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 第227話 『 デートINデートINデート 』



 ――修羅場。


 ……それは古今東西いつでもどこでも起こり得る避けられない事象である。

 一般的には苛酷な戦いの意味に使われるが一部では恋愛のもつれの表現としても使われている。

 そして、現在。俺、空上龍太の目の前でそれは繰り広げられていた。

 正確には俺の右と左と後ろであるが……。


 「あっ、〝水〟さん。ちょっとくっつき過ぎじゃないかな」

 「おチビちゃんこそその無駄にデカイ乳、押し付け過ぎじゃない?」

 「……うぅー、タツタくん」


 右腕は〝水〟がガッチリとホールドし、左腕はクリスがガッチリとホールド(谷間で)、ドロシーが捨て犬の如く悲しげに俺の服の裾を引っ張った。


 (……なんじゃこりゃ!)


 ……当事者の俺ですら意味不明であった。


 「ねえ、タツタくん。一緒に露天風呂に行かない?」

 「お祭りなのに!?」


 ……流石、〝水神〟の〝水〟。とことん水場が好きなのは伝わった。


 「……あの、わたし。タツタさんと一緒にお洋服を買いに行きたいなぁ」

 「……服か」


 ……クリスには悪いがあまり乗り気じゃないな。


 「……新しい水着買おうかなってと思って(ぼそっ」

 「いいんじゃないか!」


 ……男の子なので。


 「……あのっ、私と一緒に……あっ、やっぱり何でもありません」


 ……もうちょい頑張れよ!


 「よし、じゃあ皆で水着を買って、その後水着で混浴だ!」


 ……取り敢えず混ぜてみた。


 「……有り、かな?」

 「……いいと思う」

 「……えっと、お供します」


 ……何だかんだ了承を得て、俺達は水着を買いに服屋へ向かった。


↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓


 「……タツタさん、どうかな?」


 ……一番先に試着を始めたクリスが一番先にお披露目する。


 「……おっ、おう。いいんじゃないか」

 「もー、ちゃんと見てほしいな」

 「……うっ」


 クリスの水着は依然のひらひら系から布面積を少なくした桃色のビキニになっていた。


 「てか、何だよ! その猫耳と首輪と尻尾!」

 「タツタさんが好きかなーって思って、オプションで付けて貰ったんだよ」


 クリスは猫耳に鈴の付いた首輪に猫の尻尾を着けていた。


 (ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……!)


 油断するといかがわしい妄想で脳内を侵される。


 「タツタさんの猫じゃらしで一緒にエッチな遊びとかしたいにゃあ♡」


 ……とか言いそうだよ! 言わないけど!


 「ほら、もっとちゃんと見て欲しいな。特に水着の生地とかも特殊なんだよ」


 クリスが谷間を見せつけるように詰め寄ってくる。


 「へっ、へぇー」


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……!


 「……触って、みる?」

 「うわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわっ……!」


 エマージェーシー! エマージェーシー! 誰か助けて!


 「「 ちょーと! 何やっているんですかぁ! 」」


 ――〝水〟とドロシー、二人同時に試着室から飛び出した。


 ……た、助かった。


 クリスは「あと少しだったのにー」と頬を膨らませ、ひょいと俺から離れた。


 「……お前らも着替え終わったのか」


 俺は落ち着いて二人の水着姿を眺めた。

 〝水〟は派手色な花柄ビキニでドロシーは以前のマイクロビキニに比べて布面積の広いパレオであった。


 「おっ、普通にいいんじゃないか」


 ……クリスのインパクトがでか過ぎて、どっちも魅力的ではあったが印象としては薄かった。


 「普通!?」

 「さっきと反応が全然違います!」


 俺の感想に二人は不服そうであった。


 「ふふふっ」


 ……こっそりどや顔で笑うクリス。


 「このマセガキがーーーッ!」


 キレる〝水〟。


 「タツタくん! もしかしてロリがいいんですか! ロリコンですか!」


 俺に詰め寄るドロシー。


 ……この数秒後、うるさすぎると店員に怒られた。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……露天風呂、か」


 俺は石畳を踏み締め、独り呟いた。

 今思えば、こんな大きな風呂に入るのはノスタル大陸で〝灰色狼〟のアジトで風呂に入ったとき以来であった。


 (……クルツェ達は元気にしているのかな)


 当時、一緒に風呂に入って女湯を覗こうとした同志のことを思い出して、俺はちょっと思い出し笑いを溢した。


 「……てか、流石に誰もいないな」


 混浴は誰もいなかった。何故なら〝水〟が意外にも金持ちで、露天風呂を貸し切ってしまったからだ。ブルジョワすげェ。


 「さてと風呂に入る前にシャワーでも浴びるか」


 女性陣と比べて着替えに時間の掛からない俺は先にシャワーを浴びようとした。


 「 お待たせーッ! 」


 ……先陣を切って入ってきたのは〝水〟であった。


 「……待たせちゃったかな」

 「おっ、お待たせしました」


 続いてクリスとドロシーも露天風呂に入ってきた。


 「……」


 さっき見たとはいえ、やはり美少女三名の水着姿は圧巻であった。


 「じゃあ、身体洗うわ」


 今の海パン一丁という防御力1の格好では整理現象を容易く察知されてしまう為、俺は足早にシャワーの前まで移動した。


 「 あっ、背中流す? 」


 ―― 一番行動力のある〝水〟が提案する。


 「……いや、背中ぐらい一人で洗えるから大丈夫かな」


 正直、お願いしたいところであったが、これ以上は整理現象の我慢の限界であったので俺は丁重に断った。


 「遠慮しなくていいんだよ。ほら、座った座った」


 俺は無理矢理座らせられ、〝水〟が垢擦りに石鹸を擦り付けて泡立てる。速い。


 「ごーしごーし♪」


 〝水〟が有無を言わさず背中を擦り始める。


 「くぅ、先を越された!」


 悔しそうに唇を噛み締めるクリス。


 「あわあわあわあわっ」


 何かあわあわしてるドロシー。落ち着け、落ち着け。


 「力加減はどうかな? タツタくん」

 「あっ、ああ。いい感じかな」


 ソープ行ったことないけどソープみたいだ。行ったことないけど!


 「ねえ、タツタくん。何かエッチな感じしない?」

 「しねェよ!」


 ……嘘です。バリバリエッチィです。


 「 はい! 一分ーーーッ! 」


 ――クリスが垢擦りを〝水〟から奪い取った。


 「タツタさんの背中洗う権利は一人一分でーす!」

 「えぇー……!」


 ……何、その新ルール?


 「……次はわたしがやるね」


 クリスは奪い取った垢擦りで今度は腕を洗う。


 「……えっと、タツタさんの腕、硬くて太くて格好いいね」


 クリスが顔を紅潮させながらそう言う……わざと含みのある言い方してる?


 「手、伸ばしてもらっていいかな?」

 「おっ、おう」


 クリスは腋の下まで丁寧に洗ってくれる。


 「うんしょ、うんしょ」

 「……」


 ……何だろう。この十歳かそこらの少女に身体を洗われているというこの背徳感。


 ――むにっ♡


 ……あれ? 何だこの掌に感じる柔らかい感触。


 「やあん♡ タツタさんったら大胆かも♡」


 ……俺はクリスの胸を揉んでいた。


 「 何で!? 」


 揉んだ当人である俺が驚愕した。

 俺は咄嗟にクリスの胸から手を離す。


 「何勝手に胸に手を誘導しているんだよ!」


 勿論犯人はクリスであり、流石の俺もちょっと怒った。


 「でも、タツタさん喜んでいるんじゃないの? 顔にやけてるし……」

 「にやけてねぇし!」


 ……嘘です。ちょっとにやけてました。

 クリスはにやにやしながら俺の横に回り込み、こそっと耳に口を寄せた。あと、ちょっと肩に胸が乗っていた。


 「 もっと揉んでもいいいよ♡(ぼそっ 」


 「~~~~~~~ッ!」


 俺は思わず赤面した。面目無い。


 「 一分ですッッッ……! 」


 ――ドロシーが俺とクリスの間に割り込み、制止の声を上げた。


 「……残念」


 クリスが肩を落としながら俺から離れた。


 「つっ、つつ次は私の番です!」


 ドロシーが赤面しながら垢擦りを握った。


 「……無理はしなくていいぞ」


 ……何か倒れそうだったので。


 「いえ! 命に代えてもやり遂げます!」

 「何そのやる気!」


 ……ちょっと恐い。


 「では、しっ、失礼します」


 ドロシーが俺の前側の方を洗い始めた。正直、前だと目のやり場に困った。


 「ちっ、力加減は大丈夫ですか?」

 「ああ、いい感じだよ」


 ……何だろう。さっきの二人には無い恥ずかしさがドロシーの洗体にはあった。


 「うんしょ、うんしょ」

 「……」


 一生懸命洗ってくれるドロシーとなるべくドロシーの胸元を見ないようにする俺。


 「「 はい! 一分ーーーッ! 」」


 ――後ろからタイムアップの宣告がなされる。


 「はわっ! わっ!」


 いきなり大きな声を出された為、ドロシーの手元が滑る。


 ――むぎゅつ!?


 ……ドロシーが俺のあれを掴んでしまう。


 「うわっ!?」

 「~~~~~~~~っ!」


 思わず飛び上がってしまう俺と悶絶するドロシー。


 「すっ、すみません! すみません!」

 「まっ、まあ気にするなよ」


 全力で謝るドロシーを俺はなだめた。


 (……にしても、いきなり握られるとはビックリした)


 事故とはいえ、俺の心臓はドキドキしっぱなしであった。


 「じゃあ、次は下を洗おっか」

 「いや、流石にそれはやめよう!」


 下まで洗おうとする〝水〟を全力で止めて、俺はさっさと下半身も洗って、湯船に飛び込んだ。危ない、危ない。


 「あー、いい湯だなー」

 「そうだねー」

 「……温かいかも」

 「……まさかあんなに大きいなんて(ブツブツ」



 ……それから普通に(とはいえ三人娘はバチバチであったが)露天風呂を満喫して、俺達は無事宿に戻ったのであった。

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