第250話 『 T.タツタVS〝白絵〟 』
「 一分だ 」
……〝白絵〟が静かに呟いた。
「……予定より早かったね」
〝白絵〟が地面見下ろし、溜め息を吐いた。
……地面にはユウくんとドロシーちゃんとクリスちゃんとフレイちゃんが倒れていた。
「一人一分だって聞こえなかったかい?」
「……くそっ」
ユウくんが辛うじて立ち上がる。
「タツタは絶対に目を覚ますんだ! だから、それまで俺が時間を稼がないといけないんだ!」
幻 影 六 花
――ユウくんは〝刃〟を地面に突き刺した。
蛇
――黒い刃が地を這いながら〝白絵〟に襲い掛かる。
「 & 」
裂
――地を這う刃が幾重にも分裂し、全てが〝白絵〟に向かって伸びた。
「 〝光剣〟 」
――斬ッッッッッッッッッッッッ……! 全ての〝蛇〟が〝白絵〟の〝光剣〟によって切り刻まれた。
「――っ」
「 お前はもう飽きたよ 」
――〝光踏術〟で〝白絵〟がユウくんの背後に回り込む。
「 陸の型――…… 」
――斬ッッッッッッ……! 〝ユウくん〟の首が〝エクスカリバー〟で切断される。
「 〝鏡〟 」
――本物のユウくんが〝白絵〟の背後を取る。
「……知っているよ」
……〝白絵〟はユウくんの〝鏡〟に気がついていた。
――〝白絵〟はユウくんが〝刃〟を振り抜くよりも速く、振り向き様に〝光剣〟を薙ぐ。
「 & 」
――ピシッ……! 〝白絵〟の手が止まった。
「 〝氷〟 」
――〝鏡〟のユウくんを斬った、〝白絵〟の腕が氷結していた。
「やるね……♪」
――斬ッッッッッッ……! 〝刃〟による斬撃が〝白絵〟に炸裂した。
「……だけど、圧倒的だね」
――ガシッッッ……! 〝白絵〟は斬られたことも構わず、ユウくんの首を鷲掴みした。
「 この力の差は 」
「……ぐっ」
……ユウくんの渾身の一撃は、〝白絵〟の魔力の膜に遮られ届いていなかった。
「やっぱり弱いね」
「……」
ユウくんが〝白絵〟の腕を掴むも、びくともしなかった。
「同じ〝KOSMOS〟の〝おにぐも〟と比べて、あまりにも非力だ」
「……っ」
――ピタッ、ユウくんの動きが止まった。
「……お前、〝おにぐも〟を知ってるのか」
「ああ、知っているよ」
ユウくんの質問に〝白絵〟は爽やかな笑みを浮かべた。
「 確か、僕の部下である〝絶防〟の〝鉛〟に殺された雑魚だったかな 」
「――」
……〝白絵〟の回答にユウくんが沈黙した。
それにしてもあの〝おにぐも〟を殺す程とは、〝魔将十絵〟も底が知れない。
「……」
……ユウくんが何か言った。
――ミシッ……! 何かが軋む音が聴こえた。
「……お前……す」
……〝白絵〟の笑みが消える。
「……お前……殺す」
――殺ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! ユウくんのプレッシャーが跳ね上がる。
「――っ!」
――ゴッッッッッッッ……! 〝白絵〟はユウくんを地面に叩き込んだ。
「がっ……!」
ユウくんが悲痛な声を漏らす。
「……悪いけど」
白 き 閃 光
「……スイッチ入れる前に眠ってもらうよ」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
……白い光線がユウくんに叩き込まれた。
「ユウくんッ!」
わたしは叫ぶ。その名の主であるユウくんは爆煙を引き摺りながらバトルフィールドを転がった。
「……」
ユウくんは満身創痍な姿で地面に横たわっていた。
「……危なかったね」
珍しく〝白絵〟が冷や汗をかいていた。
「スイッチ入れられていたら五分じゃ間に合わなかっただろうね」
〝白絵〟は手首を振って、痛みを訴えた。
「……まあ、何にしても後三分だ」
〝白絵〟がこちらの方を向いた。
「君はどう時間を稼ぐ?」
光 の 射 手
――眩い閃光がわたしとタツタさんへと放たれる。
(……来る!)
――太陽の杖を構えるわたし。
――ザッッッ……! わたしの前に滑り込む一つの影。
「……あなたは!」
――ガッッッッッッッ……! 謎の人影が〝光の射手〟を弾いた。
「 カノンくん……! 」
「お待たせ!」
……カノンくんだった。カノンくんが医務室から駆け付けてくれたのだ。
「ギルドさんはタツタくんの治療を続けてて」
既にカノンくんは〝黒龍〟状態で、黒い魔力が渦巻いていた。
「僕が時間を稼ぐ……!」
カノンくんは〝白絵〟と対峙した。
「……もう、お前の底なんて知れている。大人しく医務室に戻ってなよ」
「お前の物差しで勝手に僕を計るんじゃないぞ」
カノンくんは拳を構えた。
「 今日の僕は復讐を忘れてやる! 」
――カノンくんは一息で〝白絵〟との間合いを制圧する。
「 今日はタツタくんの為にお前をぶん殴る……! 」
――ゴッッッッッッッッッッッ……! カノンくんの拳と〝白絵〟のガードが衝突した。
「まだまだァ……!」
カノンくんは絶え間なく拳を畳み掛けた。
「 軽いね 」
……しかし、全ての拳は〝白絵〟の手にいなされ、弾かれる。
「 軽すぎて 」
――トンッ……。〝光踏術〟で〝白絵〟がカノンくんの背後に回り込む。
「 飛んでしまいそうだ 」
〝白絵〟の回し蹴りが炸裂し、カノンくんは堪らず吹っ飛んだ。
「へえ、咄嗟に弾いて威力を相殺したか」
〝白絵〟は楽しそうに笑った。
「だけど、パワー不足だ。威力を殺しきれていないね」
〝白絵〟の言う通り、カノンくんの身体は宙へ弾かれ――……。
――ゴッッッッッッッッッッッッッ……! コロシアムの壁に叩きつけられた。
「――ッッッッッッ……!」
……カノンくんは瓦礫の山に呑み込まれる。
「カノンくん……!」
呼んでもカノンくんは返事をしてくれなかった。
(……カノンくん、どうして〝五頭龍〟を使わないの)
……〝五頭龍〟のパワーとスピードなら〝白絵〟とも張り合えた筈であろう。
「 使わないんじゃなくて、使えないんだよ 」
……わたしの疑問に答えたのは〝白絵〟であった。
「確かに、ベル=リーンの回復魔法のレベルは世界最高峰だ。しかし、そのベル=リーンを以てしても磨り減った精神力は回復しない」
瓦礫の山からカノンくんが出てきた……たった一撃喰らっただけなのにふらふらであった。
「磨耗した精神力じゃあ五発同時装填はできない。〝五頭龍〟とはそういう代物だよ」
「……そんなっ」
……じゃあ、カノンくんは〝黒龍〟ですら無理しているってことなのかな。
「 勝手に決めるなよ、〝白絵〟 」
……カノンくんはまだ戦意を喪失してはいなかった。
「この身体は僕の身体だ。この心は僕の心だ。限界は僕が決める……!」
「……タツタみたいなことを言うね」
〝白絵〟が溜め息を溢した。
「じゃあ、僕もいいことを教えてやるよ」
――トンッ……。 〝白絵〟はカノンくんの背後いた。
「 僕の言葉は絶対だ。そして、絶対は僕だ 」
――斬ッッッッッッッッッッッッ……! 一瞬にして、カノンくんは切り刻まれた。
「――ッッッッッッ……!」
「……殺しはしない」
……カノンくんの〝黒龍〟が解除された。
「お前は僕の計画の一部分だからね♪」
……そして、カノンくんは静かに崩れ落ちた。
「……あと、二分だ」
……クリスちゃん、フレイちゃん、ドロシーちゃんも倒れた。
「さて、ギルド=ペトロギヌス」
……ユウくんも倒れた。
「お前は何秒持たせられるかな?」
……カノンくんも倒れた。
「……」
――わたしは無言で〝太陽の杖〟を構える。
「 いや、次はわたしが行こうか 」
……えっ?
「……まさか、あんたがでしゃばるとはね」
……その者、くたびれた着物を羽織、腰には刃が提げられていた。
「……何も驚くことはないでしょう」
……その者、飄々としながらまったく隙がなかった。
「 弟子の危機に駆けつけるのは師匠の勤めというものですからね 」
……その者、老人であり頭に兎の耳を携えていた。




