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  第22話 『 シスターズ・メモリー.Ⅲ 』



 「 〝白絵〟様があたしの前に現れたのです 」


 ……アークの口からとんでもない名前が出てきた。


 そして、〝白絵〟は泣き続けるアークに対して質問した。

 何故、泣いているのか?

 何がそんなに悲しいのか?

 アークは絶えず涙を流しながら〝白絵〟の質問に答えた。

 〝魔人〟になってしまったことが悲しい。

 たった一人の姉に見放されてしまったことが悲しい。

 ……と。

 すると、〝白絵〟はうんうんと頷き――アークに掌をかざした。


 ――異変はすぐに起こった。


 ……背中から生えた巨大な翼が砕け散ったのだ。


 しかし、絶望の破壊はそれだけでは収まらない。

 胸から腰に掛けて広がっていた赤くて、歪で、硬い皮膚がみるみる元の白い肌に戻っていったのだ。

 更には、頭の中を渦巻く強大な人への殺意もすうぅと溶けるように消えていったのだ。

 どうやって消したのか?

 あなたは何者なのか?

 何故、助けてくれたのか?

 アークは〝白絵〟に質問攻めした。

 すると、〝白絵〟は全ての質問に答えてくれた。


 「僕の〝WhiteホワイトCanvasキャンバス〟は完全無欠だから」

 「僕の名前はリュウジ……いや〝白絵〟かな」

 「ちょうどここに来たばかりで酷く退屈していたんだ。だから、話し相手を捜していたんだよ」


 ……と。

 それから普通の人間に戻ったアークであるが、ギルドや両親のところへ戻る気は無かった。

 代わりに、〝白絵〟と一緒に旅をすることにしたのだ。

 それから旅をするのにも飽きた〝白絵〟は魔王となり、アークも力をつけ、魔王軍No.2である〝黒魔女〟となったのであった。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 ――そして、現在。


 「 昔話はこれでお仕舞いです 」


 ……〝暗黒大陸〟をさ迷う俺とフレイに昔話をしていた。


 「他に何か聞きたいことはありますか?」


 アークに質問を促されたので気になったことを訊ねた。


 「今も身体は異形化しているが大丈夫なのか? 

〝白絵〟が治したんじゃないのか?」


 ……〝魔人化〟は〝白絵〟が治した。しかし、俺の目の前にあるアークの肢体は酷く醜いままであった。


 「心配いりません。これは〝白絵〟様に頼んで姿をそのままにしていただいただけで、これ以上は浸食しませんし、あたしの中には〝殺意〟はありません」

 「……何でそんなことを?」


 「 忘れない為です 」


 ……その声は酷く冷たかった。


 「あたしを見捨てた両親や姉への失望と〝白絵〟様への忠義を」


 ……何でだよ。


 俺は心が張り裂けそうになった。


 ……どうしてそんなに悲しい目をするんだよ。


 「……………………そうか」


 ……こんな熾烈な人生を送ってきた少女に言える言葉は俺には無かった。

 だって俺はこの世界に来るまでニートで、この世界に来た後でもギルドに頼りっぱなしなヒモ生活を送っていたんだ。

 そんな俺がこの修羅場を潜り抜けてきた少女に何かを言える筈がなかった。

 ……ああ、何だろうな。

 露呈してしまったな、俺の底の浅さが……。

 俺にこの少女を助け出せる力は無い。

 俺はこの少女の悲しみを吹き飛ばせる言葉を持っていない。


 「……話、ありがとな。そろそろ行くよ」


 俺はアークに会釈して、フレイの手を引いた。


 「ノスタル大陸への正道はこの先を真っ直ぐ歩けば行けますよ。広く開いた道を北へ向かってください」

 「かたじけない、助かったよ」


 俺はもう一度一礼した。フレイも「ありがとうございます」と小さく頭を下げた。


 「さようなら、良い旅を」


 アークは手を振ってそう言った。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……」


 ……そして、俺とフレイはノスタル大陸へと続く幅広の道を歩いていた。

 俺とフレイは一言も喋ることなく、ノスタル大陸を向かっていた。

 二人共、あの話を聞いた後ではとてもじゃないが談笑する気にはなれなかった。

 歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。

 ……沈黙が矢鱈と重かった。


 「 初めまして 」


 ――声が聴こえた。少し高いが男の声だ。



挿絵(By みてみん)



 「……誰だ?」


 機嫌の悪い俺は少し険のある声で来訪者を問い質した。


 「名乗る程の者ではないけど、訊かれたからには名乗らせてもらうよ」


 俺とフレイの前に現れたのは一人の少年であった。



 「 カノン=スカーレット 」



 ……そいつはまるで詩人のように穏やかで、女みたいな綺麗な顔をしていた。


 「 魔王、〝白絵〟に復讐を誓った身の程知らずで早死野郎さ 」



 ……カノンは女みたいな顔で微笑した。


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