第19話 『 アークウィザード 』
「……道に迷った」
……魔物の群に襲われるも、〝火龍装填・紅蓮斬華〟の覚醒によって窮地を乗り切った俺とフレイであるが、現在、見事に迷子中であった。
地図とか全部ギルドが管理していたのが仇になったのだ。
「まっ、歩いていればいつかはたどり着くだろ」
「そうですねー」
……そして、現実逃避をする俺とフレイ。
……………………。
…………。
……。
――一週間後。
「……俺たち一生この森から出られないんだ」
「……出られないんですー」
「もう、俺たちは死ぬんだ」
「……死ぬんですー」
……俺たちの心はすっかり折れていた。現実逃避をする心の余裕すら無かった。
歩いても歩いても、森! 森! 森! ……これで萎えないわけがない。
一応、魚系の魔物や鹿や兎の魔物を捕まえて、丸焼きにして食い繋いでいるがストレスと肉体的疲労はピークに達していた。
「そうだ!」
そこで俺は閃いた。
「……何……ですか?」
……フレイが弱々しく訊ねた。
「〝火龍装填・紅蓮斬華〟で森を焼き払えば、ノスタル大陸まで行けるんじゃないか?」
「……!?」
俺の天才的発想にフレイが目を見開いた。
「……天才……です!?」
よしっ、フレイも賛成してくれたみたいだし、早速実行するぜ……!
「 ……って、駄目に決まってるじゃないですか!? 」
――聞き覚えの無い声に止められた。
「……えっ?」
声のする方向へ振り向いた俺は戸惑いの声を溢した。何故ならそいつの顔は――……。
「 ギルド? 」
……に、瓜二つだったからだ。
「違います」
ギルドに瓜二つの少女が嫌そうな顔をして、即答した。
「あたしは姉のギルドではありません」
……姉?
そこで俺はギルドと出会った頃の会話を思い出した。
――わたしにはたった一人、妹がいるんです
――名前は――……。
「 アークウィザード 」
……ギルドと瓜二つの少女がはっきりとした口調でそう言った。
「魔王、〝白絵〟様に次ぐ魔王軍No.2――〝黒魔女〟です」
……………………。
…………。
……。
「初めまして、タツタさん」
……アークウィザードは親しげにお辞儀をした。
「と、可愛らしい妖精さん」
「……あっ、こちらこそ」
可愛らしいと言われて頬を染めるフレイ……満更でも無いようだ。
「それで、アークウィザード」
「……名前長いですよね、そちらの不都合がなければアークで構いません」
……じゃあ、お言葉に甘えるか。
「それでアーク。聞きたいことがあるんだ」
「いいですよ。答えられることであれば何でも答えます」
そうなの?
「じゃあ、スリーサイズを教えてくれ」
俺はギルド並の巨乳をガン見しながら訊ねた。気になったので。
「えーと、スリーサイズは上から8――はえっ!?」
危うく答えそうになるアーク。
「無理です! 駄目です! 許してください! それは言えません!」
顔を真っ赤にして胸を腕で隠すアーク……何だ、意外に萌えキャラじゃないか。
「でも! さっき! 何でも答えるって! 言ったよね!」
……取り敢えずごり押した。
「ひぇー、許してください! 許してください!」
アークが涙目で懇願した……何だ、この嗜虐心を煽る可愛い生物。
「スリーサイズ! はい! スリーサイズ! はい!」
「ひぇー、許してくださいー!」
「 不潔です! 」
……バシッ、フレイに頭叩かれた。やり過ぎた、反省したよ、少しだけ。
「まあ、冗談はさておき」
……本当は冗談じゃないけど。
「聞きたいことがある」
俺は真剣な顔をした。これから真面目な話をするからだ。
「俺は知りたいんだ、ギルドのこと」
「……」
その名前を聞いたアークは冷たい眼差しになった。
「だから教えてほしい」
俺は真っ直ぐ、アークを見据えた。
「あんたとギルドの間に何があったのか」
「……」
俺の質問にアークは少し考えた。考えて、ゆっくりと漆黒のナイトドレスのジッパーに手を伸ばした。
「わかりました、話します」
そして、そのジッパーをゆっくりと下ろした。
「 でも、その前に 」
……見て頂きたいものがあります。とアークが言った。
「……っ!」
「……っ!」
――目の前にさらけ出されたアークの肢体を目にした俺とフレイが絶句した。
「……驚きましたか?」
「……そりゃ、驚くさ」
なんせ、アークの胴の半分は赤く、歪に捩れ、最早人の形を留めていなかったからだ。
「 あたしは〝魔人〟でした 」
……アークは悲しみを帯びた瞳でそう答えたのであった。