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 第249話 『 空上龍太.後 』



 「 以上がお前の失われた記憶だ 」


 ……目を開けた俺にブラドールが言った。


 「……」


 やはり周囲は真っ暗で、ブラドールがただ一人いるだけだった。


 「……そうか」


 俺は淋しげに呟いた。


 ……俺は死んだ。


 ……弟も、父親も、母親も皆死んじまったんだ。


 「……そんなのってねェよ」


 俺は振り絞るように声を吐き出した。


 「……やりきれねェよ」


 俺は大切な人を皆失って、誰に惜しまれることなく死んだんだ。


 ――無


 ……俺の死には何も無かった。空虚な喪失感がそこにはあった。


 「……何にもないんだな」

 「……そうだ。例え、この〝ゲーム〟をクリアしてもお前は誰も救えないし、お前の帰りを待つ者もいない」

 「……そうだな」


 俺が生き返っても、家族もいないし、家族以外に俺を待っている人間もいない。

 家族でこの世界にいるのは俺と龍二だけ、しかし、龍二を蘇らせることはできない。

 何故なら、この〝ゲーム〟のクリア条件は〝白絵〟を殺すことであり、一度死んだ人間は蘇らせることができなくなるのだ。

 龍二は〝白絵〟だ。〝白絵〟を殺せないと龍二は蘇らせれないし、〝白絵〟を殺せば龍二を蘇らせれない。詰みであった。


 「……さて、お前に二つの選択肢をやろうか」


 ――ブラドールが人差し指を立てた。



 「 一つは諦めて今ここで死ぬという道だ 」



 ――ブラドールはそのまま中指を立てた。



 「 もう一つは立ち上がり、勝てもしない〝白絵〟と戦うという道だ 」



 「……」


 ……究極の二択であった。


 「俺のお勧めは一番だ。痛みもないし、ただ眠るだけだからな」


 ……死を勧めるとか、とんでもない自称神様であった。


 「二番はお勧めしない。痛いし、苦しいし、徒労で終わる可能性の方が高いからな」


 ……コイツは間違いなく性格が悪かった。


 「……死ねってか? 酷い奴だな」

 「なあに、ただ現実主義なだけだ」


 ブラドールは淡々と対話する。


 「 さあ、選ぶがいい 」


 答えを求めるブラドール。俺はすぐには答えられなかった。


 「正しい道を選ぼうとしない方がいい。お前の人生には波乱しかないからな」

 「……そうか」


 俺は肩の荷が降りたような気がした。


 「俺、死ぬんだな」

 「それはお前次第だ」

 「……」


 ……確かに、ここが俺の限界だったのかもしれない。

 そもそもこの〝ゲーム〟に参加する理由なんて最初からなかったんだ。ただ無理矢理参加させられただけに過ぎなかったんだ。


 ……揺らぐ、心が揺らぐ。


 ……生か死、か。


 ……戦いか逃避、か。


 ……決断のときはすぐそこまで迫っていた。


 「……答えが決まったよ」


 ……戦う理由なんて何もない。


 ……色々なことがどうでもよくなっていた。


 ……もう充分頑張ったよな。


 ……後悔はないよな。


 「俺は死を選――……」




挿絵(By みてみん)




 ……誰かが俺を呼ぶ声が聴こえた。


 ……遠い昔に聴いたことのある声であった。


挿絵(By みてみん)



 ……それは、ギルド=ペトロギヌスの声であった。


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