第262話 『 タツタとカノン 』
「 うん、よろしくね! 」
……それは初めてカノンと出逢ったときの笑顔であった。
俺から見たカノンの第一印象は――〝死に急ぎ女顔男〟であった。つまり、そんなに良い印象ではなかった。
「 作戦通りだね、タツタくん 」
……次に思い返すのは〝おにぐも〟戦での共闘であった。
初めての共闘にしては意外に息が合っていたと思う……まあ、二人の必殺技をぶつけてもピンピンしていた〝おにぐも〟にはかなり絶望させられたが。
「 出番だ――〝重覇〟 」
……〝灰色狼〟への入属試験、カノンの成長スピードには驚かされた。
その頃からだったかな、カノンに対してライバル心を懐くようになったのは……。
「 駄目だよ! そんな破廉恥なこと! 」
……女湯を覗こうとしたときには衝突もした。不真面目な俺と優等生なカノンでは馬が会わないこともあった。
「 怪我はないかな、タツタくん 」
……〝むかで〟に殺されそうになったとき、カノンは命懸けで助けてくれた。
カノンだって、〝黒朧〟を撃って動けない筈だったのに、あいつは身を張って、俺を守ってくれたんだ。
「 僕等は親友じゃないか 」
……仲間を捨てた俺にもう一度手を差し伸べてくれた。そのとき、口にはしなかったが泣きたくなるほどに嬉しかったんだ。
「 ……タツタくん、僕、強くなりたいよっ 」
……満天の星空の下、俺とカノンは己の弱さに悔い、強くなることを誓った。
あれから俺もカノンも強くなった。だけど、まだまだ強くならなければならなかった。
――〝白絵〟。
……俺も、カノンもこの男を超えなければならないからだ。
その為にはもっと、もっと強くならなければならなかった。
だけど、カノンと一緒ならどこまでも強くなれる気がしたんだ。
カノンに負けたくない。その気持ちだけで俺は強くなれたんだ。
カノンは仲間で、親友だ。だけど、それ以上に好敵手だったんだ。
――友達だから……!
……カノンはそう言ってくれた。
……涙が溢れそうに嬉しかった。
「 ああ、お前は最高の友達だ……! 」
……それが俺の答えであった。
……………………。
…………。
……。
……厚い雲の隙間から三日月が覗けた。
「……」
俺は満身創痍な姿でイクサスの街路をさ迷った。
既に祭の余韻も消え、街はとても静かであった。
――ぽつっ……。掌に滴が跳ねた。
「……雨か」
呟く。そして、間も無くして――……。
――ザアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
……激しく雨が降り注いだ。
「……」
しかし、俺は走り出すことができなかった。まるで、鉄球でも引き摺るように覚束ない足を引き摺って歩いた。
雨は容赦なく降り注ぎ、俺の身体を濡らした。
「……だったんだ」
俺は独り呟いた。
「 友達だったんだ……! 」
俺は絞り出すように吼えた。
そう、カノンは俺の友達だったんだ。
だけど、俺はその手を振りほどいたんだ。
――決別したんだ。
……カノンは地を這いつくばる。
……俺は街をさ迷う。
……雨は止まなかった。




