第23話 『 カノン=スカーレット 』
「 復讐? 」
……あの〝白絵〟に?
俺は目の前にいる自称身の程知らずの早死野郎なカノン=スカーレットという少年を見定めた。
……うん、見れば見るほど女みたいな顔だな。
品のある綺麗な顔をしていた。
腰には一、二、三……五つの拳銃がホルダーに納められていた。
丈長のコートが風に煽られ、バサバサと踊っていた。
「だから魔王城までの道程を教えてほしいんだ」
「それで戦うのか」
「うん、その通り♪」
「……」
確かに見ただけでわかる。
――コイツはただ者ではない。
……強い。恐らく俺よりも強い。レベルは見えないが。
ちなみに、今更だがレベルは相手側に隠そうという意志があれば見えないのだ。本当に今更だが。
カノンは俺よりも強い。
……だが、それだけだ。
それだけじゃ、駄目なんだよ。
あの城にはギルドですら相手にならなかったMr.サニーとMs.ムーンがいる。
そいつらよりも遥かに強いアークがいる。
そして――最強の魔導師、〝白絵〟がいる。
生存率は限りなく〇パーセントに近い。俺とギルドは運よく見逃されて生き延びることができたがあれは幸運以外の何物でもない。
……あれ?
今更だけど、何で俺たちは見逃されたんだ? ただの気まぐれ? それともそれ以外の理由があるのか?
「おーい」
……カノンの顔が近くにあった。相手が男なのに少しドキッとした。不覚にも。
「……あっ、悪い」
いかんいかん、考え事をしていた。
「それで教えてくれるかな? 魔王城への道程をね」
「……なあ」
……道程なんて知らないが、俺は先に確認したいことがあった。
「何で復讐なんて考えているんだ、しかも相手は〝白絵〟だ。生半可な覚悟じゃ復讐なんて考えつきすらしない筈だ」
「……」
カノンは少し考えた。
「僕がそれを言えば、君は魔王城へ案内してくれるのかな?」
「ああ、案内してやるよ」
……道なんて知らないけど。
「……まあ、いいや。じゃっ、話すよ」
「おう」
……そして、カノンはゆっくりとその端整な唇を動かした。
……二年前。
――カノン=スカーレットは西の大陸、ウェルタン大陸の東部に位置するニールキッフェ山脈と呼ばれる山の麓で暮らしていたそうだ。
ニールキッフェ山脈は長い長い山脈であり、ある意味魔物がはこびる魔海との防波堤のような役割を果たしていた。
カノンとその家族はそのニールキッフェ山脈の内陸部側で穏やかに暮らしていた。
スカーレット邸の周りには色鮮やかな花々が咲き誇り、母親と妹はその花畑をおきに召していた。カノンも密かに気に入っていたが、男が花を好きなんて恥ずかしいという理由で表に出すことは無かった。
父親はゲイン=スカーレット。かつては拳銃の名手であり、現在は山脈から少し離れた街で雑貨屋を営んでいた。
母親はマリー=スカーレット。綺麗で優しい、機織りが趣味の農婦だ。
六つ下の妹が一人いて、名前はアメリア。外では恥ずかしがり屋で引っ込み思案、家では天真爛漫な典型的な家っ子だ。
当時、カノンは十五歳。彼の夢は世界中旅をして、魔科学の研究をすることであった。
当然、世界には魔物や魔人がいる。なので、旅をするのにもある程度強くならなければいけなかった。
その為、カノンは幼い頃よりゲインから射撃や格闘術を学び、マリーの畑の手伝いの合間に修練を重ね、今では一流の戦士になっていた。
後五年。カノンは両親と二十歳の誕生日に旅に出ると約束していた。
それまでマリーの仕事を手伝い、修練を積もう。そういう計画だった。
一人旅は不安だ、家族皆が一緒にいられる時間も後五年しかない。だから、それまで家族皆で沢山思い出を作ろう、カノンは過ぎ去る毎日を噛み締めながら過ごしていた。
……過ごしていく筈だった。
平穏そのものな日常。
幸せな家族。
充実した時間。
いつまでも続くと思っていた。
そう、あいつがスカーレット邸に現れるまでは――……。
「 〝白絵〟 」
……また、お前なのか。