第15話 『 VS〝からす〟 』
「後悔するよ」
「させてみな」
……俺は〝SOC〟を構えて、〝からす〟に宣戦布告した。
さあ、
出番だ。
俺は心中で叫んだ。
〝 特異能力 〟 、 解放 !
……次の瞬間。
「……!?」
――世界が真っ黒に染まった。
極 黒 の
侵 略 者
「逃げるぞ! ギルド!」
俺はフレイを抱えて、〝からす〟とは反対方向へと駆け出した。
……〝からす〟は強い。
俺とギルドが束になったって勝てない。
――だから、戦わない。
……でも、フレイは見捨てられない。
――だから、逃げる。
この、〝極黒の侵略者〟で……。
俺は〝極黒の侵略者〟で空気を黒く染めたのだ。
しかも、黒く染めるのは俺から後ろだけであり、俺たちの進行方向には発動しない。
よって、俺たちは前が見えるが、〝からす〟には俺たちが見えない。
俺たちにも〝からす〟は見えないが、見えなくたって逃げることはできる。一方、追う方はターゲットが見えないと追えない。逃げる側の利点を生かさせてもらった。
俺はただ逃げながら、逃げた後を黒く染めるだけ、簡単な作業だ。
逃げるだけなら戦いではない。故に、タイマン限定の制約に引っ掛からないのだ。
「よしっ、これなら逃げられ
「 ないよ 」
……闇の中から声が聴こえた。奴の声だ。
俺は言葉を失った。
「足音が煩いよ」
……足音、だと。
「お前らまさか、俺から逃げられるとでも思った?」
「――」
……俺は絶句した。何故なら――……。
「 甘いね 」
……〝からす〟が俺たちの目の前にいたからだ。
「殺したくなるほどに」
斬撃一閃。俺を真っ二つに引き裂かんと振り下ろされる。
「あっ、ぶね!」
俺は咄嗟に〝SOC〟でその斬撃を受け止めた。
「あれ? 忘れたの?」
――間髪容れずに二つ目の斬撃が俺に襲い掛かった。
「俺は二刀流だよん」
「……っ!」
……殺られる! 俺がそう覚悟したときだ。
「 〝零距離爆破〟 」
――大爆発が全員を呑み込んだ。
俺も、フレイも、〝からす〟も、ギルドも全員吹っ飛ばされた。
「すみません、タツタさん、フレイちゃん」
……立ち込める粉塵の中からギルドの声が聴こえた。
「一点集中ではかわされるので、少し巻き込んでしまいました」
……威力は少し抑えました、とギルドは付け加えた。
いや、助かったぜ。危うく胴体と腰から下が分離するところだったからな。
……と、いけねえ。早く逃げねェと〝からす〟がいつ追い掛けてくるかわから
――轟ッッッ……! 突風が粉塵を吹き飛ばした。
「……やべえな、オイ」
俺は冷や汗を滴らせた。
「……いい加減苛ついてきたよ」
突風の中心には〝からす〟がいた。しかし、その威圧感は先程までとは別人であった。
「 〝闇黒双刃〟 」
……二本の刃は更に鋭くなり、
「 〝魔焔〟 」
……漆黒の巨刃を漆黒の焔が渦巻いた。
この威圧感、駄目だ! 桁違いだ!
俺とギルドじゃ逆立ちしたって勝てない。
だから、逃げるんだろ!
ほら、逃げろ! 逃げないと死ぬぞ!
……いや、逃げ切れるのか? こんな化け物相手に。
……その一文字が一瞬、俺の脳裏を過った。
それほどまでに奴と俺たちの力の差は歴然であった。
しかし、そんな中。たった一人、諦めの悪い奴が一人いた。
「すみませんが、あなたのターンは回ってきませんよ」
――ギルドだ。ギルドが地面に〝太陽の杖〟を当てていた。
「怒れ、
奮え、
我が惑星よ。
祖の恩赦を忘却れた
傲慢なる王に鉄槌を下せ」
……一瞬の静寂。
「 点火 」
地 龍 爆 衝
――轟ッッッッッ……! 地面が大爆発した。
「――!?」
……もう滅茶苦茶だった。敵も味方も関係無い、全てを吹っ飛ばした。
何て火力だ。人も、地面も宙へ吹っ飛ばしちまいやがった。
「 だが 」
……これだけじゃあ駄目だ。〝からす〟には傷一つつけられない。
俺は不意にギルドの方を見た。
「 大丈夫です☆ 」
……ギルドが笑った。
「これで倒そうなんて考えていませんから☆」
爆発の余韻も収まり、俺たちは地に落ちる……地? あれ、そんなものは俺たちの足下には見当たらないぞ。
「気づいていなかったようですがここは崖っぷち、地面をこんなに派手に破壊すれば当然――……」
落 ち ま す ☆
……落ちた。真っ逆さまに。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ……!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ……!」
俺とフレイは為す術も無く、崖の下に落ちた。
「わたしの記憶が間違っていなければ下には川が流れています」
ギルドも落ちているが至って平静であった。
「フレイちゃんを抱えて上手く着水してください、そうすれば気絶しても下流の方へ流される筈です」
……ファ!?
「大丈夫です、タツタさんにはLv.100以上の防御力がありますので死ぬことは無いでしょう」
……えっ? マジで!
「タツタさん」
……ああ、落ちる。
「フレイちゃん」
……落ちる。
「 御武運を 」
……ギルドが笑った。
――バッ シャァァァァァァン……!
……俺はフレイを抱えて、巨大な水柱を立てて川の中に落ちた。
……俺の意識はそこで途絶えた。
……………………。
…………。
……。
「 タツタさんっ! 」
……俺の意識は暗闇の中にあった。そこに俺を呼ぶ声が割り込んできた。
この声は――フレイ、か。
どうにか俺たちは〝からす〟から逃げ切れたようであった。
本当にギルドにはお世話になりっぱなしだな。
とにかく、ギルドに「ありがとう」と言おう。俺は上体を起こして、重い瞼を開いた。
「良かった。目を覚まされたんですね」
フレイが目元に涙を浮かべながら俺にしがみついた。
俺とフレイの身体は濡れており、脇には川が流れていた。
周囲を見渡すと木々生い茂っており、空には相も変わらず曇り空が広がっていた。
……しかし、何かが足りなかった
何か? そりゃ、一つしかないだろう。
「おい、フレイ」
俺のヒモパートナーで、
巨乳で天然な、
美少女魔導師。
「 ギルドはどこに行ったんだ? 」
……そう、ギルドがいなかった。どこにも、見当たらなかったのだ。