第244話 『 シロエゲーム 』
「 タツタくんに近づかないでください……! 」
……タツタに留目を刺そうとした僕の前に立ちはだかったのはドロシーであった。
「……そこを退け、ドロシー」
僕は静かにドロシーをなだめた。
「なりません……!」
しかし、ドロシーは退かなかった。
「 そこを退けと言っている 」
……今度は殺意を織り混ぜて、命令した。
「 できません……! 」
……それでも、ドロシーは一歩も退かなかった。
「……」
……少し驚いた。まさか、操り人形だったドロシーに拒絶されるとは思ってもいなかったからだ。
(……なるほど、タツタの仕業か)
僕は地に平伏しているタツタを見下ろし、不敵に笑んだ。
「我儘に育ってくれたね、ドロシー」
「〝傲慢〟の貴方に言われる筋合いはありませんよ」
ドロシーは一切動じることなく、皮肉を言う。
(……あのドロシーが随分と強くなったね)
場違いにも少し感慨深い気持ちになった。
「 あの、そこまでですっ……! 」
僕とドロシーの間にバニーガールの審判が割り込んだ。
「タツタ選手に対する増援、これは反則行為に当たります!」
……まあ、当然の対応であった。
「よって、この試合の勝者は〝白絵〟選手となります」
「 いや、まだ試合は終わりじゃない 」
……しかし、僕は簡単に試合を終わらせるつもりはなかった。
「新しいルールを決めよう。そうだね、まず増援による反則負けは無しにしよう」
僕は勝手に話を進める。
「そして、これから僕はタツタの仲間を全滅させる。そうなる前にタツタが目覚めれば、タツタと試合続行。もし、タツタが目を覚まさなければ仲間を皆殺しした後でタツタを殺す……以上が新ルールだ」
「そんな勝手に決められてもいきなり受理なんてできません!」
意外にも気の弱そうなバニーガールの審判が食い下がる。
「……僕の気分次第でこのコロシアムにいる人間を皆殺しにできる」
小さな声で呟く僕にバニーガールの審判が肩を微かに震えさせた。
「お前の返答次第で何百人もの人間が死ぬよ」
「……ひっ!」
バニーガールの審判は堪らず尻餅を着き、ガタガタと小さな肩を震えさせた。
おまけに失禁しており、とてもじゃないが交渉どころではなかった。
仕方がないので僕はバニーガールの審判から視線を逸らし、観客席の方を見上げた。
「 さあ、御決断を 」
……僕はVIPルームから観戦しているカザン王国、女王――ロゼ=サンダーバードに決断を委ねた。
「 許可します 」
……返事はすぐに返ってきた。
「 私、ロゼ=サンダーバードの権限により、ルールの変更を許可します 」
……流石は一国を束ねる王、決断が早くて助かった。
「さて、許可も降りたことだし」
僕は観客席の一角を睨み付けた。
「降りてきなよ、迅速にね」
……ギルド、夜凪夕、フレイチェル、クリスティアがいる席である。
「わかったわ、すぐ行くから」
ギルドと夜凪夕は飛び降り、フレイチェルとクリスティアは階段から降りた。
そして、四名はドロシーの横に並び、僕と対峙した。
「ルールはさっき言った通りだ、異論はないかい?」
「ないよ!」
夜凪夕が即答した。
「じゃあ、始めようか」
僕はT.タツタの面子を一別した。
右から、
ギルド=ペトロギヌス
夜凪夕
フレイチェル
クリスティア
ドロシー=ローレンス
それと……。
「……うん、そうだな」
……この戦力なら、
「 五分で片付けよう 」
……それが僕の出した結論であった。
「……五分? 言ってくれるね」
夜凪夕が〝刃〟を構えた。
「だったら俺も」
〝刃〟が〝裂〟によって二本になる。
「 五分で終わらせるよ 」
夜凪夕が刃を構える。
「ギルド姉ちゃん」
「どうしたの?」
夜凪夕がギルドに指示を出す。
「皆で時間を稼ぐ。だから、ギルド姉ちゃんはタツタの治療に専念して」
「……わたし抜きで大丈夫?」
「どの道、タツタが目を覚まさなければ全員死ぬんだ。だったら、タツタの覚醒が最優先な筈だろ」
夜凪夕は年の割りに状況判断がよくできていた。
「わかった。治したら合流するから」
「うん、待ってる」
……一人目、夜凪夕が僕の前に立ちはだかった。
「待たせたね、〝白絵〟」
「まずは一人だ。一分で片付けようか」
僕の前に立つ夜凪夕が不敵に笑んだ。
「臨むところだよ……!」
――夜凪が〝刃〟を両手に飛び出した。
……これより、僕とT.タツタの試合が始まる。
(……さあ、さっさと目を覚ませタツタ)
僕は彼の人の目覚めを待った。
(……じゃなきゃ、お前は大切な仲間を全て失うぞ)
……残り時間――五分。




