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 第204話 『 想定外 』



 ……コロシアムの中央に夜凪が悠々と立っていた。


 「……大丈夫、夜凪ならきっと勝ち残れる筈だ」


 俺は盛り上がる観客席の中、小さく呟いた。


 「ユウくんファイトー!」

 「ユウさん……!」


 選手待機所からはギルド、観客席からはフレイが夜凪を応援する。


 「大丈ブイ!」


 夜凪は声援に対してVサインで返した。


 ……相変わらずなマイペースだ。まあ、ある意味安心かな。


 「これよりGグループの試合を開始します!」


 虎柄ビキニの美女(以下長いのでトラ子と呼ぶ)が順調に進行を進める。


 「 Ready…… 」


 ――ニヤリ、夜凪が笑った。


 「 fightッッッ……! 」


 ――夜凪の姿が消えた。



  次  の  瞬  間  。



 ――三倍は背丈があろう大男を蹴り飛ばした。


 「――ッッッッッッ……!」

 「まず、一人目♪」


 大男は弾丸のように弾かれリングアウトした。


 「このチビやべェぞっ!」

 「おい、お前ら囲んで殺るぞ!」


 最初から結託していたのか、五名の戦士が一斉に夜凪に襲い掛かった。


 「 遅いね♪ 」


 ――ドッッッッッッッッ……! 夜凪の拳骨が正面の男の溝内に叩き込まれた。


 「――ぐぽぁっ!」


 男は堪らず、唾と胃液を吐き出し、リングアウトした。


    同    時    。


 ――サーベルが振り下ろされる。


    同    時    。


 ――レイピアが突き放たれる。


    同    時    。


 ――大男がメリケンサックの拳を振りかぶる。



 「 パン 」



 ――パンッッッッッッッッッ……! 夜凪ば何かが破裂したかと勘違いするような猫だましをした。


 『 ―― 』


 ……一瞬の混乱。夜凪はその一瞬の隙に飛び出した。

 


 夜凪はサーベルの男を蹴飛ばし、その反動でレイピアの男に跳び蹴りを喰らわす。

 倒れ混むレイピアの男をメリケンサックの男目掛けて背負い投げをする。


 「……っ!」


 メリケンサックの男は突如飛来する仲間に動揺する。


 ――ニュッ、夜凪が投げられたレイピアの男の陰から飛び出した。


 そう、夜凪はレイピアの男を死角に、メリケンサックの男に迫ったのだ。


 ――ゴッッッッッ……! 夜凪に殴られ、メリケンサックの男は地面に叩きつけられた。


    同    時    。


 ――パパパパパパンッッッ……! 六つの銃声が鳴り響く。


 最後の一人が夜凪に拳銃を発砲したのだ。

 しかし、その弾丸が夜凪に届くことはなかった。


 「……高速六連射、ね。悪くないけど俺には通用しないよ♪」


 夜凪が拳を突き出し、掌を開放した。


 ――カランッ、コロンッ。六つの弾丸が地面を跳ねる。


 「 1・2・3・4・5・6……六発分返すよ 」


 夜凪がニコリと笑い、拳銃使いはヒッと小さな悲鳴を溢した。


 「 拳で 」


 ……拳銃使いは六発分殴られた。


 「……うん、大丈夫そうだな」


 最初は心配だったが、何と言うかまったくの杞憂であった。


 「……やっぱりヤナギくんは強いね」

 「ああ」


 カノンの呟きに俺は同意した。

 元〝KOSMOS〟ということもあり、純粋な戦闘力も高く、子供ながらの奔放さで動きの先が読めなかった。



 「 へえ、〝からす〟頑張っているじゃないか 」



 ――ゾクッッッ……! 背後からのプレッシャーに俺は思わず振り向いた。


 「半年振りかな、タツタくん」


 「 〝しゃち〟……! 」


 ……俺達の後ろに〝KOSMOS〟の一員である〝しゃち〟が座っていた。


 「……何しに来た」

 「試合観戦♪」


 ……本当かよ。


 「……」

 「……」


 俺と〝しゃち〟は無言で睨み合った。


 「……わかった。ゆっくり観戦すればいいさ」

 「そうさせてもらうよ♪」


 〝しゃち〟がご機嫌に俺の隣に腰掛けた……隣、座るのかよ。


 「〝からす〟といつから一緒にいるんだい?」

 「まだ一ヶ月ちょいぐらいだ」

 「……ふーん」


 〝しゃち〟がニヤニヤしながら夜凪の試合を観戦する。


 「 あいつ、弱くなったね 」


 ――〝しゃち〟の言葉に俺は思わず振り向いた。


 「昔に比べて刃に殺意が無い。あれじゃあ、誰も殺せない」

 「……」

 「それにほら、今も誰一人殺せてない」


 「 黙れよ 」


 「……」


 俺の言葉に〝しゃち〟は沈黙した。


 「お前が何年間あいつと一緒にいたか知らねェけどよ。俺は今の夜凪の方が好きだよ」

 「……」


 ……あいつは今も昔も普通の子供だったんだ。俺はそれを否定したくなかった。

 普通に笑った、普通にはしゃいで、人並みの悩みや不安を抱えた普通の子供なんだよ。


 「それに殺さない刃が殺す刃より弱いなんて道理は無いと思うぜ」

 「……そう」


 〝しゃち〟は優しげに微笑んだ。


 「馴染んでいるようで何よりだよ」


 ……その瞳はただただ優しげであった。


 「〝からす〟は天才だ。実力じゃ〝KOSMOS〟最弱だけど才能だけなら〝むかで〟にも劣らないものを持っている」


 ……何だ、そういうことか。


 「だから、どんなに馬鹿でも見捨てないでほしいな」


 ……コイツもただ夜凪のことが大好きなんだ。


 「当たり前だ」


 俺は〝しゃち〟から目を逸らし、再び夜凪の試合の観戦を再開する。



 「 おおっと! 遂にGグループの決着がつきましたァ! 」



 ……トラ子のアナウンスが会場に響き渡る。



 「 勝者はリリア=マリアンヌだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ……! 」



 ……えっ?


 「……夜凪は?」


 ……無傷の夜凪は悔しそうに俯いていた。


 (……いや、それよりリリア=マリアンヌ? どこかで聞いたことがあるような)

 「リリア=マリアンヌッ!?」


 隣に座るカノンがその名前に驚愕した。

 やはり、有名人のようであった……俺は覚えていないけど。


 「あの、〝七つの大罪〟の一人――〝色欲〟のリリア=マリアンヌなのか!」


 ――〝七つの大罪〟。


 ……それは〝白絵〟・〝むかで〟・グレゴリウス・ギガルド、といった大罪人の総称であり、その実力は〝魔将十絵〟や〝KOSMOS〟と互角、又はそれ以上のものであった。

 そして、俺達の目の前にその内の一人、〝色欲〟のリリア=マリアンヌが立ち、夜凪を打ち負かしたのだ。


 「……こりゃあ、とんでもないことになったな」


 〝白絵〟に〝糸氏〟に謎のバタフライ仮面に〝七つの大罪〟……どいつもこいつも化け物揃いじゃないか。

 果たして、俺やカノンはこの面子を相手に勝ち残れるのだろうか。

 俺とカノンは勝ち上がって、夜凪が負けて、残りは――……。


 「 ギルド 」


 ……そう、残る最後のグループにはギルドがいた。

 沢山の仲間が本選へ上がってくれた方が優勝の確率は高まる。だから、ギルドには勝ち上がって欲しかった。


 「……だけど、無茶だけはしないでくれよ」


 この大会は思っていたよりも危険なものであった。

 俺はただただギルドのことが心配だった。


 「 それでは予選最終グループ、Hグループ皆様、ステージへ御上がりください! 」


 ……トラ子のアナウンスがコロシアムに響き渡る。


 「……始まるのか」


 アナウンスに従い、ギルドを含めた24名がバトルフィールドに集結した。


 「揃いましたね! これよりHグループの試合を開始します!」


 トラ子は本日最後の試合のせいか、今まで以上のハイテンションでアナウンスをしていた。


 「……何だ、あれ?」


 観客席から試合を観戦していた俺は、バトルフィールドを見て首を傾げた。


 ……そこには二頭の歪な獣とタキシードに仮面を被った長身の男がいた。


 「……嫌な予感がするぜ」



 ……この試合。ギルドにとって忘れられない試合になるとは夢にも思わなかったのであった。

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