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 第338話 『 75パーセントの絶望 』



 『ヴォォォォォォォォォォォオオォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォォッッッ……!!!』



 ……〝氷龍〟が咆哮した。


 「……何が起きたんだ?」


 ……僕は目の前の光景に戦慄した。


 「……女の子がでっかい龍になったね」


 文字通り、満身創痍だった少女が一瞬にして巨大な龍に姿を変えた。

 理屈はわからない。しかし、わかることもあった。


 「 強いね、かなり 」


 ……目の前で咆哮する巨龍は間違いなく強かった。


 「臨むところだねェ……!」



 ――先手必勝、俺は鎖鎌を〝氷龍〟目掛けて投げた。



 「さあ、どう凌ぐゥ……!」




 ――ピシッ……! 一瞬にして鎖鎌が氷結し、空中で静止した。




 「……こおっ……た?」


 そう、鎖鎌は完全に氷結していた。


 (――氷魔術最強防御、〝絶対冷域ダイヤモンドゾーン〟だね)


 ……話には聞いていたが予想以上の防御力であった。


 (……物理攻撃は効かない、か)


 ……だったらァ?



     蛇     眼



 ――俺の眼が赤く光った。


 「石化石化石化」


 ……〝氷龍〟の翼が僅かに石化した。


 「石化石化石化石化石化石化石化石化石化石化石化石ka



 ――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!! 激しい雪吹が視界を遮った。



 「邪魔だァ!」


 〝蛇眼〟は三秒間見続けて初めて効く〝特異能力〟だ。こんな雪吹では直視は困難であった。


 「くっ……!」


 俺は雪吹から逃れるべく茂みへと移動した。



 ――逃げられないよ



 ……〝氷龍〟が笑った――気がした。


 「……?」


 ……僕は違和感を感じた。視線は自然と下がる。


 「――ッ」



 ――僕の腕が氷結していた。



 ……いや、違う。


 雪吹が吹き荒れる――そう、僕の周りだけが氷結していた。


 「……何だ、これ?」


 僕は咄嗟に雪吹が吹かない場所まで移動した。


 ……しかし、僕は雪吹から逃れられていなかった。


 (……この雪吹、追尾するのか)


 そう、雪吹は常に僕の周りにだけ吹き荒れていた。


 「なるほど、これは逃げられないねー」


 とはいえ、これは正直まずい。

 どんな攻撃も〝絶対冷域〟に阻まれて届かない。

 そして、追尾する雪吹が確実に僕の体力を奪ってくる。


 ――詰み


 ……一瞬、脳裏に敗北の不安が過った。



 「……ふざけんなよ」



 ……俺はまだ諦めてはいなかった。


 「僕は、俺は俺は、僕は俺は俺俺オレオレ僕俺オレ――……」





 「 あはははは  ハハ ハハハハハ

    はははは   ハハはは

   はは    ハハハハ 」




 ……何もかもがどーでもよくなった。


 「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは――……」


 ……僕は笑った。



 「 しョ     ヵ

            んン

     う          」



 ――出でよ、〝時空蛇ディメンションスネーク


 ……僕は〝時空蛇〟を召喚した。


 「 喰え 」


 ――バクンッッッ……! 〝時空蛇〟が僕を呑み込んだ。


 僕を呑み込んだ〝時空蛇〟は時空の割れ目へ飛び込む。


 「移動先は――……ッ!」



 ――ピシッ……! 〝氷龍〟の〝絶対冷域〟に亀裂が走る。



 「 ここだァッ! 」


 間髪容れず〝時空蛇〟は時空の割れ目から飛び出した。



 ――氷ッッッッッ……! 一瞬にして〝時空蛇〟は氷結した。



 「寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒いィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ……!」


 ――俺は〝時空蛇〟の口から飛び出した。


 無論、俺の身体も氷結する。


 「でーーーもーーーーーーッ!!!」


 俺は構わず鎖鎌を振り下ろした。


 「そのまま斬っちゃえェェェェェェェェェェェェェェェェッッッッッ……!!!」




 ――斬ッッッッッッッッッッッッッッッ……! 僕は氷結する身体を無視して、〝氷龍〟の片翼を切り裂いた。







 ……斬られた。


 ……予想外だ。


 斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた斬られた


 ……翼が地面に落ち、激痛が襲い掛かる。


 (……落ち着け、現状を理解しろ)


 わたしはすぐに切断面を氷結して、止血を施した。


 (わたしは絶対に負けられないんだッ! だから、まだ戦うんだ……!)


 だから、前を向け。そこにはわたしが倒すべき敵がいるのだから。



 『ヴォォォォォォォォォォォオオォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォォッッッ……!!!』



 ……わたしは咆哮した。


 空気が震え、地面が揺れた。


 (タツタさんはわたしの一番大切なものだから! だから、だから!)



 ――ドッッッッッッッッッッッ……! わたしは〝おろち〟に頭突きを叩き込んだ。



 ( 守る……! )


 ……その為だったら死んだって構わない!


 ……あの笑顔を守る為だったら地獄にだって落ちてやる!



 ――ドッッッッッッッッッッッ……! わたしは追撃に強靭な尾を叩き込む。



 ――斬ッッッッッッッッッッ……! カウンターで鎖鎌に斬られた。



 「どうだァ!」

 『――』


 ……痛い。


 ……死ぬほど痛いよ。


 『ヴォォォォォォォォォォォオオォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォォッッッ……!!!』


 ……でも、タツタさんを失う方がもっと恐いんだ!



 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッ……! わたしは激痛を我慢してタックルした。



 『ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ……!』



 わたしは勢いそのまま〝おろち〟を岩壁に叩きつけた。


 「がッッッッッッ……!」


 『ヴォォォォォォォォォォォオオォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォォッッッ……!!!』



 ……これで


 ……これで終わらせる。




   凍    幻    卿




 ―― 一瞬にして〝おろち〟が氷結した。



 ……さよなら


 わたしは心の中で呟いた。


 ……あなたやあなたにとって大切な人には悪いけど、これで終わらせる。



     ブレ     イク



 ――パリィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッッッッッ……!



 ……〝おろち〟は粉々に砕け散った。


 『……』


 ……辺りに静寂が訪れた。


 『……』


 ……〝おろち〟は死んだ。


 (……………………勝った?)


 ……分身ではない。今、わたしが殺した〝おろち〟は確かに本物であった。


 (……わたし……勝ったんだ)


 正直、ギリギリの戦いであった。

 持てる力の全部を使いきってやっとのことで勝てた死闘。


 (……タツタさん)


 わたしはタツタさんの方を見た。


 ……ギリギリでやっとのことで勝てた死闘――その先で守れた大切な人。


 (……良かった)


 わたしは守りきったのだ。この世で最もいとおしい人を……。


 (……もう思い残すことはない、かな)




  ド

          ン

             ッ

      ク




 ――心臓が鼓動した。


 ……強大な力――〝龍華満開〟。それには絶大な犠牲が伴う。


 『……』


 ……ふと、サカズキさんの言葉が脳裏を過った。



 ――50パーセントという高確率で、術者はは強大な力の反動で死ぬ。



 ――更に、たとえ50パーセントの壁を乗り越えても、越えた後の50パーセントの確率で人の姿には戻れない。



 ……数分後、わたしはどうなっているのだろうか?


 生きているのだろうか?


 死んでいるのだろうか?


 人でいられるのだろうか?


 化け物になっているのだろうか?



 ――わからない



 わからないけど凄く恐いよ。

 ここに皆がいてくれたらと思う。誰かがわたしの手を握ってくれたら、どれだけ救われるのだろうかとも思う。

 だけど、それらの全ては何一つとして叶わない。


 『……』


 わたしは瞼を閉じて、運命に身を委ねた。



 ――お願いします



 ……わたしは神に祈った。


 まだ生きていたいから、また皆と一緒にいたいから、すがるように祈った。


 (……どうかお願いします。また、皆と一緒にいさせてください)


 暗闇の中。


 静寂の中。


挿絵(By みてみん)



 ……静かにわたしの身体は崩壊した。


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