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 第353話 『 別れ 』



 ――全力



 ……そう、これは全力だ。


 〝極・黒飛那〟を連続で撃てるのは一回までだからだ。

 勿論、連続でなければ〝闇々覇手〟の力で何発だって撃てたが、〝極・黒飛那〟の魔力消費は凄まじい為、〝闇々覇手〟の黒魔素の貯蓄が追いつかなくなるのだ。


 ――故に、これが俺の限界であり、最大出力であった。


 「オオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ……!」


 俺の雄叫びが〝極・黒飛那〟に乗って空を切り、遮るものを薙ぎ倒す。


 後は、


 カノン、唯一人ッッッッッッ!



 ――カノンの突進と〝極・黒飛那十字衝〟が互いに退かぬ押し合いを繰り広げていた。



 やはり、〝極・黒飛那十字衝〟は強かった。


 それは周囲への破壊や音や魔力の波動からでも感じ取れた。


 ――しかし、


 「あああァァァァァァァァァァァァッッッッッッ……!」



 ……カノンも強かった。



 (―― 一歩も退かねェッてか!)


 カノンは、まるで一本の巨大な黒い矢になったかのように〝極・黒飛那十字衝〟に立ち塞がった。


 (その意志、半端じゃねェようだな……!)


 ……何でだろう。


 俺はふと疑問に思った。



 ……何で俺は笑っているんだ?



 ――そう、俺は自然と笑っていた。


 (……そうだよな。そりゃそうだよな)


 しかし、俺はすぐに理由がわかってしまった。


 (嬉しいよな。だってよ)


 俺は嬉しかったのだ。



 ( 好敵手ライバルは強い方がぜってェワクワクするに決まってるだろッ……! )



 ……カノン、お前は最高の好敵手だったよ。


 「……お前には絶対に敗けたくなかったんだ」


 カノンは天才で、物覚えも良かったから俺はカノンに置いていかれないよう必死だったんだ。


 「……だけどな。もし、俺が敗けるんだったらな」


 カノンに負けないよう俺も強くなった。そしたら、カノンもまた強くなって、俺もそれを追いかけたんだ。



 「 お前が良かった。心からそう思うよ 」




 ――貫ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!! カノンの突進が〝極・黒飛那十字衝〟を突き破った。




 「来いよ、カノン」


 俺は〝空門〟を構えた。


 カノンがそのまま俺へ突進する。


 「お前の信念! 覚悟! 全力! お前が積み重ねてきた全部を俺にぶつけてきやがれェェェェェェェェェッッッ……!」





 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!! カノンの鋼の額が〝空門〟と衝突した。





 「 おっ 」


 ……重いッ!


 「うッ――」


 ……急激な慣性が襲い掛かる。


 「オオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ……!」



 ――俺の身体はそのまま後ろへと引っ張られた。



 (――こ、れは!)


 ――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッ……! 俺は靴の踵を削りながら後ろへ滑走した。


 (止まれねェッッッッッッ……!)


 カノンの額と〝空門〟は依然として接触したままであり、俺はカノンの慣性に押し込まれ、そのまま数百メートルを滑走する。


 「ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ……!」


 俺も押し込まれているものの、〝空門〟を握る手は緩めておらず、ずっとカノンを止めようと押し続けていた。


 「貫けェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッ……!」

 「止まりやがれェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッ……!」


 俺とカノンは深い森を滑走し続ける。

 幾重もの木々の壁を薙ぎ倒しながらもカノンは止まらなかった。



 ――ガインッ……! 遂に〝空門〟が弾かれた。



 (――刀がッ!)


  次  の  瞬  間  。


 「僕のォォォォォォッ! 勝ちだァァァァァァァァァァァァッッッ……!」




 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺の土手っ腹に衝撃が突き抜けた。




 「――ごがァッッッッッッッ……!」


 ――堪らず血を吐き出した。


 (――重いッ)


 痛くて、重くて、一瞬にして意識を持ってかれかけた。

 そして、依然として俺の身体を押し続けていた。


 ――重い


 (これがカノンの覚悟の重さかッッッッッッ……!)


 想像以上だ。


 「――だが、〝空門〟弾いてくれてありがとな」


 ――俺は拳を振り上げる。


 「 お陰で手が空いたよ 」


 重い!


 痛い!


 だけど、関係ねェ!


 「カノンが命懸けて戦ってんだ! 俺が! 手ェ抜いていい訳ねェだろうが……!」




 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!! 俺は渾身の鉄拳をカノンな頬をに叩き込んだ。




 「うおおォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ……!」


 「――ッッッッッッッッッッッッ……!」



 ――カノンはそのまま地面に叩きつけられ、反動で打ち上げられた。



 俺はカノンの頭突きの勢いがあった為、そのまま地面を転がった。


 ――パリンッッッッッ……! カノンの骨の鎧が砕け散った。


 俺は地面を転がり、やがて静止し、仰向けになって倒れる。

 カノンも地面に落下し、同じく地面に仰向けで倒れる。


 「……」

 「……」


 互いに激痛と疲労ですぐに動けなかった。


 「……カノ……ンッ」


 ――俺は地面に手に当て、身を起こした。


 「……ハァ……ハァ、クソがッ」


 全身激痛に襲われて、内臓や骨も滅茶苦茶になってて、それでも最後は立っていようと俺は無理矢理立ち上がった。


 「……凄いね、タツタくん」

 「……」


 カノンが賞賛の声を呟く。


 「……僕はもう限界だ。指一つ動かないよ」

 「……」


 立ち上がった俺は真っ直ぐにカノンの顔を見つめた。


 「……君の勝ちだ」

 「……馬鹿……が」


 ――ぐわんっ、視界が激しく揺れた。



 「 お前の勝ちだよ、カノン 」



 ――俺の身体は地面に落ちる。


 そして、そのまま俺の意識は途切れた。


 「……」


 ……朦朧とした意識の中、ギルドの慌てた声と足音が聴こえた。



 ……………………。


 …………。


 ……。



 「 カノンッ……! 」


 ――俺は覚醒すると同時に身を起こした。


 「カノンッ、いるかッ!」


 俺は焦っていた。

 まさか、戦い興じて意識を失い、カノンの死に目を逃したのではないのかと焦った。


 「――ちゃんと、いるよ」


 ……カノンはいた。

 周りにはギルド・ドロシー・フレイ・夜凪と勢揃いであった。


 「今ね、皆とのお別れを済ませたんだ」


 カノンはとても優しげに微笑んだ。


 「 後はタツタくんだけだよ 」


 ――最後の会話。


 それは


 「――カノン」



 ……もうすぐ、カノンが死んでしまうことを意味していた。


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