第357話 『 報せ 』
――夜。
「 〝額〟が死んだか 」
……伝書鳩よりヲゼ大陸の速報が伝えられた。
「それに〝渡照〟も〝竹聿〟も〝彩〟も、北に行った奴等は皆死んじゃったね」
昔は〝魔将十絵〟で賑わっていた談話室も、今ではアークと〝黒土〟しか居なくなってしまった。
「残る〝七つの大罪〟は僕を除き四名、〝KOSMOS〟は〝むかで〟を除き二名、〝四大賢者〟は一名……予想よりも生き残っちゃったかな」
「申し訳御座いません〝白絵〟様」
〝黒土〟が頭を垂れた。
「別に構わないよ」
……そもそも大して期待などしていなかったのだ。
(……所詮は暇潰しの為に集めた雑兵に過ぎないしね)
全ては僕一人が居れば事足りることであった。
流石に〝黒土〟一人で他の奴等全員は殺せないし、これ以上、〝ゲーム〟を続けることは無意味であろう。
「そうだ。しばらくしたら、僕は城を空けることが多くなるから、アークと〝黒土〟にはこの城の管理を頼むよ」
「はい、承りました」
「主の示すままに」
僕はそれだけ言って窓際から夜空を眺める。
「綺麗な星空だ」
この世界の空は東京の夜空と比べてとてもよく星が見えた。
「それに今夜は満月のようだね」
無数の星屑が埋め尽くされる夜空に、大きな満月が空に浮かんでいた。
「……」
僕は何ヵ月か前に、パールの都でアークに敗北したギルド=ペトロギヌスへ言った言葉を思い出した。
――今日から丁度一年後に祭が始まる。
……約束の一年まで後少しであった。
(色々企んでいるようだけど、僕を殺すなら急げよ、タツタ)
強い風が吹き、森の葉が宙を舞う。
――パシッ……。僕は宙を舞う葉を掴み取り、粉々に握り潰した。
「でないと、お前は大切な仲間を失うことになるよ」
僕は粉々になった葉を開き、風に乗せて吹き飛ばした。
空上龍太は〝第3形態〟まで到達し、僕へ手が届くレベルにまで成長していた。
そして、最後の仕込みによって僕の目的は達せられる。
「アーク」
「はいっ」
僕はアークの名を予備、アークはすぐに僕の下へと駆けつけた。
「紅茶のおかわりでも戴こうか」
「すぐに準備しますっ」
満月の夜。
漂うは紅茶の香り。
「……早く上がってこいよ、タツタ」
……僕は彼の人に思いを馳せた。
「……もう、こんな時期か」
……談話室を出たあたしは自分の部屋に戻ってベッドに横になった。
――今日から丁度一年後に祭が始まる。
パールの都でお姉ちゃんと再会して、喧嘩した日、〝白絵〟様が言った言葉。
まだ少し時間は残ってはいるものの、〝白絵〟様が宣告した日は着実に迫っていた。
――〝祭〟
……〝白絵〟様はあるイベントのことをそう読んでいた。
そして、あたしはその内容について知っていた……というより〝白絵〟様から聞かされていた。
もし、祭が始まってしまえばこの世界に混沌と混乱が訪れるであろう。
「――別にいいけど」
……あたしは独り呟いた。
あたしはあたしをこんな目に遭わせた世界が大嫌いだし、滅茶苦茶になってしまえとも思っていた。
とはいえ、腑に落ちないこともあった。
「……お姉ちゃん」
……まだ、ギルド=ペトロギヌスとの決着がついていなかったのだ。
お姉ちゃんやお母さん・お父さんへの恨みや怒りは未だに消えてはいない。
だけど、ちゃんとケジメをつけていないのも事実であった。
お母さんやお父さんとは家を飛び出してからは顔を合わせてはいないし、お姉ちゃんとも決着はちゃんとついていなかった。
今は大嫌いだけど、昔は大好きだった人達に決別の意志を伝えなければならなかった。
〝祭〟が始まってしまえば世界に混乱が訪れそれどころではなくなってしまうだろう。
最悪の場合、死んでしまってもう二度と会えなくなってしまうかもしれなかった。
――ズキンッ
……僅かに胸が痛んだ。
「……変なの」
お姉ちゃんのことも、お母さんのことも、お父さんのことも大嫌いなのに、三人が死体になった姿を想像したら胸が痛くなった。
「……訳わかんないよ」
その感情の正体はわからない。
きっとわかっても認められない気がした。
「……何だか疲れちゃった」
……その答えを後回しにして、あたしは静かに瞼を閉じた。




