第356話 『 アリスゲーム 』
「 君達と同じ〝異界人〟だッ……!!! 」
……本名、十文字巧であるジェノスが俺と夜凪にそう名乗りを挙げた。
「〝異界人〟!」
「……アリ……ス、だとっ」
俺と夜凪は戦慄した。
「……」
「……」
「……」
「「……って、何?」」
……まあ、二人とも初耳の単語なのでよくわかっていなかった。
「なぁーッ! 君達は召喚者にそんなことも教えてもらっていないのかい!」
「……まあ」
「うん」
俺も〝ガイド〟から異世界の説明は受けたが、俺自身についてはあまり教えてもらえなかった。
夜凪も同じなのかよくわかっていないようである。
「すまんが一から説明を頼んでもいいか」
「右に同じく」
「よろしい! ならば、私が直々に説明をしてやろうではないか!」
……ノリが良くて助かる。ちょっとウザイが。
「まず、この世界には二種類の人間がいる! 一つは元からこの世界で生まれ育った〝現地人〟!」
ジェノスは人指し指を立て、続けて中指も立てた。
「そして、もう一つは〝神〟為る者によりこちらへ召喚された〝異界人〟! 世界はこの二種類の人間で構成されているのさ!」
「……なるほど。ところでその喋り方なんとかならんのか」
……煩くて敵わなかった。
「無理だ!」
……無理だった。
「話を続けよう! 私はこちらに来るときに召喚者にこの世界のことと我々に関すること、そして召喚した奴等について根掘り葉掘り問い質した!」
「……」
……初っぱなから質問攻めの転生者が来たら、神様も堪ったもんじゃないな。
「まずこの世界だが、因果王――ブラドール=ヴァン=リローテッドに創られた世界らしく、仮に世界αとしよう! そして、我々が元いた世界にも別の神がいて、その世界については仮に世界βとする!」
――ブラドール=ヴァン=リローテッド
……ちょっと前に死にかけたときに会った男であった。
確か、神を名乗る男で、態度は尊大にして軽薄、そんな男であった。
(ブラドールがこの世界の神ってのは嘘じゃないみたいだな)
そう何人も神様を名乗る奴が現れても困ってしまう。
「世界αの神であるブラドールと世界βの神は面識があり、ブラドールは世界βの神に頼んで、世界βで死んだ人間の魂を世界αに転移させたのだ。それこそが我々――〝異界人〟なのだよ!」
……ジェノスの言うことの理屈は合っていた。
「この世界のルールは大きく分けて三つある!」
ジェノスが再び人指し指を立てる。
「一つ目は誰しもが〝特異能力〟を持っていること!」
続いて中指を立てる。
「二つ目は〝特異能力〟は〝現地人〟であれば〝第2形態〟まで、〝異界人〟であれば〝第3形態〟まで進化させることができること!」
最後に薬指を立てた。
「三つ目はレベルは強さの全てではないが、相反する〝特異能力〟と〝特異能力〟が衝突した際はレベルが高い方の〝特異能力〟が優遇されること! 以上三つがこの世界における絶対不変のルールである!」
「……なるほど」
わかったことは沢山あった。そして、何よりも〝ガイド〟の説明が不親切だったこともわかった。
「そして、この三つのルールの上で我々はある〝ゲーム〟をしているのだ!」
――〝ゲーム〟
……それは俺も知っていた。
「それこそが〝アリスゲーム〟! 最初の〝異界人〟である〝白絵〟を殺し、殺した〝異界人〟は誰か一人を蘇らせることができるゲーム!」
「ついでに一度死んだ〝異界人〟も蘇らせることができない、だっけ?」
「その通り!」
今になって、〝ガイド〟の「一度死んだ人間は蘇らせることができません」の意味がわかった。
あれは、ここに来る過程での死ではなく、〝ゲーム〟開始後の死のことを指していたのであった。
「ところで君達は誰に召喚されたか覚えているかい!」
ジェノスが逆にこちらへ質問を投げ掛ける。
「俺は〝ガイド〟とかいう女型のロボットだ」
「俺は〝ジャック〟っていう、おしゃべりな人形だったかな」
……なるほど、召喚者も人によって違うようだ。
「ふむ、〝ジャック〟には私も召喚されたよ! お揃いだな、夜凪少年!」
「うっ、うん」
夜凪がちょっと嫌そうな顔をした。
「やはり、召喚者はブラドールと〝ガイド〟と〝ジャック〟の三名のようだね! 私が今まで会ってきた〝異界人〟もこの三名の内の誰かであったよ!」
となると、今度は〝ガイド〟と〝ジャック〟が何者であるのかが気になった。
「彼等はただの意思のある人形で間違いない! 何せ、彼自身がそう言っていたのだからな!」
確かに、ロボットの〝ガイド〟や人形の〝ジャック〟が、ブラドールと同等という風には見えなかった。
「つまり、今回の〝ゲーム〟の支配者はブラドールで、残りの二人はその手伝いをしていた、という認識でいいか?」
「まあ、そんなところだろうね!」
世界を跨ぐゲームとは、偉く規模のでかい話であった。
「なるほど、あんたの話は大体わかった。わかった上で新たに疑問が浮かんだんだが」
俺は少し警戒心を高めた。
「お前の目的は何だ? まさか、情報提供する為だけに来たんじゃないんだろ?」
「……」
そう、ジェノスの話はこちらからすればとても有益なものであり、その情報はけっしてただで貰えるようなレベルの話ではなかった。
「 エクセレーーーントッ! 君は素晴らしい勘をしている! 」
ジェノスが満面の笑みを浮かべた。
「私は君達に交渉に来たのだよ! 先程、君が話したハッピーエンドを手に入れる為のね!」
……どうやら、悪い話ではなさそうであった。まあ、油断は禁物だが。
「 神を 」
「 殺す! 」
――ジェノスはトンデモないことを口にした。
「……お前、馬鹿だろ」
「よく言われる!」
……自覚ありか。
「ああ、私は馬鹿だ! だが、馬鹿に成り下がろうが運命の奴隷になるつもりはない!」
「……」
強ち、考え無しという訳でもなさそうだ。
「私は憤っているのだよ! 勝手に召喚して、勝手に〝ゲーム〟に参加させられて憤っているのだ!」
ジェノスは熱弁する。俺と夜凪も思わずそれを聞き入ってしまう。
「だから私は〝白絵〟を殺さずに神を引きずり出し、そして、殺す!」
「……」
「……」
俺と夜凪は最後まで聞き入ってしまった。
「……神を殺すのは頷けねェがその話、もう少し聞かせてくれないか」
「……俺も」
ジェノスの話は過激すぎる。とてもじゃないが簡単に首を縦には振れない。しかし、無謀だと切り捨てるには早計すぎた。
「いいだろう、ならば聞くがよい! 私の神殺しの計画を……!」
……そして、ジェノスはその作戦を俺達に話した。
……………………。
…………。
……。
「……結局、タツタはあの話に乗るの?」
……ジェノスは用事があると言い帰ってしまい、俺と夜凪は二人で縁側に腰を据えていた。
「乗るよ。あいつの腹の底までは見えねェが、あれ以上に俺の野望に近づけるビジョンが俺にはないからな」
「……そっか」
夜凪は素っ気なく返した。
「お前はどうしたいんだ?」
「……俺?」
夜凪はうーんと唸る。
「俺はさ、今のままで結構幸せなんだよね。だから、神様を殺してあれもこれもしたいとか特に思い付かないんだ」
「……そうか」
俺は少し残念そうに頷いた。
夜凪が居ればそのジェノスの作戦の成功率は高まった。
とはいえ、本人が乗り気ではない以上、無理強いするつもりはなかった。
「――でも、協力はするよ!」
……夜凪が笑った。
「タツタが困ってるんなら手伝いぐらいならするよ、仲間じゃん」
「……夜凪」
俺は本当に良い仲間をもった。
「悪いが、明日から一緒に特訓に付き合ってくれるか」
「うん、任せて!」
……かくして、俺と夜凪の秘密特訓が始まるのであった。




