第332話 『 覚醒 』
――ヲゼ大陸、パルティア王国。
「しつこいねェ、アイツらも」
……俺は〝竹聿〟と〝彩〟から逃げるように庭園を駆け抜け、氷付けとなったバラ園を突破する。
「あー、そろそろかね」
噴水の脇を走り抜け――俺は軽く跳躍した。
同 時 。
――地面から無数のつららが飛び出した。
「当たるかよ……♪」
俺はつららをかわし、悠々と城下町へと続く階段を下った。
(全ては〝怠惰手帳〟示されているからなァ……!)
俺は後方を遠目に眺めて、階段を跳ぶように降りた。
「今だな」
俺を追い掛ける〝竹聿〟と〝彩〟。その足下。
一見、ただの地面。
――その地面が割れた。
「「――ッ」」
……普通なら二人まとめて真っ逆さまに落下―であったが、生憎様、俺を追い掛ける二人は雑魚じゃない。
「しゃらくさいよ!」
「無駄な足掻きをッ」
〝竹聿〟と〝彩〟は地割れから逃れて、再び俺を追走する。
「だが、少し遅いな」
二人は俺の後ろ姿を捉える。
「 既に人混み、だ 」
……俺は人混みの中へと飛び込んだ。
そして、俺は人混みに紛れ、再び逃走する。
「この人混みだ、すぐには捕まえきれない筈だよなァ!」
俺は邪魔な通行人を押し退け、前へ前へと突き進む。
「 甘いよ 」
「壁にもなりませんね」
……冷気が吹き抜けた。
「今更、殺人を躊躇うとでも?」
……王都の八割が氷結した。
……人も、建物も全てが氷結してしまでた。
「おぉ~、恐いねェ」
俺は耐氷性のコートで身を隠し、氷結を凌いでいた。
「この程度で捕らえられる〝七つの大罪〟ではないですよ」
「わかってるッスよ、〝彩〟ちゃん」
二人は氷付けとなった通行人を薙ぎ倒し、俺を猛追する。
あー、言い忘れてた。
「不用意にそいつらに近づかない方がいいぞ」
爆
――俺は逃走しながら念じた。
「――何だと」
「まさか……!」
「爆弾だァ……♪」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
……通行人が爆発し、大爆発が猛追する二人を呑み込んだ。
「最初から仕込んでいたんだよ!」
パルティア王国の国民全員に爆発術式を仕込んでいたのだ。
「屑の極みッスね」
「王の器ではありませんね」
しかし、二人は白い羽を背中に飛行し、爆発を回避していた。
「ああ! そうだよ! 俺は屑だ! お前らなど霞むぐらいのなァ!」
――魔導具
……国民が突如浮遊した。
見 ざ 手
ェ
え る
「そうだ! 俺は大罪人だ!」
念動力によって浮遊した国民が〝竹聿〟と〝彩〟へと放たれる。
「〝七つの大罪〟、〝怠惰〟! ブラトニー=キングストンなんだよォ!」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
……何名もの国民が爆ぜ、爆風が二人を呑み込んだ。
「……まっ、この程度じゃあくたばらないだろうがな」
やがて爆煙は晴れ、再び二人の姿を見せる。
「当然だね」
「守っていただき感謝いたします、〝竹聿〟さん」
今度は巨大な二つのシャボン玉に包まれていた。
(……あのシャボン玉、あれでさっきの爆発を凌いでいたのか)
恐らくあのシャボン玉は絶対に壊れないよう〝神の右手〟で創られているのであろう。
シャボン玉が割れ、二人は再び地面に着地した。
「もう遊びはここまでにしましょうか」
〝彩〟の魔力が急激に高まり始めた。
「全てを凪ぎ払えば小細工なんて要らないでしょう」
……来るな
俺はこれから訪れる何かに備えて、身を潜めた。
「蹂躙せよ」
純 白 世 界
――巨大な雪の壁が王都を呑み込んだ。
「ふむ、でかいな」
俺は王都をも呑み込む巨大な雪崩を眺め、能天気に呟く。
「これは逃げ切れないだろうな」
……ならばどうする?
見 え ざ る 手
――百を超える国民が浮遊し、〝純白世界〟へと放られた。
「爆ぜろォ……!」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!!
……大爆発が雪崩を吹き飛ばした。
雪崩は弾け、王都に降り注いだ。
「さて、また逃げるか」
「 逃がしませんよ 」
――降り積もった雪から〝彩〟が飛び出した。
「雪に隠れて接近速攻か」
――飛び出した〝彩〟に覆い被さるように国民が飛来した。
「気付いてるに決まってんだろ、バァーーーカ」
爆
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 国民諸とも〝彩〟が弾けとんだ。
「なーんてな♪」
――グリンッ……! 俺は反対方向へと首を傾げた。
「おめェに言ってんだよ――タケイツゥ……!」
――〝彩〟を囮に、〝竹聿〟が上空から飛来していた。
――ゴッッッッッッッッッ……! 俺はカウンターで〝竹聿〟の顔面をぶん殴った。
〝竹聿〟は堪らず吹っ飛ばされる。
「たく、まどろっこしい真似してんじゃねェよ」
……そして、殴られた〝竹聿〟はドロリッと溶けて、崩れ落ちた。
――偽者
(……今、爆破したの〝彩〟と殴られた〝竹聿〟は〝神の右手〟で創った操り人形だ!)
つまり、本物の二人は別にいた。
俺はかなり離れた時計台へと視線を向けた。
――そこには〝竹聿〟と〝彩〟がこちらを見ていた。
(……距離にして一キロと十メートルってところだな)
ここから先は集中しなければいけなかった。
(未来が見えると言っても、この先の戦いは油断すれば死ぬだろう)
俺は笛をくわえて、力一杯息を吹き込んだ。
――ピイィィィイィィィ
そ の 瞬 間 。
……俺の時間が静止した。
「 〝特異能力〟、解放 」
凍 る 世 界
……これがわたしの〝特異能力〟だ。
「……五秒間です、即行で決めましょう」
「了解ッス」
――〝凍る世界〟
……それは時間を凍結する能力である。
しかし、〝額〟さんの〝箱庭〟とは違い、長時間の時間停止はできなかった。
何故なら氷はいつかは溶ける。それは仕方のないことだからであった。
――五秒
……それがわたしの時間停止の限界であった。
――ドッッッッッッッッッッッ……! わたしと〝竹聿〟さんは一挙にブラトニーへ向かって跳躍した。
この距離なら時間停止ギリギリで殺せるだろう。
わたしも、〝竹聿〟さんも決して速さに自信がある方ではない。
しかし、たったの一キロだ。
「一瞬で終わりますよ」
あっという間に五〇〇メートルを踏破した。
――後、二秒とちょっと。
わたしは氷の刃を握り、〝竹聿〟さんも大剣を創造した。恐らく羽根よりも軽い大剣であろう。
気づけば残り二〇〇メートル。時間も後、一秒はあった。
……そこで、わたしは僅かなミスに気がついた。
(……僅かに届かない?)
――残り、十メートル
……もう少し
……もう少しのところで
0
――時が動き出した。
(いや、押し切る!)
――わたしは構わず氷の刃を振り抜いた。
「死ね……♪」
――〝竹聿〟さんも大剣を振り下ろした。
――トンッ……。〝竹聿〟さんの大剣の側面にブラトニーが手の甲を当てた。
「「 !? 」」
――〝竹聿〟さんの斬撃が逸れて、ブラトニーに当たらなかった。
そ の 背 後 に
――わたしの氷の刃がブラトニーの首筋を狙う。
が
「見えてるぜ」
――ブラトニーは首を傾げて、氷の刃による突きを回避した。
「全てはこの手の中にあるんだよ……!」
――ゴッッッッッッッッッッッッッ……! 回し蹴りが〝竹聿〟さんの顔面に叩き込まれた。
「おっと、美女には優しくな♪」
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 間髪容れず、わたしの腹に掌底が叩き込まれた。
「――ッッッッッッッッ……!」
わたしは堪らず吹っ飛ばされる。
(……予想外だ)
……まさか、体術まで行けるなんて!
わたしと〝竹聿〟さんは受け身をとって着地した。
「……一発やられましたね」
「でも、捉えたッスよ」
……〝竹聿〟さんの言う通り、一撃を食らったものの、ブラトニーとまともに戦える間合いまで近づくことができた。
(……事前に聞いていた未来予知能力でしたが、思っていたよりも厄介でしたね)
二人掛かりでここまで手こずるとは思ってもいなかった。
「ここまでです、今度こそ仕留めます」
「……そうだな、この戦いは直に終わる」
ブラトニーがわたしの言葉をあっさりと肯定する。
(……何でしょうか、この余裕は)
わたしは〝魔将十絵〟No.6――〝氷神〟の〝彩〟だ。
〝竹聿〟さんは〝魔将十絵〟No.4――〝創世〟の〝竹聿〟だ。
この二人を前にして何故余裕でいられる。
今までだってまともに戦わず逃げていたではないか。
それなのに何故そんな風に笑えるのだ。
「わかってないよーだけど、あんたピンチだよ」
「何がピンチだよ、たかが〝魔将十絵〟二人に囲まれただけだろうが」
……異様だ。
……何だこの違和感は?
「もう一度言おう、この戦いは直に終わる」
……そして、この迫り来るプレッシャーの正体は何だ。
「 お前らの死、でな 」
――コンッ……。後ろから足音が聴こえた。
「「――!?」
わたしと〝竹聿〟さんが振り向いた。
……いつからだ?
……いつからいた?
ここまで接近されるまで気づくことができなかった。
「おう、遅かったな――……」
……わたしはその男を知っている。
……そいつは〝白絵〟様やブラトニーと同じ〝七つの大罪〟の一人だ。
――しかし、わたしは知らない。
……満身創痍であり、いつ死んでもおかしくないような人間がここまで禍々しいオーラを発するところなど見たことがなかった。
「 グレゴリウス 」
……そう、〝七つの大罪〟、〝憤怒〟――グレゴリウス=アルデミーがそこにはいた。




