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  第30話 『 強襲 』

 

「 お願い、間に合ってっ……! 」


 ……わたしは悲鳴のする方角へ駆け出した。

 わたしは茂みを掻き分け、土手を越えて、川を一つ飛び越える。


 「……もう、誰も見殺しになんてしたくないっ」


 わたしは最後の雑木林を爆発で吹っ飛ばし、二つの小さな人影を前に着地した。

 人影の一つは十歳ぐらいのやんちゃそうな男の子。

 人影の一つはその男の子と同じくらいな歳の活発そうな女の子。

 そして、そんないたいけな少年・少女の前に立ちはだかる巨大な蟹の魔物――キラークラブ。

 ……わたしはホッと安堵の息を溢す。


 「……良かった、間に合って」


 わたしは〝ライトニング・ワンド 〟をキラークラブに構えた。


 「さてと」


 わたしは魔力を高める。


 「わたしと殺し合う?」


 ……高める!


 『――!?』


 その途端、キラークラブが一目散に茂みの中へと逃げ出した。


 「……蟹さん、ごめんなさい」


 わたしはそんなキラークラブの惨めな背中を見送りながら、笑った。


 「今、わたし、少し機嫌が悪い」



 ――トンッ……、わたしはキラークラブの背に乗っていた。



 「 の 」

 『 !? 』


 わたしとキラークラブの視線が交差する。

 キラークラブの瞳に映るわたしの顔は酷く冷徹なものであった。


 「 地獄の業火に焼かれて死ね 」



   ジャッジ   メント   の   フレイム 



 ……キラークラブは一瞬にして灰塵になった。


 ――トンッ、わたしは地面に着地して、二人の方を見た。

 ……女の子は大丈夫そうだが、男の子の方は腕を深く切り裂かれていた。


 「大変、怪我をしている」


 わたしは男の子の方へ駆け寄り、傷口に手をかざした。


 「お姉さん、何をしているの?」

 「君の怪我を治しているのよ」


 そして、わたしは掌に魔力を集めた。


 「赤き旋律、

  白き調律、

  絡み合い、

  重ね合い、

  交差せよ」



   ホー   リー   の   ベル 



 ……男の子の腕の裂傷は次第に小さくなっていき、やがて綺麗に塞がった。


 「すっげーーーッ! お姉さん魔法使いなの!?」

 「まあ、そうかな」


 子供に尊敬の眼差しを向けられて、わたしは少しほっこりした。


 「凄い凄い! お母さんみたい!」

 「……お母さん?」

 「うん、凄い魔法使いなんだよ!」


 男の子も女の子も自慢げに笑った。

 ……仲のいい家族なんだなぁ、わたしは母親のことを自慢げに語る二人を見て何だか嬉しくなった。


 「ところで二人はどうしてこんな危ない場所に来ているの? さっきも危なかったんだよ」

 「ごめんなさい」

 「お姉さん」


 二人は素直に頭を下げた。ふふっ、何だか可愛らしいな。


 「僕たちお母さんの誕生日にこの花を取りに来たんだ」

 「お母さん、お花が好きなの」

 「でも、このお花」

 「この暗黒大陸にしか生えていないから、お母さんに近づいちゃ駄目だって言われてたけどこっそりと取りに行ったんだ」


 ……交互に喋る男の子と女の子。二人は鞄からまるで水晶のような透明感のある紫色の花を出して、わたしに見せてくれた。確かに、綺麗な花だ。


 「……なるほど、でも、二人だけでよくここまで来れたね」


 先程の様子を見る限りだと二人からは戦闘の経験値を感じなかった。

 しかし、それだとこの魔物の巣窟である暗黒大陸の奥地まで来れたことに疑問が生まれる。

 戦闘の経験はない。ならば、何かしらの魔物との戦闘を避ける術を知っている筈だ。


 「ふふん、凄いでしょ」

 「これがお母さん直伝の気配隠蔽術」


 「 〝ぜつほう〟 」


 ――声は後ろから聴こえた。


 「 !? 」


 わたしは咄嗟に後ろを向いた。


 「双子がお世話になりました、ありがとうございます」


 ……そこには一人の綺麗な女性がいた。


 「「 あっ、お母さん! 」」


 男の子と女の子が綺麗な女性に飛びついた。


 「よしよし、いい子ね――って」


 ……ゴッ、ゴッ! 男の子と女の子、一人一回ずつ拳骨された。


 「いったーい!」

 「何すんだよ、お母さん!」


 「 お 黙 り ! 」


 ――ビクッ、男の子と女の子とあと何故かわたしも肩を跳ねさせた。


 「本当に心配したんだからっ、勝手に暗黒大陸に行っちゃ駄目だって言ったでしょっ!」

 「……うっ、ごめんなさい」

 「お母さん、ごめんなさい」


 男の子と女の子は素直に頭を下げた。


 「……でも、わたしの為に花を取ってきてくれたのは嬉しいわ、ありがとう」


 綺麗な女性が優しげに笑って男の子と女の子の下げた頭を撫でた。


 「……」


 ……ああ、この人は間違いなくこの男の子と女の子のお母さんなんだろう。


 「レイとリンを助けてくださりありがとうございました」


 双子の母親は今度はこちらを向いて、深く頭を下げた……何だか、年上の人に頭を下げられると少し照れてしまう。


 「いえ、わたしは大したことはしていません。それより、さっきの〝絶法〟って何ですか?」


 気になったので訊いてみた。


 「そうねー、〝絶法〟ってやつは――……」


 双子の母親が言葉を切った。



 「 見ィつけた♪ 」



 ……声が聴こえた。また、気配を察知できなかった。


 わたしは咄嗟に声のする方を見た。


 「 始めまして、僕は〝しゃち〟です 」


 「 〝おにぐも〟 」


 ……何、この人たち?

 ローブを深く被っているせいで表情は窺えないのにわたしは威圧されていた。

 それに、この深く暗い、底知れない冷たい魔力。どこかで感じたような……。


 「……あっ」


 ――思い出した。


 変な名前。


 圧倒的な威圧感。


 そして、この深く暗い、底知れない冷たい魔力は――……。



 「 〝KOSMOS〟 」



 ……そう、全大陸最強にして最凶の盗賊集団――〝KOSMOS〟がわたし達の前に現れたのであった。


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