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 第200話 『 前哨戦 』



 ……スイの生首が宙を舞う。


 ……俺はその場から動けずにいる。


 「――ィ」


 ……スイの生首が地面に落ちる。


 「 スイッッッ……!? 」


 やっと動くことのできた俺はスイの生首の方へと駆け出した。



    同    時    。



 ――パシャンッ! スイの身体と生首が水飛沫となって弾け飛んだ。


 「――えっ?」


 ……水分身?


 「 まったく、いいところだったのに邪魔しないでよね 」


 ――スイの声が真後ろから聴こえた。


 「……ッ!」


 ……スイは俺の真後ろで、不機嫌そうに溜め息を吐いていた。



 気 づ か な か っ た 。



 ……それ程までに、彼女の〝絶法〟は完璧であった。


 「騙すようなことしてごめんね♪ ちょっち、タツタくんに興味が合って話してみたかっただけなんだ♪」

 「……えっ?」


 ……訳がわからなかった。


 「だけど、あたしがいなかったらタツタくんも殺されちゃってたから許してほしいな」

 「えっ? えっ?」


 ……俺が殺される?


 「……誰に?」


 「 〝魔将十絵〟 」


 「――」


 ――〝魔将十絵〟。


 ……魔王、〝白絵〟に服従を誓う十人の精鋭だ。

 その実力は確かなもので、一月前に戦った〝水由〟は、メンバーを総動員してやっと勝つことができたのだ。


 「いるんでしょ――……」


 スイの視線が夜空を見上げた。



 「 〝糸氏しし〟 」



 夜空には大きな満月と無数の星々、そして――……。


 「……鶴?」


 ……そう、巨大な折り紙の鶴が空を飛んでいた。


 「 まったく、お前はいつもワタシの邪魔ばかりするネ 」


 ……その鶴の上には男が一人立っていた。


 「 〝水〟 」


 鶴の上に立つ、東洋の着物に仮面を被った男がスイを睨み付けた。


 「知り合いか?」

 「うん、同僚みたいなものかな」

 「へえー、同僚かー」

 ………………………………………………………………………………………………………………。


 ……ん?


 「……同僚って、まさか?」


 「うん、タツタくんの想像する通りだよ」


 スイは少し歩き、振り返る。


 「 〝魔将十絵〟No.7――〝水神〟の〝水〟 」


 ……俺は驚愕のあまり言葉を失った。


 「 それがあたしの正体だよ♪ 」


 〝水〟はペロッと、悪戯っ子のように舌を出してウィンクをした。


 「……」

 「……」


 俺と〝水〟は向かい合い沈黙する。


 「もうっ、そんなに警戒しないでよ」

 「……そう、言われてもなー」


 何せ相手は〝魔将十絵〟だ。〝水由〟を倒した報復に来たって言われてもおかしくはないだろう。


 「ほんとに興味が合っただけなんだって……信じてくれないかな」

 「……うーん」


 〝水〟が懇願するように見つめてくる……狡いと思う。


 「まあ、いいかな」


 ……可愛いから流されちゃうんだよなぁ。


 「 だが 」


 ――白い斬撃が走る。


 ――俺は〝SOC〟を振り抜く。



 ――キィィィィィィィンッッッ……! 俺は背後から迫り来る凶刃を弾いた。



 「 てめェは別だ、お面野郎 」


 俺は〝糸氏〟の方を睨み付けた。


 「さっきから殺ってやろうって視線をびんびん感じるんだよ」

 「……」


 ――〝糸氏〟が無言で折り紙で作られた八つの手裏剣を放つ。


 「……紙を武器化する能力か」


 それが俺の推理であった。

 八つの手裏剣は全て俺に襲い掛かる。


 「そっちが殺る気なら――……」


  2  0  %  解  放


 「殺られ返されても文句ないよなァ……!」



  空  門  の  呼  吸



 ――俺は全ての手裏剣を叩き斬った。


   同    時    。


 ――死角から包帯のような細長い紙の刃が俺の横腹を狙う。


 「遅ェッ……!」


 俺は身を翻して回避する。


   同    時    。


 ――〝絶法〟で気配を消した最後の凶刃が俺の死角から襲い掛かる。


 「 視えてる 」


 ……俺の五感は最後の一撃を捉えていた。


 「 んだよっ……! 」


 ――背後から伸びる紙の斬撃を回避し、間髪容れずに半歩後ろに跳ぶ。



 ――ドッッッッッ……! 目と鼻先に紙の斬撃が突き抜け、地面に突き刺さった。



 「……視えていたのネ」

 「言ったろ、視えてるってな」


 ……これが〝空門の呼吸〟の力である。


 〝空門の呼吸〟による恩恵は三つある。

 一つ目は超身体能力と一流の剣術。

 二つ目は雷速を見切る超動体視力――〝止界しかい〟。

 三つ目はあらゆる不意打ちを感知する直感――〝第六感シックスセンス〟。


 「俺だって今まで死ぬ気でやってきたんだ」


 俺は〝糸氏〟を真っ直ぐに睨み付けた。


 「あんまり舐めてっと痛い目見るぜ!」

 「……殺す」


 ――〝糸氏〟の姿が折り紙の鶴から消えた。


 「――」


 ――俺の背後に回り込んだ〝糸氏〟が紙の刃を振りかぶる。


 「 死ネ 」


 ――俺は背後に〝SOC〟を振り抜く。













 「 はい、ここまで……♪ 」


 ……しかし、二つの刃が届くことはなかった。


 「今日はここまで、続きは大会でやろうか」


 ……俺も〝糸氏〟も四肢一つ動かせなかった。


 「……なっ、何でお前が!」

 「うん、久し振りだね。タツタ」


 俺と〝糸氏〟の四肢や刃に極細のワイヤーが絡みつき、身動き一つ取らせてくれなかった。



 「 〝白絵〟……! 」



 ……そう、魔王――〝白絵〟がそこにはいた。


 「さてと、二人共落ち着いたかな」


 〝白絵〟は手を叩いて俺と〝糸氏〟の間に割り込んだ。


 「悪いけど、二人には解散願おうか」


 ――パチンッ、〝白絵〟が指を鳴らすと、絡みついたワイヤーがほどけた。


 「続きなら明日以降にすればいい」

 「……明日?」

 「そう、〝雷帝武闘大会〟♪」


 俺と〝糸氏〟は二人共一歩下がり、戦う意思のないことを示す。


 「……お前達も出るのか?」

 「うん♪ 全員じゃないけど」

 「……」


 〝白絵〟はケタケタ笑った。


 「少しはやる気が出たかな?」

 「まあな」


 俺は〝SOC〟を納刀して、〝糸氏〟に背を向けた。


 「そんじゃあ、帰るわ」


 水を差されてしらけてしまった俺は、先に民宿の扉に手を伸ばす。


 「……あっ」


 しかし、その手は停止する。


 「言い忘れてた」


 俺は振り返り、〝糸氏〟を睨み付けた。


 「あんた、〝糸氏〟だとか言ったな」

 「ああ」


 仮面越しの殺意が俺の胸を締め付ける。それでも俺は怯まない。



 「 俺達はお前達には負けない 」



 ――俺と〝糸氏〟の視線が交差する。


 「それだけ言いたかった」


 言いたいことを言った俺は再び〝糸氏〟に背を向けた。


 「 カラアゲタツタ、と言ったネ? 」


 「……何だ?」


 俺は振り向かずに応えた。


 「ワタシは貴様を殺す、絶対に……!」


 ……〝糸氏〟の鋭い殺意が俺の背中に突き刺さる。


 「ああ、上等だ」


 俺はそれだけ言って、今度こそ宿の中へと入っていった。



 ……切られた啖呵と祭の喧騒、それは明日より始まる死闘の狼煙であった。


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