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 第334話 『 〝むかで〟VS〝額〟 』



 ――神速の〝何か〟が迫ってくる。


 (……見えへんな)



 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッ……! 神速の〝何か〟はボクの顔面に直撃した。



 「見えへんし、かわせへん。だけど、大したことあらへんな」


 ……しかし、砕けたのは迫ってくる〝何か〟であった。


 「ボクの無敵化は何者にも破られへんよ」


 砕け散った〝何か〟は、よく見ると蛇ぐらいの太さのムカデであった。


 「……そのようだな」


 絶対防御を前にしても〝むかで〟に動揺の色はなかった。


 (……冷静、冷淡。自分が負けるとは一ミリも思っとらんようやな)


 流石は〝七つの大罪〟、胆が据わっていた。


 「けーどー、気に入らへんなぁ。尚更、泣かせたくなったわ」



   出   で   よ



 「 〝岩石王〟 」


 ――巨大な岩の巨人が召喚された。


 「殺れ、〝岩石王〟」

 「邪魔だな」


 ――さっきのムカデより数段巨大なムカデが八体出てきた。


 「行け、〝蜘蛛〟」



 ――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……! 〝蜘蛛〟と呼ばれたムカデが〝岩石王〟を滅多打ちにした。



 「無駄や」


 ――〝岩石王〟は構わず〝むかで〟に殴り掛かる。


 「 〝とぐろ〟 」


 ――〝むかで〟は〝蜘蛛〟を引っ込め、代わりに巨大なムカデがとぐろを巻いた。


 ――拳を振り下ろした〝岩石王〟の腕が弾かれた。


 「固っ♪」

 「無敵化か、ならば」



     千     獄



 ――無数のムカデが〝岩石王〟に絡み付き、拘束した。


 「封じるまでだ」

 「……へえ」


 ……やはり、〝むかで〟は只者ではなかった。


 (……無敵化は守ることはできてもパワーまでは変えられへん。コイツ、いい勘しとる)


 流石は〝七つの大罪〟でも〝白絵〟様に次ぐとされる男であった。


 「〝鉛〟君を倒しただけはあるようやな」


 ボクは〝岩石王〟を解除して、代わりに〝樹王〟を発動した。


 「だったらこっちも手数を増やすだけや」


 ――ボコッ……! 無数の太い蔓が地面から飛び出した。


 「さっきのように拘束はできへんで!」


 「 その必要はない 」



 ――ボクの足下から無数のムカデが飛び出し、絡み付いた。



 「次の狙いは貴様だ」

 「――!?」


 ――ギュルッ……! 無数のムカデが絡み付き、全身に巻き付いた。


 「さっきの様子から見て、無敵化をしても、拘束から逃れる手段はないようだな」

 「――っ」


 ……頭の回転が早すぎる。


 分析から実行までの間隔が圧倒的に短かった。


 「それに絶対防御の相手とは既に戦っていてな、壊し方は既にわかっている」


 ――ムカデが次々と絡み付き、既にボクの身体を余すところなく密集していた。


 しかし、〝千獄〟は止まらない。次から次へと密集し、ボクは巨大な団子のようになっていた。


 (……これは)


 「 息苦しいか? 」


 ――ムカデの団子の外から声が聞こえた。


 「気づいているだろうが、早く出た方がいいぞ」


 ……そう、薄くなっていた。


 「 窒息死は嫌だろう? 」


 ――酸素


 密集したムカデは空気の流れを塞ぎ、ボクの酸素供給を妨げていた。


 (……体内の酸素量の保存はできへん! 見破ったんか!)


 ボクには酸素量の保存ができない。これは魔力保存できない理屈と同じものであった。



 ――消費と保存の矛盾



 ……それこそが〝箱庭〟の弱点であるが、今はそれどころではなかった。


 (とにかく、今はここから抜け出さないとあかんな)


   出   で   よ


 「 〝三頭石竜〟 」


 ――ボクは外から〝千獄〟の拘束を破壊しようと〝三頭石竜〟を召喚した。


 「撃て、ヒ


 「 遅いな 」


 ……〝千獄〟の外から〝三頭石竜〟の悲鳴が聴こえた。


 「貴様の無敵化は拘束には無力だというのは既にわかっている」


 ……拘束したのか? 外にいる〝三頭石竜〟を。


 「そして、今の焦りよう……無敵化しても窒息はすると見て違いないだろう」

 「……」


 ……コイツは力だけじゃない!


 (……一見ただけで十も百も分析しよる! なんちゅう脳ミソしとるんや!)


 コイツは油断すればこっちが殺られる、今のボクの相手は有象無象の雑魚ではなかった。


 (とにかく一刻も早く出ェへんとホンマに死んでまうわ)


     召     喚


 酸欠に追い詰められたボクは〝岩石王〟を召喚した――ボクと零距離で……。



 ――パンッッッッッッッッッ……! 突如発生した巨体に弾かれ、ボクを拘束していた〝千獄〟が弾け飛んだ。



 「取り敢えず、〝千獄〟はクリアやな」


 ボクは久し振りに地面に着地し、正面の〝むかで〟へと視線を走らせた。


 「あんた強いから全力で行かせてもらうで……!」



     箱     庭



 ――発動……!


 「対象は――……」


 ――ボクは〝むかで〟の左胸を睨んだ。


 「 心臓、止まれェ……! 」


 「止まらんよ」


 「――」


 ……有り得ない。


 確かにボクは〝むかで〟の心臓の鼓動回数を保存した筈であった。

 しかし、〝むかで〟は平然としていた。


 (……心臓が止まって平然していられる筈があらへん。てことは、ホンマに動いとるんか)


 理解が追い付かなかった。

 ボクの〝箱庭〟は〝white‐canvas〟に次ぐ能力であったのに、〝むかで〟にはまるで効いていなかった。


 「理解できていないようだな」


 〝むかで〟は自身の胸に人差し指を当てる。


 「俺の心臓は止まらんよ、既に対策していたからな」

 「対策やと?」


 ……いつだ。いつから対策されていた?


 「貴様は有名だったからな――〝封世〟の〝額〟」

 「……知っとったんかい」


 確かにボクは魔王直属の精鋭部隊――〝魔将十絵〟の一人だ。無名とは言えない立場であった。


 「貴様の時を止める力には対策をしている。それがこれだ」


 〝むかで〟が虚空に両手を広げた。


 「見えぬか? 魔力を目に集中しろ――これが〝一方通行〟だ」


 ……目?


 ……〝一方通行〟?


 ボクは言われた通り、両目に魔力を集中させ〝むかで〟の身体を注視した。


 「……透明なムカデ?」


 ……そう、目に見えるか見えないかレベルに透明なムカデが〝むかで〟の身体を這っていた。


 「〝一方通行〟、俺のムカデは絶対に止まらず、曲がらない……これが俺の〝第2形態〟だ」

 「……」


 ……止まらないムカデ?


 ……〝第2形態〟?


 「なるほどな」


 そこでボクは理解した。

 〝むかで〟の〝特異能力スキル〟、〝ステージ形態ツー〟は自身又は操るムカデに〝止まらない〟もしくは〝真っ直ぐ進む〟、この二つの性質を付与する能力であった。


 「つまり、あんたは自分の身体を〝止まらない〟状態にして、ボクの〝箱庭〟を無効化したんやろ」

 「正解だ」


 ボクの推理に〝むかで〟はあっさりと肯定した。


 「貴様が止める力なら俺は止まらない力で上書きしたまでだ」

 「……それで止まるんが異常や」


 ボクのレベルは三万ちょい、もし反魔術で止めるならそれ以上のレベルが必要であった。


 (……無効化できたってことは〝むかで〟のレベルは三万を越えとるっちゅう話や)


 一体どれだけを修羅場を潜り抜けたのだろうか、想像するに難かった。


 (しかし、これは洒落にならんで。〝むかで〟には時間停止と心停止は通用せんてことや)


 無敵化も捕縛で潰されてしまう――何一つコイツには敵うものがなかった。


 「万事休す、ってとこやな」 

 「降参するのか?」

 「まさか?」


 ……ボクは〝魔将十絵〟No.1――〝封世〟の〝額〟。敗北は許されなかった。


 「要するに、時間停止と心停止を使わずにあんたを殺せばええっちゅうことやろ」

 「できるのか?」

 「やったるで」


 ――ボクは〝樹王〟を発動し、地面から無数の蔓を出した。


 「ボクには死なれへん理由があるんやかな……!」


 ――ドッッッッッッッ……! ボクは無数の蔓を無敵化して、〝むかで〟へと放った。


 (……そうや、ボクは死なれへんのや)


 ボクには死ねない理由が、生きる理由があった。


 (〝白絵〟様の為に戦い続けるんや……!)


 ……魔王、〝白絵〟の為に戦う。それがボクのおこがましい願いであった。




 ――五年前。




 ……南の大陸群、イーストリア大陸――パールの都。


 ボクはこの地に生まれ、この地で育ち。そして――……。



 「 腹、空いたなァ 」



 ……ボクは腹を空かせていた。



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