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  第17話 『 火龍烈伝 ~憑依抜刀~ 』



 「フレイッ、危ない……っ!」


 ――俺は駆け出し、フレイを抱き抱えて、地面を転がった。


 ……その直後。


 ――ドゴォォォォォンッ! フレイがつい先程まで居た場所に巨大な斧が振り下ろされた。


 「……クソ、最悪だ」


 俺はSOCを抜刀して、目の前の敵と向き合った。

 敵は魔物一匹。確か、キングミノタウロスだったかな。レベルは――……。


  1  3  5


 ……クソッたれ。

 俺のレベルはLv.132。平均Lv.140の暗黒大陸だから覚悟していたが、当たり前のように格上だな。


 「でも、やれる」


 ……そうだ。この世界はレベルが全てではない。レベルはあくまで基準であって実力そのものではない筈だ。

 このLv.135のキングミノタウロスとLv.100の〝ファイアゴーレム〟とが戦い合えば恐らく〝FG〟の方が勝つであろう。

 それは〝FG〟の火力・耐久力はLv.100のそれとは比べ物にならないものであったからだ。

 故に、俺は〝極黒の侵略者〟を使って初めて勝てたのだ。

 だから、俺はキングミノタウロスぐらいには辛うじて勝てる筈である。

 ……しかし、敵はキングミノタウロスだけではない。

 ここは暗黒大陸、魔物の数ならどの大陸よりも勝っていた。だから、一匹一匹を相手にしているわけにはいかない。


 「フレイ、逃げるぞ……!」


 だから、逃げるのだ。


 〝特異ス キ 〟 、 オーバーロック !


 この、


   極   黒   の


       侵   略   者


 ……〝ブラックイン〟で。


 『――ブモッ?』


 ――一面が暗闇に呑まれ、キングミノタウロスは戸惑いの声を溢した。

 その隙に俺はフレイの手を引いて駆け出した。

 大丈夫だ。相手はただの獣だ――〝からす〟ではない。ならば、視覚さえ封じてしまいさえすれば俺たちを捉えることはできない筈だ。

 俺とフレイは茂みをかき分け、キングミノタウロスから逃げる。


 「奴はっ?」


 俺は後ろを振り向いて、キングミノタウロスの同行を窺った。

 ……俺の予想通り、キングミノタウロスは俺たちを追ってくることは無かった。

 これは視界を封じられたからという理由だけではななく、もう一つ大きな訳があった。

 それは、キングミノタウロスが俺たちを攻撃したのではなく、奴らの縄張りに無断で入ってきた〝侵入者〟を攻撃したのだ。

 〝からす〟はフレイを手に入れるという目的があったから、どんなに逃げても追い掛けてきたのだ。

 しかし、キングミノタウロスはただ縄張りに無断で入ってきた〝侵入者〟を退治する為に攻撃したのだ。故に、逃げる〝侵入者〟を追い掛けるといった行動をする必要がないのだ。


 「いける」


 この手なら大抵の魔物を撒くことができる筈だ。


 ――いや、油断は禁物だ。


 「フレイっ!」

 「――えっ?」


 俺はフレイを抱えて、今度は左の方へ跳んだ。次の瞬間――……。


 ――ドクロマークの模様を尻に描いた巨大な蜘蛛がつい先程まで俺たちがいた場所に降ってきた。


 「……怪我はないか、フレイ」

 「えっと、わたしは大丈夫です。その、ありがとうございます」


 ……良かった。フレイは大丈夫そうだな。


 「……ドクロ大蜘蛛、か」


 ドクロ大蜘蛛が俺たちに威嚇の体勢を取っていた。


 「フレイ、あいつの糸には気をつけろ」


 俺はドクロ大蜘蛛の尻から伸びる紫色の糸を顎で差して、フレイに忠告した。


 「粘性は勿論、強い毒性があ――……!?」


 俺は途中で言葉を切った。何故なら、ドクロ大蜘蛛がこちらに尻を向けていたからだ。


 「来るぞっ!? かわせっ……!」


 俺が叫んだ――そのとき。


 ――ドクロ大蜘蛛の尻から、紫色の糸がレーザービームのように俺たちに向けて伸びてきた。


 「速いっ!」


 しかし、予備動作が大きかったこともあり、俺とフレイは辛うじて紫色の糸をかわすことができた。


 「よしっ、逃げるぞ。フレ――……!?」


 ――紫色の糸が俺たちの後ろに立つ木に貼りついた。


 し く じ っ た 。


 ……紫色の糸がビィンと張る。


 ドクロ大蜘蛛の八本の脚が地面から離れる。


 紫色の糸が一挙に収縮する。



 ――ドクロ大蜘蛛が新幹線のような速さで突っ込んできた。



 ……あっ、これ。

      かわせないやつだ。


 ――直撃。俺は勢いよく吹っ飛ばされた。


 「――かはっ!」

 「タツタさんっ!?」


 ……速かった。重かった。俺にできたのは咄嗟にフレイを突き飛ばして、ドクロ大蜘蛛の突進を当たらないようにしたことぐらいであった。

 ドクロ大蜘蛛は着地・ブレーキをかけ、俺は地面に叩きつけられ、二転三転と転がった。


 「タツタさんっ、返事をしてください、タツタさんっ……!」


 フレイが涙を流しながら、俺の名を何度も叫んだ。


 「……大丈夫、だ」


 ……クソッ、もう少し大丈夫そうに言えなかったのか、俺よ。見ろ、フレイが不安そうな顔をしているじゃないか!

 だから、笑え!

 フレイを不安にさせないように笑え!


 「大丈夫だ! フレイ!」


 ……よし、今度はちゃんと言えた。


 「タツタさんっ!?」


 フレイが叫んだ。

 すうぅ……、と巨大な影が差した。

 俺は素早く後ろを向いた。


 そ こ に は ?


 ――キングミノタウロスを巨大な斧を振り上げていた。


 「あっ、ヤバい」


 ――逃げ出そうとした脚が動かなかった。


 「さっきの攻撃で脚傷めて動かねェ」

 「タツタさ



 ――ズドンッッッ……! 周囲の木々が揺れるほどの勢いで斧が振り下ろされた。



 「――ッッッ!」


 俺は咄嗟にSOCで受け止めたものの支えきれず、肩を切り裂かれ、地面に叩きつけられた。

 ……ヤバい。このレベルのダメージは〝FG〟と戦ったとき以来だな。

 にしても、コイツら次から次へと出てきやがって、数が多すぎて凌ぎぎれねェよ。


 「……またかよ」


 ――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!


 ……今度は何かが木々を押し倒し、地面を抉る音が響き渡った。


 ――ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!


 そして、姿を見せる。


 「……クソッたれ」


 ……高速回転で木々を薙ぎ倒し、地面を抉る巨大なダンゴムシ――キラーロードローラーが。


 「……おい」


 しかし、問題はそこではない。


 「ふざけんな」


 そのキラーロードローラーが向かっている方向。そこは――……。


 「逃げろッ! フレイッッッ……!」


 ……フレイのいる方向だ。


 「……えっ?」


 ――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!


 キラーロードローラーは高速回転をしながらフレイの下へと一直線に突き進む。


 ――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!


 遮る木々も、岩も関係ない。キラーロードローラーは目の前の全てを破壊して、フレイ目掛けて突き進む。


 「……動け」


 ……じゃないとフレイがキラーロードローラーに潰されちまう。


 「……動けよ」


 ……じゃないとフレイが死んじまう。


 「 身体 」


 ……だから、歯を食いしばれ!


 「 動けェェェェェェェェェェェェェェェェッッッ……! 」


 ……だから、走れ!









 ――ドッッッッッッ……。鈍くて、重い音が森に響いた。


 「……………………タツタ、さん?」


 ……良かった、間に合った。フレイは潰れちゃいない、生きているぞ。


 「……何だ、フレ――あれ?」


 ……視界がぐらついた。


 「……頭……フラフラするぞ」


 ……足に力が入らない?


 「 そうか 」


 ……俺、ヤバいんだ。


 ドクロ大蜘蛛の突進、キングミノタウロスの一振り、キラーロードローラーの回転体当たり――それら全てを受けたんだ。

 平気な筈がなかった。


 ……眠いな。


 ……意識が朦朧とする。


 ……脚に力、入らねェ。


 ……遠くからフレイの声が聴こえる。


 ……死ぬのか?


 ……ああ、眠いな。


 ……きっと、今寝たら気持ちいいんだろうな。


 ……………………。

 …………。

 ……。



 お や す み な さ い 。



































 「 寝言は寝て言え、


        このクソニート 」



挿絵(By みてみん)


 ……俺は馬鹿か。こんなところで眠って言い訳ねェだろ。


 「……俺の背中にはフレイがいるんだよ」


 ……俺が今、逃げ出したらフレイは死ぬんだ。


 「……傷つけちゃいけねェ女がいるんだよ」


 ……それは絶対に許されないことで、そんなことになっちまったら俺は俺自身を絶対に許さない。


 「だから、戦うんだ」


 ……戦え。


 「戦うんだよ……!」



     戦     え     !



 「 いつまで俺に乗ってんだ、クソダンゴムシ 」


 ――ガシッ、俺はキラーロードローラーを力強く抱き締めた。


 『ギギッ……』


 ……呻く、キラーロードローラー。

 俺は更にキツく締め上げる。どんどん締め上げる。


 『……ギッ……ギギッ……ギギッ』


 ……締め上げる!


 「 潰すぞ 」


 ――バシュッッッ……! キラーロードローラーが俺の締め上げに耐えきれず、肉片と体液を撒き散らし、絶命した。


 俺はキラーロードローラーを投げ捨て周囲を見渡した。


 「……」


 ……そこにはおびただしい数の魔物の群れがいた。


 (……多いな)


 目の前に立ちはだかる敵の数に俺は絶望した。


 「……だが、逃げる訳にはいかないんだよ」


 俺はこんなところで死ぬわけにはいかないし、フレイだって見捨てたくない。

 全部守るし、全部手離さない。


 「フレイは俺が守るんだ……!」


 俺はフレイをふと見た。


 ……そのときだ。



 「 〝SOC〟は精霊憑依の剣だよ 」



 ――〝白絵〟の言葉が脳裏を過った。


 「…………タツタさん?」


 急に固まった俺にフレイが怪訝そうにこちらを見た。


 「……フレイ」

 「何ですか?」


 ……今の俺は弱い。


 「この最悪な状況を何とかする」


 ……身体だって満身創痍だ。


 「 だから 」


 ……だから?



 「 俺に力を貸してくれ 」



 ……希望。それは、俺たちの手のひらの上にある唯一の光であった。


 「……」


 俺の頼みにフレイは真剣な顔をした。


 「そんなの、答えは一つしかないじゃないですか」


 そして、フレイは不敵に笑った。



 「 喜んで 」



 ……交渉成立だ。


 「……覚悟はいいか、てめェら」


 ……それは力の解放。


 「これが俺とフレイ――二人の力だ」


 ……解き放たれるは火の精霊――〝フレイチェル〟の真の力。


 「 その目に焼きつけろ 」


 ……準備はいいか、フレイ。


 「 そして 」



   ひょい      ばっ   とう



 「 怯え、驚き、油断を捨てな 」





    りゅう  そう  てん



          れん  ざん  





 「 火傷するぜ 」



 ……巨大な火柱が立ち上がった。


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