よし! 次は口説き文句だ!」


 俺は鏡を見ながら自分が一番格好よく見える角度とポーズを模索した。

 ポーズと角度はこんなもんだろう。次は台詞だ。


 「……俺のものになれよ?」


 ……これじゃない。


 「君の瞳に恋してる!」


 ……いいんじゃないか?


 「 君がいないと生きていけない! 俺の傍にいてくれ……! 」


 ……。


 これだ……!


 ……何とか台詞も決まった。なので予行練習をしてみようと思う。

 まずは髪を整え、服もギルドが買ってくれた服に着替え、玄関に飾ってある薔薇も一本勝手に取った。


 「……」


 俺は深呼吸を一回して、気持ちを高めた。


 ――バッ……! 俺は腕を広げた。


 「俺は淋しがり屋な迷い猫!」


 ↑抱き締めるような動作。


 「独りじゃ生きてはいけないか弱い仔猫!」


 ↑前髪を掻き上げしゃがみこむ。


 「君がいないと生きてはいけない!」


 ↑薔薇を差し出す。


 「俺の傍にいてくれよ……!」


 ↑ハイ、そこでウィンク!



 「 お財布忘れちゃいましたぁ、うっかりうっかり♪ 」



 ――扉が開き、ギルドが俺の目の前にいた。


 「……」


 ……薔薇を差し出したまま硬直した俺。


 「……」


 ……目をぱちくりしながら沈黙するギルド。


 「……」


 ……硬直した俺。


 「……おっ」


 ギルドが動き出す。


 「お財布、お財布ー」


 ……何事も無かったかのように財布を棚から取り出し、そのまま足早に出ていった。


 「……」


 ……薔薇を差し出したまま硬直した俺。


 「……」


 ……薔薇を落としてフラフラと歩き出す俺。


 「……」


 ……そのままベッドに倒れ込む俺。


 「 あああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……! 」


 ……恥ずかしさのあまりにベッドでジタバタする俺。



 ……こうして、俺の黒歴史が新たに刻まれた。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「 会いたい人がいる? 」


 ……更に五日間が経過した晩餐、ギルドが俺に一つ訪ねたいことがあると話を切り出したのだ。


 「はい」


 ギルドは真面目な顔で頷いた。


 「わたしにはたった一人、妹がいるんです」


 ……へえ、妹ね。可愛いのかな。


 「名前はアークウィザードといいます」


 ……それジョブ名じゃね?


 「問題はそのアークウィザードがただ者ではないことなのです」


 ……アークウィザードって名前長すぎない? 言うの面倒臭くない? と思ったので俺は一つ提案した。


 「アークウィザードって長いからアークちゃんとか略そうか」

 「そうですね……それで問題なのはアの身分なのです」


 ……そこまで略しちゃうんだ。別にいいけど。


 「なんとアはダークウィザード……魔王軍で二番目に力を持つ魔女なのですよ」


 ……アークウィザードなのかダークウィザードなのかややこしいな。


 「なのでわたしはダに元の生活に戻るよう説得したいのです」


 ダ……! アークウィザードのアの字も無くなっちゃった……!


 「そして、アークをこの街で見掛けたという噂があったんです」

 「……マジか」

 「それでタツタさんにはこの街にいるかもしれないアークの捜索を手伝ってほしいんです」

 「なるほどね」


 ツッコミ所は多々あったが概ねギルドの事情はわかった。


 「……あの、よろしいでしょうか?」

 「……うーん」


 ……面倒臭いなぁ。


 ……根本的に人でなしな俺はあまり乗り気ではなかった。


 「……タツタさん」


 ……ギルドが上目遣いで見てくる。うーん、やっぱり可愛いな。


 ――いや、ちょっと待てよ!


 ……俺の中の悪魔のタツタが囁いた。

 ここでアークを見つけ出して、ギルドと再開させれば俺の株かなり上がるんじゃね!

 ……相変わらず屑な思考回路であった。

 そしたら、夢のヒモ生活に一歩近づくんじゃね!

 ……よし! 思い立ったら即決行や!


 「いいよ、暇だし、それに介抱してくれた恩もあるし」

 「……っ! ありがとうございます!」


 俺の言葉にギルドの表情が一気に晴れ、もの凄い勢いでお辞儀をした。

 ……ついでにもの凄い勢いでギルドの豊満な胸の膨らみが揺れた。揺れた。揺れた。揺れた。揺れた……揺れすぎ。


 「 あっ、そろそろお風呂の時間ですね 」


 ――ギルドの台詞に俺はピクリッと反応した。


 「おっ、おう。もうそんな時間か」


 俺はそわそわしながら頷いた。


 「準備しますから少しお待ちくださいね」


 ギルドは食べ終わった食器を台所に置き、浴室へ早足で向かった。


 「……」


 夜の七時。それは至福の時間であった。


 「お待たせしました~」


 ギルドお湯の入った桶とタオルを持ってやってきた。


 「では、上着を脱いで戴いてもよろしいでしょうか?」

 「おっ、おう」


 ……これだよ! これ!

 最初血塗れだったこともあり、俺は風呂に入らないようにしていたのだ。

 だって、傷が開いたりしたら大変だろ?

 だから、俺は仕方なくギルドに毎晩温かい濡れタオルで身体を拭いてもらっているのだ。


 まっ、怪我なんてとっくに治っているんだけどね!


 ……どういう理屈かわからないが、表面上の怪我にしては身体はピンピンしていた。

 勿論、風呂にだって入れる。

 だが、入らない。


 (……こうやって仮病を装っていれば毎晩身体を拭いてくれるからな!)


 ……ゲスであった。


 「お身体の調子はどうですか?」


 ギルドが濡れタオルで胸の辺りを拭きながら訊ねる。


 「うーん、まだちょっと引き吊っている感じかな?」


 ……勿論、嘘である。身体は前世に比べれば寧ろ快調過ぎて恐いぐらいである。


 「そうですか、痛かったら言ってくださいね」

 「あっ、ああ」


 俺はにやけそうになるのを必死に我慢しながらポーカーフェイスで頷いた。

 前側を拭いているときには目の前にある魅惑の谷間を凝視し、背中を拭いてもらうときは何気なく振り向き、肩でおっぱいに触れ、常にギルドの女の子らしいいい匂いを鼻腔で感じていた。

 ……まさに、至福の時間であった。


 「はい、もう大丈夫ですね♪」


 上半身を拭き終えたギルドはタオルをお湯に浸した。


 「頭と下の方はご自分でなされてくださいね」


 ……流石に下まではしてくれなかった。


 (……だが、もし結婚さえすれば)


 「 タツタさーん、一緒にお風呂に入ろ♡ 」


 「 タツタさん、一緒に寝よ♡ 」


 「 タツタさん、駄目っ♡ 優しくしてっ♡ 」


 ……あーんなことやこーんなことがやりたい放題なんだよなぁ。


 「よしっ! 頑張るぞ!」

 「何をっ!?」


 ……目指すは美少女とイチャラブヒモ生活! 俺は心機一転、明日から頑張ることを心に誓うのであった。





 ――ヴェーゼ、北部


 「……日中は賑やかで活気のあるいい町だけど、夜は別物ね」


 ……あたしは道端で寝転がる呑んだくれや金が無く帰る家もない浮浪者を見て、静かに呟いた。


 「あまりジロジロ見ては絡まれますよ」

 「ああいう輩は無視するのが一番です」


 あたしの後ろには深くローブを被った従者が二人いて、小声で助言をする。


 「そう、ご忠告ありがとう――でも、少し遅かったみたいね」


 あたしは道のど真ん中で足を止めた。


 「ねェちゃん、中々べっぴんさんじゃねェか」


 ……大柄な男が数名、あたしの前に立ち、道を塞いでいたからだ。


 「こちらの奢りでいい、少し一緒に呑もうぜ」


 リーダー格の男が金貨の入った袋を見せつけ、交渉してきた。


 「黒魔女様に無礼なっ!」

 「ここは、ワタクシが片付けましょうか?」


 後ろの従者が殺気立つ。


 「二人は余計なことはしなくていい」


 あたしは後ろの従者の怒りを鎮めさせた。


 「この人達はあたしとお酒を呑みたいだけよ、別に一々腹を立てることはないわ……そうよね、お兄さん」

 「その通りだ。お利口で助かるよ」


 あたしは振り向き、二人の従者にこの場で待つよう指示をした。


 「それじゃあ、行きましょうか」


 ……そして、あたしは男に連れられて路地裏へと導かれた。


 「……ここは酒場ではないんじゃない?」


 とてもお酒を呑むような場所ではなかった。


 「そんなことはどうでもいいだろ」


 リーダー格の男があたしの肩を掴んだ。並の女であれば身動きが取れなくなる程の力であった。


 「最初見たときからいいなって思ってたんだよ」

 「……」


 リーダー格の男があたしの顔から胸、腹に脚と舐めるように見つめた。


 「まずは俺からだ、お前らには後で回してやるよ」


 そう言うリーダー格の男の下半身は醜くいきり立っていた。


 「手を離しなさい。三秒間待ってあげる」


 あたしは静かに忠告した。


 「お前、何を……。自分の置かれている状態がわかってな


 「 0 」



 ――パンッッッッッッ……! 男の上半身が吹き飛んだ。



 『……………………はっ?』


 ……残る男達が呆然とその光景を棒立ちで見ていた。


 ――ギロリッ……。あたしの目が残る男達の方を睨み付けた。


  次  の  瞬  間  。



 ――三人中、二人の膝から上が無くなった。



 「……最低な味」


 ……あたしの背中には肉の怪物が蠢いていた。


 肉の怪物には目や口があり、その口は男達の肉を咀嚼していた。


 ――ドッッッッッ……! あたしの背中から今度は肉の触手が飛び出した。


 「ひぃっ!」

 「逃げても無駄よ」


 ――ガシッッッッッッ……! 男は容易く触手に捕まり、吊り上げられた。


 「すっ、すまなかった! 許してくれ!」


 男は命乞いをした。


 「もう片方の脚も掴もうか」


 二本の触手は男の両足首に絡み付き、男は逆さまに吊り上げられる。


 「金なら幾らでも渡す! そこの金貨だけじゃない! 家に帰ればその十倍はある! だがら、殺さないでくれ!」


 ――ギシッ……。男の脚は左右に引っ張られ、肉が軋む音が聴こえた。


 「やっ! やめろ! 痛い、イタイ! 痛いからやめてくれっ!」

 「……」


 しかし、あたしはやめてなんてあげなかった。更に強い力で引っ張った。


 「イタイイタイイタイッ! ごめんなさい! 許してください! あああっ!」


 「 ごめんなさい 」


 あたしは背中から肉の翼を出し、傘のように頭上にかざした。



 「 あたし、人間大嫌いだから 」



 ――ギシッッッッッッ……!


 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァッッッ……!」



 ――ぶちっ



 雨が降った。


 その雨は血のように赤くて、魚のように生臭かった。


 「……あーあ、服が汚れちゃった」



 ……あたしは嘆きの声を溢した。


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