第355話 『 戦え 』
……俺達は生き残った。
多くの犠牲者を出したこの戦いで、俺達はクリスとカノンを失った。
〝ウィンドベル〟の親衛隊も何名か亡くなったものの、ギガルドや〝ウィンドベル〟は生き残っていた。
ギガルドの傷は深く、あの夜から三日は経っているがまだ眠ったままであった。
俺達は〝ウィンドベル〟の護衛に助力した礼として、あれから三日間、風の谷の空き家に住まわせてもらっていた。
ギルドがいるので怪我に関してはすぐに完治したが、精神的な疲労の回復には至ってはいなかった。
俺達は、長年一緒に旅をしたカノンとクリスを失ったのだ。ちょっとやそっとや心の傷は癒えなかった。
落ち込んだって仕方がないし、いつまでも悲しみに暮れている訳にもいかない……そんなことはわかっていた。
しかし、頭でわかってはいても気持ちが追い付いてくれなかった。
今日も気晴らしに夜凪と組手をしたり、村の周りを散歩したりと時間を潰し、夕方にはやることなく縁側で夕日を眺めていた。
「……」
――俺はこれからどうすればいいんだろうか?
夕日を眺めながら、俺は思案に暮れていた。
勿論、今やらなきゃいけないことはわかっている。
――強くなること。そして、〝白絵〟を救い出すこと。
「……」
そんなことはわかっていた。しかし、今の俺は行き詰まっていたのだ。
俺は強くなる為に〝ウィンドベル〟を仲間にしようとした。
しかし、結果として、俺は〝ウィンドベル〟と顔を合わせたこともなかった。
ギガルドも目を覚ましていないし、無理矢理〝ウィンドベル〟の所に押し掛けるのも違うような気がしたからだ。
……だから、現状では〝ウィンドベル〟が仲間にできるかも未確定で、俺はうだうだと時間を潰していたのだ。
「……クソッ」
そう、〝ウィンドベル〟が味方になってくれるか未確定なのだ。
――だが、
……今回の旅でクリスを死なせた。行きずりとはいえ、カノンも死なせてしまったのだ。
許されるのか? 今回、〝ウィンドベル〟を仲間にする為にクリスや皆を連れ出して、それでクリスを死なせて、結局仲間にできませんでしたなどと許されるのであろうか。
そもそも、この旅は俺の我儘で始まった旅であり、共に魔王城に目的のいるギルド以外はただ俺の力になりたいから付いて来てくれているのだ。
そして、俺に巻き込まれたせいでクリスとカノンを死なせてしまったのだ。
――重い。
そう、これがリーダーの責任、覚悟。何もかもが重すぎた。
確かに、弟である〝白絵〟を見捨てようとは一ミリも考えられない。
だから、仲間を死なせていい……なんて言える筈もなかった。
強くなった。皆を守りきれると思い上がっていた。
(……俺は迷っているのか)
クリスを死なせて、カノンも死なせて、俺の選択は間違いではないのかと疑ってしまった。
(折れるな! 折れるなよ、空上龍太!)
今回が駄目だからって、簡単に心を折っちゃいけないんだ。
――〝白絵〟を救う。
それだけは折れちゃいけないんだ!
「……」
……だけど、
――タツタさん!
――タツタくん!
……二人を死なせてしまった事実が俺の首を締め付けた。
「……俺は……どうすれば良かったんだ」
「 戦えばいいと思うよ 」
――突然、夜凪が俺の前に現れた。
「……なっ!」
呆気をとられる俺に夜凪が続く言葉を紡いだ。
「人生って奴は基本的に意地悪でね、上手くいかないことの方が多いと思うんだ」
「……」
……まさか中坊ぐらいのチビガキに人生を説かれるとは、俺も落ちたものであった。
「親に監禁されたり、ネグレクト受けたり、DVも受けたり、人生には山あり谷ありなんだよ」
「……おい、コメントに困るぞ」
「ホントにホントに大変なのさー」
「……」
無視か。まあいい、俺も暇だし話ぐらいは聞いてやろう。
「何もしなかったら、運命に抗わなかったら、たぶん人生って奴は基本的に悪い方向に行っちゃうんだよね」
「……そうだな」
俺も現世では、テキトーに生きていて上手くいった試しがなかった。
確かに何もしないことは楽だったけど、そこには堕落しかなかった。
「だから、俺達は戦うんだ。欲しい未来を手に入れる為に努力して、無理をして、もがき続けるんだ」
「……ああ、そうだな」
俺は夜凪の言葉に肯定した。
俺もそんなことはわかっていたからだ。
「……二人のことは俺も悲しいけど、立ち止まる理由に二人を使いたくないんだ」
「……夜凪」
カノンもクリスも優しい奴だ。二人の死で俺が悔やみ続けていて喜ぶような奴等ではなかった。
「皆だってそうだよ。自分の意志でここにいるんだ。誰も彼もがタツタの為にここにいるんじゃない、ただここに居たいからいるんだ」
「……」
……もしかして、俺はまた一人で悩みすぎていたのかもしれない、と思った。
「タツタは物事を難しく考えすぎなんだよ。全部が全部を抱え込まなくていいと思うよ」
夜凪が恥ずかしそうにそっぽを向く。
「俺達にも頼ってよ。辛いんだよ、辛そうなタツタの顔を見るのは――俺達はその、仲間だろ」
「……悪いな」
どうやら、俺は知らない内に仲間に心配を掛けていたようであった。
「……」
夜凪の言う通りだ。悩んだって結局は〝白絵〟を救う為に俺は無理をする。俺が無理をすると仲間が助けてくれるが仲間にも危機が及ぶ。
――それが嫌なら。
「……俺が強くなる、か」
皆を守れると思い上がっていた。
でも、結果は二人の仲間を死なせてしまった。
だからって、迷う必要はあるのだろうか?
二人の死は悲しい。だが、悲しんでばかりでは何も成せないし、誰も守れない。
――だから、前に進むのだ。
どんなに辛くても、やるせなくても、失ってからでは遅いのだ。
「ありがとな、夜凪」
「……ん?」
俺は夜凪に感謝した。
「お陰で道が開けたよ」
今回ばかりは夜凪の気楽さに救われる形となった。
「何かスッキリした、ありがとな」
「シッシッシッ、そりゃどーも」
夜凪も照れ臭そうに笑った。
(……カノン、クリス)
俺は二人の顔を思い浮かべた。
(今まで一緒に戦ってくれてありがとう、そして――ごめん)
……二人がいてくれたからここまで来れた。
……二人がいてくれたから今も生きていられた。
(俺は前に進むよ。それしか脳がねェから、俺には成し遂げなきゃいけねェことがあるから)
俺は前に進む。
思い出を胸に刻み、身体は前へと推進した。
(どうか、天国からでも見守っていてくれよ)
……気づけば、俺は前しか向いていなかった。
「 〝白絵〟を救う! 皆も守る! 皆が笑えるハッピーエンドを手に入れてやるよ! 」
……それが俺の新たな野望であった。
「 傲慢! まごうことなき傲慢だ! 」
――声は庭の方から聴こえた。
「……誰だ、お前」
……知らない男であった。
長身に白いスーツ、額広の眼鏡が妖しげに光る。
しかし、その佇まい、オーラから只者ではないのは確かであった。
俺は咄嗟に刀に手を伸ばしす。
「ハッハーッ! これはすまない! 私としたことが名乗るのが遅れてしまったようだ!」
「……」
「……」
……俺も夜凪も「コイツ、ヤベェ奴だ」という視線を男に向けた。
「私の名はジェノス=クライシス! 本名は十文字巧! 反〝白絵〟組織――〝噛み千切る者〟のリーダーさ!」
――ジェノスがバッとスーツを開いて、名乗りを挙げた。
「……」
「……」
俺と夜凪はただただ圧倒される。
……が、そこで俺はある〝異常〟に気がついた。
「何か凄い人だね、タツタ」
「おい、ジェノス!」
俺は立ち上がりジェノスに問い質す。
「 お前、何処から来た? 」
「――」
ジェノスは言った。
――本名は十文字巧!
……確かにそう言ったのだ。
「エクセレント! 君は見た目に反して実にいい勘をしている!」
……見た目は余計だ。
「そう、ジェノス=クライシスはこの世界での通り名! 私の真の名は十文字巧! 東京都世田谷区生まれの元高校教師!」
そう、俺の予想は当たっていた。
「 君達と同じ〝異界人〟だッ……!!! 」
……ジェノスは俺達と同じ異世界渡航者であった。




