第211話 『 本選‐第一回戦 』
「 それでは選手の皆様、コロシアムの中央にお集まりくださーい! 」
……トラ子のアナウンスにより、俺を含めた八名がコロシアムの中央に集まった。
「それでは選手の紹介をさせて戴きます!」
――バッ、トラ子が手を投げ出す。その先には俺がいた。
「 予選Aグループの覇者――カラアゲタツタァァァァァァァ……! 」
……何これ恥ずかしい!
大観衆の前で晒し者にされ、俺の羞恥心が悲鳴をあげた。
「予選では昨年度準優勝者、ジル=シュタイン選手を瞬殺! その実力は未知数! 今大会の台風の目! 果たして、タツタ選手はどこまでこの大会を盛り上げてくれるでしょうか!」
「……」
……うん、これ悪くないかも。
何と言うべきか、普通に嬉しい。
「続いてBグループ代表――カノン=スカーレットォォォォォォ……!」
今度はカノンに視線が集まった。
「おおっと! カノン選手について速報が! なんとなんと! カノン選手は男! こんな可愛い顔して男なのであります!」
「……」
↑ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
メッチャ怒ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!
カノンから負のオーラが漂っていた。
「続きまして――……」
……えっ! カノンの紹介もう終わり! 女顔ってところしか触れてないんだけど!
「〝紙刃〟の〝糸氏〟ィィィィィィ……! 紙を媒体とした戦闘スタイルはまさに変則自在! そして、謎の仮面! 〝糸氏〟選手の正体は如何に!」
〝糸氏〟はアナウンスなど目もくれず、こちらの方を睨んでいた。
(……殺りたくてうずうずしているみたいだな)
〝糸氏〟の刺々しい殺意がこちらにまで届いていた。
「つ・づ・き・ま・し・て♡ 本大会の大本命にして三回連続優勝者! 〝光帝〟――ゼノ=ヴァルトォォォォォォ……!」
――ワッ、会場から歓声が響き渡った。
「やっほっほー」
意外に親しみやすい雰囲気のゼノが観衆に手を振った。
「……」
いや、気が抜けているようで隙がない。一見だけでは断言できないが実力はかなりのものと言えよう。
「続きまして、今大会のダークホースにして、Eグループの覇者――バタフライ仮面ッッッ……!」
「おっはろーん♪ ヨロシクね☆」
トラ子の紹介と共にバタフライ仮面がセクシーポーズをとってウィンクした。
「……」
……エロいな。
バタフライ仮面はほぼ下着のような薄着に加え、妖艶なプロモーションの持ち主で、俺は自然とその美貌に目を奪われた。
「……タツタさんの変態」
……俺の背後に立っていたギルドが機嫌を悪くした。
「違うんだ、ギル――……」
……俺がギルドに弁解しようとしたその瞬間。
「そして、予選Eグループを勝ち上がったのは――……」
――ざわっ、一瞬にして空気が凍りついた。
「魔王――〝白絵〟! 言わずも知れた最強魔導師! 果たして、その名を覆す者が現れるのでしょうか!」
〝白絵〟は退屈そうに欠伸を噛み殺した。
「……」
「……」
俺と〝白絵〟の視線が交差する。
俺は表情を引き締め、〝白絵〟はニコッと微笑した。
(……ヤバイな……勝てる気がしねェわ)
目が合っただけで直感的に悟ってしまう……〝白絵〟と俺の実力差ってやつを。
「そして、Fグループ!」
――ワッ……! 観客の男共が歓声を響かせた。
「 〝七つの大罪〟の〝色欲〟――リリア=マリアンヌゥゥゥゥゥゥゥッッッ……! 」
〝白絵〟と並ぶもう一人の〝七つの大罪〟が観客に手を振った。
……それは可憐で、
……一度視界に入れば忽ちに心を奪う、
……まさに、呪いの薔薇であった。
(……綺麗だ)
――だが、それ以上に。
……ただただ恐ろしかった。
(……これが〝七つの大罪〟か)
はっきり言って別格であった。
(でも、簡単に負けてなんかしてやらねェ)
確かに、雷の精霊――〝アルマガンマ〟を仲間に入れたいというのもあるが、いつかは〝白絵〟や〝むかで〟ととも戦う可能性があるのだ。
ならば、同じ〝七つの大罪〟であるリリア=マリアンヌとの戦いから逃げては話にならないだろう。
「そして、最後は! パンドラ選手との激闘の末に本選へ勝ち上がったドS美少女!」
トラ子のアナウンスにより、大衆の視線がギルドへ注がれた。
「ギルド=ペトロギヌスゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ……!」
巻き上がる歓声にギルドは涼やかに手を振って応えた。
「ただ今を以て本選出場者がコロシアムに出揃いました! よって、これより〝雷帝武闘大会〟――本選を開始します!」
――ワッ! 歓声が響き渡った。
「それではまずは一回戦!」
俺は事前に配られたカードに視線を移した。
――C
……カードにはそれだけ書かれていた。
「Aグループの選手はバトルフィールドに残っていてください! 他の選手は待機位置に前進してください!」
このカードは対戦相手を決めるものであった。
C、ということはどうやら俺の試合は三回戦のようである。
俺はアナウンスの指示に従い、バトルフィールドを降りた。
(はたして、誰と誰が戦うんだろうな)
誰がどのカードを持っているか知ることはできなかったので、正直、誰と誰が戦うのかはわからなかった。
――ざわっ、コロシアムが静かにざわついた。
(……何だ、この静けさは)
不審に思った俺はバトルフィールドの方へ目を向ける。
「……嘘……だろ」
予想外の事態に、俺は動揺を口から溢した。
「対戦カードが出揃いましたので本選第一回戦を開始します!」
二人の強者がバトルフィールドに立ち、不敵に笑いあっていた。
「 〝白絵〟対リリア=マリアンヌ 」
……第一回戦、〝七つの大罪〟の〝傲慢〟と〝色欲〟の戦いが始まる。
「 Ready…… 」
トラ子が右手を高く挙げた。
「 fightッッッ……! 」
……そして、その手は勢いよく振り下ろされた。




