第354話 『 僕の最高の友達 』
「 ありがとう、タツタくん 」
……カノンが最初に言ったのは感謝の言葉であった。
「君と出会えてから毎日が本当に楽しかったんだ」
「……俺もだよ」
カノンが仲間になるまでT.タツタは俺とギルドとフレイの三名だけで、カノンは初めての男メンバーだったのだ。
女の子に囲まれてキャッキャウフフな冒険もいいかもしれないが、それでも男の仲間もいないとそれはそれでつまらなかったと思う。
「僕はね、ずっと〝白絵〟を殺す為に旅をしていたんだ。だけど、そんな毎日に楽しいと思うことはなくて、ただ〝白絵〟への復讐心しかないつまらない人間だったよ」
最初に会ったときのカノンの〝白絵〟への執着は凄まじく、あのときのカノンは今思い返しても余裕がなかった。
「それがタツタくんと出会って、ギルドさんやフレイちゃんとも話すようになって、僕は少しずつだけど〝楽しい〟って気持ちを思い出せたんだ」
カノンの言う通り、カノンは仲間になったばかりの頃はどこか距離感があったが、日に日に明るく笑うようになっていったんだよな。
「本当に楽しい旅だった。皆で温泉に入ったり、海でビラッグをしたり、祭り花火を見たり……僕の人生で一番幸せな時間だったよ」
「……俺もだよ、カノン」
……俺の声は微かに震えていた。
カノンは平然としているが、俺が握る手はどんどん冷たくなっていって、本当の別れが近づいていることを報せていた。
(……本当にこれでお別れなんだな)
頭ではわかっていても、気持ちが追い付いてくれなかった。
「ねえ、タツタくん」
「どうしたよ」
「……今、手を握ってるのタツタくんだよね」
「……」
――目
……まさか、カノンは?
「ああ、俺だよっ」
「あはは、やっぱり」
「……」
終わる。
本当に終わるのだ。
――俺もカノンとの記憶を振り返った。
「……」
――あと一人くらい欲しいなあ、とか思ってたりしない?
……カノンとの冒険はそこから始まった。
「本当に色々なことがあったな」
「そうだね」
「〝おにぐも〟相手に二人で戦ったこともあったな」
……俺達は友達だった。
「女湯を覗き見しようとしたときもあったな」
「僕は止めたけどね」
……沢山ふざけあった。
「吹雪を乗り越えたときもあったな」
「あれは寒かったね」
……苦難を共に乗り越えた。
「〝むかで〟は強かったな」
「うん」
……強敵とも戦った。
「ビラッグは何だかんだで盛り上がったよな」
「うん」
……沢山遊んだ。
「花火も綺麗だったよな」
「……うん」
……並んで美しい景色を眺めた。
「……喧嘩もしたよな」
「……うっ……ぐっ」
……食い違うときもあった。
「だけどっ、今はっ、仲直りできてるよなっ」
「……っ……うんっ、うんっ」
……俺達はずっと友達であった。
辛いこともあった。
楽しいことや驚くようなこともあった。
本当に、本当に色々なことがあったんだ。
「……おっ……ぐぅ」
「……うっ、うっ」
……どちらか先かはわからない。だけど、どちらも涙を流していた。
そう、いなくなるのだ!
今生の別れなのだ!
もう、二度とカノン=スカーレットと言葉を交わすことができないのだ!
これが涙を流さずにいられるものか!
「……カノンッ、カノンッ」
俺はカノンの手を強く握って、何度もその名前を呼んだ。
「ありがとうっ! 俺もお前に感謝してるんだっ!」
……俺はカノンに感謝の気持ちを吐き出す。
「お前のお陰でずっと楽しかったし、何度も何度も俺を助けてくれたよな!」
それはずっとずっと思っていたことで、また仲間に戻れたら言いたかった言葉だ。
「だから、ありがとう! 仲間になってくれて、俺と出逢ってくれて本当にありがとう……!」
「――」
カノンが涙を拭う。
そして、残った手を地面に付いて半身を起こした。
「……タツタくん、ありがとう」
カノンは静かな声で言葉を紡ぐ。
「皆もありがとう」
それは小鳥のさえずりのような綺麗な声であった。
「 君達は僕の最高の友達だ 」
一番辛いのはカノンだ。
一番悔しいのもカノンだ。
「……ここでお別れなのは残念だけど、それでも思い出だけはずっと胸の中にあるから」
それでもカノンは笑っていた。
「だから、僕はもう行くよ」
辛いことはあっただろう、泣きたいこともあっただろう。
それでもカノンは笑顔でいた。
「さようなら、皆。そして――……」
……自分は、自分の人生は幸せだったと胸を張っていた。
「 幸せな時間をありがとう 」
「カノン……!」
……消えた。
……カノンは灰となって消えてしまった。
「……馬鹿……やろう」
俺は灰となってしまったカノンに毒づく。
「………カノンッ……カノンッ」
俺は返事の返らぬ灰に向かってその名を呼び続けた。
涙が地面にぽたぽたと零れ落ちた。
「カノンッ……!」
……俺の叫びは朝焼けに溶けて、消えてしまうのであった。
「 ただいま、父さん 」
……僕はスカーレット家の玄関に立っていた。
「……馬鹿、結局死んでしまったのか」
「うん、折角色々してもらったのにごめんね」
帰ってきて早々に父親に怒られた。
「それに何でこっちに来たんだ。俺とお前は本当の家族じゃないんだぞっ」
「うん、知ってる」
だけど、僕は何故かここに戻っていた。
「僕と皆は血が繋がってないけど、僕の家はここだし、僕の家族は皆だから」
血は繋がってなくても、
五年間しか一緒にいなかったけど、
「 僕の居場所はここがいいんだ 」
……心の拠り所。それを〝家族〟と呼んで何が悪いと言うのだろうか。
「……馬鹿、息子め」
父さんはそれだけ言って僕に背を向けた。
「……シチューが温まっている、冷めない内に食べなさい」
「うん、いただきますっ」
一面の花畑に囲まれた木の家。
鼻腔をくすぐる母さんのシチューの匂い。
「 ただいま! 」
……僕は父さんの背中を追って、スカーレット家の玄関を潜った。




