第241話 『 真・闇黒染占 』
「……これが作戦その二かい?」
「ああ……!」
……フゥを〝憑依抜刀〟させ、俺の風の力を底力を押し上げる、それこそが〝白絵〟攻略作戦その二であった。
「いいね♪ どのくらい強くなったのか試してみたくなったよ」
〝白絵〟が右手を俺に向けた。
「真っ向勝負だ。受けてみろ」
光 の 射 手
――〝白絵〟の右手から白い閃光が放たれる。
「いいぜ」
俺は〝SOC〟を振り上げる。
「受けて立つよ」
そして、振り下ろした。
真 ・ 黒 飛 那
――次の瞬間。
「 お見事♪ 」
――〝真・黒飛那〟は〝光の射手〟を貫き、〝白絵〟の横を通り抜けた。
「……予想以上だな」
俺は自身のパワーアップに奮えた。
何せさっきまで競り負けていた〝光の射手〟を今度は圧倒していたのだ。
だが、〝真〟の本当の力はこんなもんじゃない。
「見せてやるよ、〝真〟の極地を……!」
――ドッッッッッ……! 俺は真っ正面から飛び出す。
(……ギルドならどう戦っていたっけ)
俺は記憶を辿る。
「じゃあ、これはどう凌ぐ?」
降 り 注 ぐ 光 の 雨
――無数の光の槍が降り注ぐ。
「 凌がねェよ 」
風 読 み
「 全部かわす……! 」
――俺は無数の光の槍全ての軌道を読み、回避した。
「――♪」
〝白絵〟が上機嫌に口笛を吹く。
「なら、退路を塞ごうか」
無数の光の槍が俺を包囲するように軌道を変える。
「 三六〇度、一片の死角も在りはしないよ 」
――無数の光の槍が俺に集束するように、一挙に降り注ぐ。
「……ギルドならきっと」
俺は〝SOC〟を構えた。
「 逆巻け 」
夜 嵐
――俺を中心に黒い竜巻が展開され、全ての光の槍を弾いた。
(……ギルド。お前の〝暴風結界〟借りたぜ)
俺は心の中でギルドに感謝した。
「……なるほど。風霊を憑依させることによって苦手だった魔術の強化のみならず、バリエーションも増やしたようだね」
相変わらず余裕を崩さない〝白絵〟。
「その余裕、剥ぎ取ってやるよ」
真 ・ 黒 飛 那
――俺は〝夜嵐〟を解除すると同時に、〝真・黒飛那〟を〝白絵〟目掛けて放った。
「 壁 」
――しかし、魔法障壁によって〝真・黒飛那〟は弾かれてしまう。
(……〝真・黒飛那〟といえど、あの魔法障壁は破れないか)
……改めて、魔法障壁を破ったカノンの〝五頭龍〟の強さを実感した。
「……まっ、それは囮だけど」
――そう、既に俺は高速機動によって〝白絵〟を囲うように走り、〝真・黒飛那〟を放っていた。
「 鱈腹喰えよ 」
真 ・ 黒 棺
――計十六の〝真・黒飛那〟が〝白絵〟に叩き込まれた。
「ただし腹壊すぜ……!」
〝白絵〟を中心に粉塵が舞い上がる。
俺はカウンターを警戒して、一旦間合いを取る。
「 予想以上だよ、タツタ 」
……無論、〝白絵〟は無傷であった。
「全方位に展開したとはいえ、僕の魔法障壁にひびを入れるとは大したものだ」
……〝白絵〟の言う通り、魔法障壁にはひびが走っていた。
「ならば、僕もギアを上げるとしようか」
〝白絵〟が右手を俺に向けた。
「手始めに中級光魔法だよ」
切 り 裂 く 閃 光
――光の刃が俺に放たれる。
「 舐めんなよ 」
……俺は抜刀の構えをした。
「 超 」
――光の刃が地面を裂きながら迫り来る。
「 真空抜刀術……! 」
――俺は右足を力強く踏み込んだ。
絶 ・ 黒 飛 那
――斬ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!
……〝切り裂く閃光〟が一刀両断された。
「 それだけじゃねェよ 」
――ブシュッッッ……! 〝白絵〟の肩が僅かに裂け、血飛沫が舞った。
「……へえ♪」
〝白絵〟が笑う。
「まさか、〝切り裂く閃光〟を斬った上で、僕の魔力の膜を突破するとはね」
「別に大したことしてねェよ」
俺は〝SOC〟の刃先を向けて、〝白絵〟に向けて挑発する。
「お前が俺の力を見誤った。ただ、それだけの話だ……!」
「……」
俺の挑発に〝白絵〟が俯く。
「……………………くっ、くくっ」
……〝白絵〟が笑った。
「あははははははははははははっ……!」
〝白絵〟が高らかに笑う。いつもの飄々とした笑みとは違う、本当に楽しくて仕方がないという感じであった。
「まったく、お前は本当に僕の期待を何度も何度も超えてくれる……!」
〝白絵〟の異様な雰囲気に俺は思わずたじろぐ。
「最高だよ、タツタァ! そんな最高なお前には御褒美を――……」
――あっ?
……俺は〝白絵〟を見失った。
「 少し僕の本気を見せてやるよ……! 」
――〝白絵〟の手が目の前に迫っていた。
……間に合わなかった。
回避?
ガード?
何をするにも時間がなかった。
――ガッッッッッ……! 〝白絵〟の右手が俺の顔面を掴む。
「――っ!」
俺は咄嗟に振りほどこうと〝白絵〟の腕を掴む。
(……嘘だろ?)
――〝白絵〟の腕は一ミリも動かなかった。
(……まるで、動く気がしねェ!)
――遠心力に脳味噌が揺れる。
次 の 瞬 間 。
――ゴッッッッッッッッッッッ……! 地面が割れる程の勢いで地面に叩きつけられた。
「――ガッ……!」
意識が飛ぶ。
脳が揺れる。
〝白絵〟の右手が発光する。
(……嘘だろ! この距離で!)
――俺は咄嗟に刃を薙いだ。
零 ・ 黒 飛 那
――零距離で〝真・黒飛那〟を〝白絵〟の土手っ腹に叩き込んだ。
「――♪」
「――ッッッッッッ……!」
俺と〝白絵〟は反対方向へ吹っ飛ばされる。
「……あっ」
……危なかった。あと、少し遅かったら〝光の射手〟で頭が吹き飛んでたぞ。
潰れたトマトのようになった自分の顔を想像して、俺は少しゾッとした。
「にしても、マジで目で追えねェな」
カノンの雷速に慣れているお陰で、それなりに動体視力に自信がある俺でも〝白絵〟の速さを捉えることができなかった。
「 教えてあげようか? 」
――声は後ろから聴こえた。
「〝光踏術〟。光魔法を極めて初めてできる、光速移動法だよ」
……光速。
そんなの反則じゃねェか。
――俺は踵返して、〝SOC〟で斬りかかる。
――パシッ……! しかし、〝白絵〟は意図も容易く俺の手首を掴んで止めた。
「 捕まえた 」
――トンッ……。〝白絵〟の人指し指が俺の肩に当てられた。
光 の 射 手
――ドッッッッッッッッッッッ……! 〝光の射手〟が俺の肩にコイン大の風穴を空けた。
「ぐあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ……!」
俺は堪らず悲鳴を上げる。
「ほら、集中力を切らすなよ♪」
――トンッ……。〝白絵〟が小さく跳んだ。
「 蹴り飛ばすよ 」
――回し蹴りが顔面に叩き込まれた。
「――ッッッッッッッッッ……!」
俺は堪らず吹っ飛び、コロシアムの壁に叩き付けられた。
ヤバい!
これは重い!
……意識が飛
――パンッッッ……! 俺は自分の頬を叩いて無理矢理意識を保った。
(……落ち着け、タツタ)
俺は軋む身体を無理矢理起こした。
(……折れるな! 気持ちだけでも負けちゃいけないだろ!)
――深呼吸を一回。
「 よしっ……! 」
空 門 の 呼 吸
――50パーセント……!
……俺の魔力が極限まで高まった。
(……この勝負、絶対に負けられないんだよ!)
――ドッッッッッ……! 俺は圧倒的な初速で飛び出した。
光 の 射 手
――白い閃光が俺を迎え撃つ。
「 邪魔だァ……! 」
――ガッッッッッッッッッッッ……!
俺は素手で迫り来る〝光の射手〟を弾き、減速せずに〝白絵〟との間合いを制圧する。
「――♪」
「うおおォォォォォォォォォォォォッッッ……!」
……その距離―― 一メートル!
――俺の拳骨が〝白絵〟の頬に、〝白絵〟の拳骨が俺の頬に叩き込まれた。
「――♪」
「――ッ!」
次 の 瞬 間 。
――二人は反対方向へ弾かれ、コロシアムの壁に叩き付けられる。
舞い上がる粉塵。
飛び散る礫。
僅かな沈黙。
――ドッッッッッッッッッッッ……! 二人同時に、粉塵から飛び出した。
……最早、滅茶苦茶だった。
俺が殴り、〝白絵〟が殴り、吹っ飛んだり、地面に叩き付けられたり、コロシアムを破壊したりした。
身体の節々が悲鳴を上げても、大量の血を流しても、殴り続けた。
勝 利 。
……そのたった二文字を手に入れる為に、無理矢理でも身体を動かし続けた。
……しかし、限界は唐突に訪れる。
「――」
……身体が地に落ちた。
……指一つ動かなかった。
「……限界のようだね」
〝白絵〟が見下ろして、そう宣告した。
(……限界?)
理解できなかった。
心は戦いたがっているのに身体はそれを無視していた。
(……動けよ)
……動かない。
(……動けったら、動けよ)
……指一つ動かない。
限 界 。
……それが現実であった。
(……ふざけるなよ。こんなところで諦める訳にはいかねェんだよ)
俺は最後の悪足掻きで〝空門の呼吸〟を発動した。
――60パーセント
……指が動いた。
――70パーセント
……腕が動いた。
――80パーセント
……起き上がれた。
「……まだ動けたんだ」
〝白絵〟がまだまだ終わらない死闘に笑みを溢した。
「いや、お前……タツタじゃないね」
〝白絵〟の笑みが消えた。
――90パーセント
……完全に身体の主導権を奪われた。
「そうだ、俺はタツタじゃない」
――100パーセント
……俺の意識は完全に途絶えた。
「 〝空門〟だ……! 」
……久し振りの覚醒に、俺は歓喜の笑みを溢した。




