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  第16話 『 火龍烈伝 ~仲違いDays~ 』



 「……最悪だ」


 ……暗い暗い茂みの中、俺は嘆いた。


 「……不満です」


 ……暗い暗い茂みの中、フレイは嘆いた。

 ギルドとはぐれてしまった俺とフレイは二人っきりであり、大変気まずい空気を生成していた。

 しかし、幾ら暗黒空気を生成したってギルドがいない事実は変わらない。なので、少しは空気を温めようと俺は思った。


 「フレイ」

 「何ですか?」

 「……」

 「……何ですか?」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……あっ、すまん。やっぱ何でもない」

 「……はあ、そうですか」


 ……むっ、無理だーーーッ!


 元引きニートな俺に場を温められるトークスキルなどある筈が無いじゃないかーーー!

 ちくしょう、何でトークスキルじゃなくて、〝極黒の侵略者〟なんていう微妙なスキルしちゃったんだ、俺! トークスキルにすれば良かった……!

 俺は自身の話術の無さに嘆いた。

 ……てか、あれだな。何だろうこの気持ち。まるで、思春期の娘とのコミュニケーションに悩む父親のような心境じゃないか!

 俺は取り敢えず深呼吸した。

 深呼吸した後に思考の整理をした。

 ……思考の整理をした。

 ……思考の……整理をした。


 「……」






 ……むっ、無理だーーーッ!


 幾ら思考の整理をしたってまともな話題が思いつかないじゃないかーーー!


 「 無理して話振らなくてもいいですよ 」


 ……その台詞はフレイから発せられた。


 「沈んだ空気を温めようという気持ちは伝わりましたので」


 フレイの言葉は俺に向けられているが、頭はそっぽを向いていた。


 「えっと、その」


 顔はそっぽを向いていて見ることはできなかったが、ほんのり耳が赤くなっていた……もしかして、照れているのか?


 「……ありがとう……ございます」

 「……どうも」


 ……何だ、コイツ結構可愛いとこあんじゃん。


 「今、一瞬馬鹿にしませんでしたか」

 「……別に」


 ……そして、以外に鋭いな。

 まあ、何だ。何だかんだいってフレイと仲良くやっていけそうな気がした。


 ……気がしただけだった。と後になって知ることになるのだが。



 「でーすーかーらー! 何で魚を焦がすんですかー!」


 ……腹ごしらえに魚を焼いた俺であったが、真っ黒焦げにしてしまい、フレイは文句ブーブーであった。


 「しっ、仕方ないだろ! 今まで料理はギルドがやっていたんだから!」


 ……まさか、ヒモ生活を続けていたそのツケが今になって回ってくるとはな。


 「だって、魚は生物なんだぞ!? ちゃんと焼かないと腹壊すかもしんないだろ!?」

 「だからって、こんなに丸焦げの魚なんて食べられないじゃないですか! ほんと、ギルドさんがいないと何にもできないんですから!」

 「むきゃーーー! 文句言うんだったら自分でやれーーー!」

 「わかりました! 焼きますよ、自分の分だけ……!」

 「ケチッ!」

 「何ですってーーー!」


 ……仲良くやる。ははっ、無理だったよ。

 俺はコミュ障ニートでコイツはクソガキ、上手くいく筈が無かった。

 俺たちはそっぽを向き合った。

 俺は焦げた魚をヤケクソ気味にかぶりつき、フレイは新しく魚を焼き直していた。


 「……仲直りって難しいな」


 俺は焦げた魚のジャリジャリした食感に苦しめられながら、そんなことを思った。

 フレイのことは嫌いじゃない。クソガキだがそれは俺に対してだけだし、それ以外では基本的にはいい奴だ。

 でも、フレイの方はたぶんそうじゃない。俺はあいつの居場所を奪った張本人なのだ。それはたとえ、新しい居場所を与えたって揺るがない事実であった。

 ……本当に人付き合いって難しいな。ここに来るまでニートだったから尚更そう思うよ。


 「 できた♪ 」


 ……後ろから声が聴こえた。どうやら魚が焼けたようだな。


 「さてと、俺より上手く焼けてなかったら笑ってやるか――って、うおっ!?」


 振り向き、フレイの焼いた魚を見た俺は思わず変な声を上げてしまった。

 「ふふん、どうですか」


 ――そこには最高の焼き加減で焼かれた焼き魚があった。


 ……何だ、あの絶妙な焼き目はァ!? まるで、スーパーとかの広告に載っている写真のようではないですか!?

 ……しかも、鼻腔を通り抜ける――芳ばしい香り!? よっ、涎が止まらねぇ~~~っ!


 「これ絶対旨いやつやーーーッ!」


 悔しさとか色んなものを吹き飛ばす最高の一品であった。

 ……くっ、食いてェ~~~~~ッ!

 しかし、さっき喧嘩した矢先、そんなことを言える筈もなく。俺はただただ目の前の焼き魚を眺めることしかできなかった。


 「モグモグ」


 フレイが焼き魚を頬張る。


 「……」


 俺がそれを恨めしそうに見つめる。


 「ごっくん」


 フレイが焼き魚を呑み込む。


 「……」


 俺がそれを恨めしそうに見つめる。


 「わっ、我ながら最高の出来です」


 フレイがその美味しさに感嘆の声を溢す。


 「……うっ……うっ……ぐすっ」


 ……俺は咽び泣く。


 「……」


 フレイが憐れみの眼差しを向ける。


 「……」


 フレイは二つある焼き魚を見つめて、

何を考え込む。


 「――ますか」


 ……そして、俺に何か言った。

 フレイは右手を俺に差し出した。その右手には――美味しそうに焼かれた焼き魚が握られていた。


 「……あの、わたし一人じゃ二匹も食べられないので一匹、貰っていただけますか」


 「……フレイ」

 やっぱり、どんなに喧嘩したって俺はフレイを嫌いになれないんだよな。

 ……きっと、フレイは俺のことが嫌いだ。何故なら、俺はあいつの居場所を奪った張本人だからだ。

 さっきだってそうだ。少し気を許したかと思えばすぐに喧嘩になってしまう。

 フレイは俺のことが嫌いだ。でも、それ以上にフレイは優しい奴なんだ。

 例え嫌いな奴でも、ついさっき喧嘩した奴でも、自分の居場所を奪った奴でも、お腹を空かせて困っていたら見捨てることのできないような奴なんだ。

 そう、フレイは心の優しい少女なんだ。


 ……だから、俺はコイツのことがこんなに好きなんだ。


 「ありがとな」

 「どういたしまして」


 俺はフレイから焼き魚を一本受け取った。

 ……これから、仲良くなれればいいな。俺はそう思った。


 「やっぱり旨いなっ、フレイは料理上手だな」

 「ありがとうございます。その、料理はギルドさんから教えてもらったんです」

 「そっか、なるほどなー」

 「それに得意なんです。焼くの」


 ……フレイは自信満々に続きを述べた。



 「 火の精霊だけに 」



 ……どや顔で。


 「……」


 沈黙する俺。


 「……」


 真顔になるフレイ。


 「……」


 沈黙する俺。


 「……(かあぁぁぁ)」


 みるみる赤面するフレイ。


 「……そうだな」


 俺はそう言って、フレイの頭にぽんっと手を乗せた。


 「火の精霊だもんな」


 俺はフレイの頭をクシャクシャと撫でた。


 「……はい、そうです」


 フレイは俯きながらも嬉しそうに微笑んだ。

 そうだな。

 そうだよ。

 何も難しいことなんて無いよな。

 少しずつ、一歩ずつでいいんだ。

 歩み寄ろう。

 ……この素直じゃなくて、ひねくれた、心の優しい少女に。


 「ははっ」


 俺は笑った。


 「ふふっ」


 フレイも笑った。


 ……そのときの俺達は、気づきもしなかったのだ。


 『 ブモッ 』



 巨大なミノタウロスが俺達のすぐ後ろに立っていたことに……。

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