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 第256話 『 告白.Ⅰ 』



 「 十分後に、広場で打ち上げ花火が始まるんだって! 楽しみだねー! 」


 ……どこからか聞こえてくる女の声。


 ……もうじき、花火が上がる。


 ……パレードもいよいよ大詰めであった。


 「……楽しみだね、花火♪」


 カノンが俺の横で落ち着きなくはしゃいでいた。


 「僕の住んでた所は田舎だったから花火は滅多に見れなかったんだ」

 「へえ、それは良かったな」


 今まで見たことがないのなら感動も人並み以上であろう。


 「ねえ、ルリちゃん知ってる? 花火が上がる時にキスをするとその二人は永遠に結ばれるんだって!」

 「キャーッ、ロマンチックーッ!」

 「……まあ、わたし達二人とも独り身だけどね」

 「……うん、そだね」


 そんな会話が耳に入ってくる。

 うーん、こっちの世界でも浮わついたジンクスがあるのか。恋愛話は世界を問わないようである。


 「タツタくんは好きな人っているのかな?」

 「……えっ、俺?」


 カノンの質問に俺は思わず間の抜けた声を漏らす。


 「何か恋愛成就のジンクスがあるみたいだし、そういう人がいるのかなーって思ったんだけど」

 「……うーん、そうだなー」


 俺は取り敢えずT.タツタの女子メンバーを頭に思い浮かべた。

 フレイは……犯罪である。

 クリスも……犯罪である。

 カノンは……男である。


 ドロシーは――……。


 ――私の勇者様なんですから


 「……」


 ギルドは――……。


 ――空龍の剣です……!


 「……」


 俺は思わず沈黙した。


 「何々、やっぱり誰かいるの?」


 カノンは興味津々という感じに詰め寄った。


 「いっ、いねェよ!」


 俺は動揺しながらも誤魔化した。


 (……ドロシーとギルド、か)


 俺は二人の姿を不意に思い浮かべた。


 (俺は二人のことをどう思っているんだろ)


 気になる異性と聞かれて、心当たりのある二人。


 (……異性として好きなんだろうか、それとも仲間として好きなんだろうか)


 ……今の俺にはその二つの回答をはっきりさせる勇気が無かった。

 皆でいるこの日々を壊したくなかったのだ。

 というより、俺は異性を恋愛目線で見ることに免疫がなかった。

 今までの人生で、俺に対して親身に接してくれた女性が母親以外にいなかったからだ。

 好きな二次元キャラクターはいても、好きな女性は一人もいなかったのだ。


 (……二人は俺のことをどう思っているんだろ)


 俺は深い思考の迷路をさ迷っていた。


 「タツタくん。おーい、タツタくーん」

 「どっ、どうした、カノン!」

 「……いや、凄い気難しい顔してたよ」


 ……考え込む剰りにカノンに心配される始末であった。


 「いや、別に何でもな――……」


 ――ガシッ……! 何者かに手首を掴まれた。


 「――えっ?」


 ――ぐいっ……! そして、腕を引っ張られ、そのまま人混みに呑まれた。


 「タツタくんッ!?」

 「カノンッ!」


 俺は何者かに引っ張られ、そのまま茂みの影へと導かれた。


 「誰だ!」


 俺は堪らず尻餅を着き、手を引っ張った張本人の方へと視線を傾けた。


 「……って、ギルドじゃん」


 ……手を引っ張った張本人はギルド=ペトロギヌスであった。


 「タツタくーん!」


 カノンが人混みを掻き分けながら俺を捜す。


 「しぃぃー……」


 しかし、ギルドが口元に人指し指を立てて、沈黙を促す。

 カノンの呼び声に応えようとした俺であったが、咄嗟に沈黙した。

 しばらく沈黙していると、次第にカノンの声は遠退いていった。


 「いきなりどうしたんだよ、ギルド」


 俺は少し怒り気味にギルドに事の成り行きを言及した。


 「……えっと、無理矢理連れ出してすみませんでした」


 ギルドが素直に謝ったので、俺の怒りも少し落ち着いた。


 「あの、どうしてもお話ししたいことがありまして」

 「……話?」


 ……はて、一体どんな話なのだろう。

 いきなり連れ出されたのはいただけないが、ギルドの真剣味のある眼差しを無視することはできないだろう。


 「タツタさん、雷帝武闘大会では本当にお疲れ様でした」


 ……何の文脈も無く、労いの言葉を貰った。


 「そして、もう一度生きてわたしの前に帰ってきてくださり、ありがとうございました」


 ギルドは深い深い御辞儀をした……その瞳はとても真剣味を帯びていた。


 「……ありがとう、か」


 ギルドの気持ちはちゃんと伝わった。


 「それは俺の台詞だよ」


 ……その上で否定した。


 「お前らがいなければここまで勝ち上がれなかったし、皆が時間を稼いで、お前がくれた〝光合石〟のネックレスがなければ俺は死んでいたんだ」


 俺は皆から沢山のものを貰っていた。


 「だから、俺からも言わせてくれ」


 俺は真っ直ぐにギルドを見つめて静かに、しかし、ちゃんと聞こえるように話し掛けた。


 「 ありがとう 」


 ……それは心の底から溢れだす強い思いだ。


 「これが、今まで俺を支えてくれて、信じてくれたお前に対する気持ちだ」

 「……」


 俺の言葉にギルドが無言で俯いた。


 「……ふふふっ」


 ……そして、小さく笑った。


 「やっぱり、タツタさんはタツタさんですね」


 それは無垢な子供のような微笑みであった。


 「ちょっとひねくれていて、ちょっと台詞が臭い……こればかりは死んでも治らないみたいですね」

 「……何だよ、いきなり悪口かよ」

 「違いますよ」


 ギルドは優しげな口調で否定した。


 「それがいいんです、わたしはそんなタツタさんに惹かれたんです」

 「――えっ?」


 俺はギルドの言葉の真意を確認しようとした。


 ……しかし、続く言葉を紡ぐことはできなかった。



 「 好きです、タツタさん 」



 ……吐き出されたその言葉に俺は言葉を失った。


 ……何か


 ……何か言わないと


 俺は必死に返す言葉を探した。


 「ギル――……」


 ……しかし、俺は何も言えなかった。



 ――ギルドの唇が俺の唇を塞いでいたからだ。



 ……花火の音がやけに遠くから聴こえた。


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