第32話 『 東の大賢者VS〝KOSMOS〟 』
「 さぁてと、遊んでやりますか♪ 」
……ニアさんが肩を回しながら、不敵に笑った。
「 いいね、そうでなければ殺り甲斐が無い♪ 」
……〝しゃち〟が不敵に笑う。
ぶつかり合う殺意と殺意。
交差する視線。
どちらも負ける気は――0。
「……」
「……」
――一瞬、互いに真剣な顔をした。
「 俺が行く 」
……先に動き出したのは〝おにぐも〟であった。その手には巨大な戦斧が握られていた。
「……お前はサポートに回れ」
「りょーかい♪ ほんとにおにさんは血の気が荒いなぁ」
〝しゃち〟が一歩後ろに下がり、〝おにぐも〟が前に出る。
「行くぞ」
「いつでもどうぞ」
……睨み合うニアさんと〝おにぐも〟。
「……」
「……」
……………………。
…………。
……。
――ドッッッ! 〝おにぐも〟の足下が陥没し、その姿が消えた。
「 先手必勝 」
――〝おにぐも〟は既にニアさんの背後にいた。
……速いっ! あの巨体で何て速度だ!
〝おにぐも〟が巨大な戦斧を振り下ろす。
ニアさんは一歩も動かない。
――斬ッッッッッッ……! 〝ニア〟さんが一刀両断された。
「 うん、やっぱり偽者か 」
〝しゃち〟が笑う……その言葉通り一刀両断された〝ニア〟さんは水になって、地面に溶けていった。
……じゃあ、本物のニアさんはどこへ?
「 おにさん 」
〝しゃち〟が人差し指を上に差した。
「 上♪ 」
――トンッ……。本物のニアさんが〝おにぐも〟の背中に乗った。
「 やるな 」
「 何もさせんよ 」
――〝おにぐも〟が何かするよりも速く、ニアさんが魔術を発動した。
零 凍 世 界
――パキンッ……! 一瞬で〝おにぐも〟が氷結した。
「 水龍召喚 」
……仲間が氷結されたにも拘わらず、〝しゃち〟は構わず魔術を発動する。
「コイツ、まさか仲間ごと!?」
――巨大な魔方陣が〝おにぐも〟とニアさんの足下に展開された。
「嫌だなぁ、予想外みたいな顔しないでくださいよ」
〝しゃち〟が至って平静に笑った。
「 僕らは盗賊 」
――魔方陣が青く発光する。
――ニアさんが魔方陣から逃れようと駆け出す。
「 非道なのは今に始まったことではないでしょう 」
水 龍 陣 ・
魔 狂 水 衝
――濁流が魔方陣から天高く噴き出した。
……その水流は凄まじく。魔方陣の中にある全てを呑み込んだ。
「ニアさんッ……!」
……わたしの叫びは濁流に掻き消されてニアさんには届かなかった。
それにしても、〝水龍陣・魔狂水衝〟……凄まじい威力の技だ。盆地であるということもあるが、あまりの水量に地面への浸水が追いつかず、一瞬にして周囲一帯が巨大な水溜まりになってしまった。
しかし、ニアさんはどうなってしまったのだろう。
まさか、やられて――……。
「 〝凍界〟 」
――パキィィィン! 〝水龍陣・魔狂水衝〟が全て氷結した。
……そして、間髪容れず。
「 〝粉砕〟 」
――パリイィィィィィィィィィィン……! 〝水龍陣・魔狂水衝〟は崩壊した。
「 殺ったと思った? 」
ニアさんは生きていた。そして、〝しゃち〟に笑みを向けた。
「 身の程を知れ、盗賊風情が 」
……笑う。
やっぱり、ニアさんは凄い。あの大技を受けて無傷なんて〝四大賢者〟の名は伊達では無い。
「……ギルドさん、ちょっといい?」
……ニアさんがこっそりわたしに耳打ちをした。
「これから――……いい?」
「……えっ?」
「わかった?」
「はいっ!」
「じゃっ、お願いね」
それだけ言ってニアさんは再び〝しゃち〟と向き合った。
「……無傷?」
……いや、無傷じゃない。だって――ニアさんの腕は酷く霜焼けしていた。
あれだけの超規模の技を至近距離でやったんだ。本人にダメージが無い筈が無かった。
「お待たせ」
「相談事は終わったかい?」
ニアさんと〝しゃち〟が睨み合う。ちなみに、〝おにぐも〟は未だに氷結したままであった……流石に生きてはいないだろう。
となると、ニアさんと〝しゃち〟の一騎討ち。ニアさんの方が怪我をしているから〝しゃち〟の方が一歩有利か。
……だからこそ、わたしがいる。
ニアさんに指示された作戦を完遂する。それにかかっていた。
「じゃあ」
……〝しゃち〟が笑う。
「第2ラウンド」
……ニアさんも笑う。
「「 始めようか 」」
……そして、死闘は再開された。